「黒バンパー」今、流行りのカスタマイズの源流はどこにある?
ソリッドベージュやグレーのボディカラーに、オフロードテイストのタイヤ&ホイールを装着。さらに、バンパーを黒にペイントして、レトロなスタイリングに仕上げる――。
ここ数年、このようなメニューで中古車をアウトドアテイストにリメイクするカスタマイズが流行しています。上の写真の「RAV4」のように、純正でもこうした仕様が用意されるほど。カスタマイズベースとなるのは主に1990年代~2000年代のクルマですが、カスタマイズ後の雰囲気は、それよりもさらに前の時代のクルマのようで、レトロスタイルとも言えます。
メタリックではなくソリッドのボディカラーもレトロさを感じさせる一因ですが、その雰囲気を決定づけているのは、「黒バンパー」でしょう。現代のクルマでも、SUVなどではボディカラーと黒いパーツとのコントラストで力強さを表現する例がありますが、かつては「バンパーといえば黒」という時代がありました。
バンパーの歴史が「黒」の意味を教えてくれる
もともとバンパー(bumper)は、衝撃からボディを守るために取り付けられた緩衝装置のこと。いわゆるクラシックカーを見てみれば、ボディを守るように金属製のバンパーが取り付けられていることがわかります。
戦前のクルマは、エンジンとタイヤが別々に覆われるような形状のボディを持っていましたが、空力性能や生産性の向上、そしてデザインの進化とともにボンネットやフェンダーが一体となった「ポンツーンボディ」が主流に。金属製のバンパーも、ボディと一体感のある形状になっていきます。
では、金属製バンパーが樹脂製の黒バンパーへと変化していったのはいつなのでしょう? 答えは1970年代です。
それ以前にも樹脂製のバンパーはありましたし、金属製バンパーの一部に樹脂パーツを装着する例もありました。しかし、樹脂製バンパーが主流になっていくのは、1970年代です。
金属から樹脂への置き換えには、軽量化やコスト改善、新たなデザインの追求といったさまざまな要因がありましたが、アメリカで衝突安全基準が厳しくなったこともあげられます。
簡単にいえば、「時速5マイル(時速約8㎞)で衝突してもボディに損傷を与えてはならない」といった内容で、そのために自動車メーカー各社は、それに対応する樹脂製のバンパーや樹脂製のオーバーライダー(バンパー装着緩衝材)を装着して対応したのです。これに対応したバンパーは、通称「5マイルバンパー」と呼ばれていました。
こうした理由から、1970年代に急速に樹脂製の黒バンパーが普及し、金属製のバンパーは徐々に姿を消していくこととなったのです。1980年ごろには、日本でもほとんどのクルマのバンパーが樹脂製になりました。
もちろん、すでにバンパーに色を塗ったカラーバンパー(ボディ同色バンパー)も登場しており、1970年に「セリカGT」が日本初のウレタン塗装バンパーを採用していますが、当時は上級グレードや高級車などに限られた特別なもので、無塗装・素材色の黒バンパーが一般的。
黒バンパーにシルバーやレッドのテープやモールを貼って、デザイン性を向上させた仕様も見られました。それだけ、「カラーバンパー=高級」だったわけです。
カラーバンパーの普及で黒バンパー車は減少
黒バンパーがカラーバンパーへと移行していくのは、1980年代。徐々にカラーバンパーの採用車種やグレードが増え、黒バンパーは“コストを抑えた廉価グレードのもの”という認識になっていきます。
そして、デザインの進化とともに、バンパーは「ボディを守る別パーツ」から「ボディの一部」となり、ボディと一体化。黒バンパーを採用する車種は、「ハイエースバン」など、一部の商用車に残るのみとなったのです。
ちなみに商用車で今も黒バンパーが残るのには、塗装コストを省く以外にも理由があります。それは、ぶつけたときに傷が目立たないこと。また、修理や交換時のコストを抑えられるメリットもあります。ダイハツの軽バン「ハイゼットカーゴ」は、あえてバンパーの一部を黒い樹脂製にすることで、その部分だけを安価に交換できるようにしています。
黒バンパーは新たなカスタマイズの選択肢
昨今のアウトドアカスタムは、1990年代~2000年代のクルマのバンパーを、あえて黒く塗装しています。そこで得られるレトロ感は、主に1980年代のものだったのです。
軽トラックすらボディ同色バンパーが当たり前になった今、黒バンパーが生み出すコントラストは新鮮。デジタル音楽が主流の中でアナログレコードの音を楽しむような、あるいは古着を採り入れてファッションの幅を広げるような、そんな感覚だと言えるでしょう。
20~30代の人たちには新しい、40代以上の人には懐かしい。それが、“黒バンパー”というアイテムであり、アウトドアやレトロといったライフスタイルを表現する新たなカスタマイズとなっているのです。
(文・編集:木谷宗義type-e+ノオト/写真:トヨタ自動車、TOYOTA USA、日産自動車、ダイハツ工業)
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