BBS鍛造ホイールが「MADE IN JAPAN」であるワケ

高品質な鍛造(たんぞう)ホイールを作るメーカーとして知られる「BBS:ビービーエス」。1970年にドイツで創業し、数多くのドイツ車に純正装着されただけでなく、モータースポーツシーンでも活躍してきた歴史を持つ由緒あるホイールメーカーです。

ドイツで生まれたメーカーのため、ホイールもドイツ製だと思われがちですが、実は鍛造ホイールは「MADE IN JAPAN」。しかも、BBSジャパンという日本の会社も存在しているとか? 一体どういうことなのでしょうか?

1970年代に名を馳せたレーシングチューナー

BBSの鍛造ホイールが「MADE IN JAPAN」である理由は、BBSの歴史を紐解くとわかります。

BBSの創業者のひとり、ハインリッヒ・バウムガルトナーは、1960年代にドイツのシルタッハに自動車整備、修理工場を開業しました。バウムガルトナーはレーシングチューナーとして名を馳せ、BMWのレーシングコンストラクターとしての役割を担うように。

そして、1970年に友人のクラウス・ブラントと自動車部品の製造を行う会社を立ち上げます。それが今に至るBBSの始まりです。BBSの名は、2人の名前と創業の地シルタッハの頭文字から名付けられたもの。

  • BBSが初めて手掛けた鋳造3ピースホイール

1973年には軽量、高剛性な3ピースレース用ホイールが完成。BBSの代名詞ともいえるメッシュデザインもこのとき生まれたもので、力学的合理性からバウムガルトナーが考案したものでした。

  • BBSのホイールはドイツのモータースポーツシーンで多くの勝利を手にした

BBSと富山にあるワシマイヤー社との出会い

BSSは高性能ホイールにより名を上げますが、1970年代後半に転機を迎えます。

熱で溶かしたアルミ合金を型に流し込んで製造する鋳造(ちゅうぞう)製法では、性能アップに限界があると感じ、アルミ合金に高い圧力をかけて成形する鍛造によるホイール製造を模索し始めたのです。しかし、鍛造でホイールのような複雑な形状を作るのは技術的に難しく、また小ロットの製造ではコスト面でも課題がありました。

  • ワシマイヤー社が鍛造により製造したビームフランジとBBSホイール

そこで出てくるのが日本の富山県にある企業、ワシマイヤー社です。高い鍛造技術や特許を持っていたワシマイヤー社は、「自社の技術を生かして製品を製造したい」という思いとともに、ドイツの工業製品、そしてBBSへの尊敬からBBSの鍛造ホイールを手掛けたいと考えていたと言います。

そして、BBSと交渉を開始。鍛造ホイールの可能性を模索していたBBSは、いくつかの日本企業から交渉を受けていましたが、最終的に高い技術力を持つワシマイヤー社と提携。1983年に日本BBS株式会社(現BBSジャパン)が発足し、1984年4月にアルミ鍛造3ピースホイールの「RS」が誕生しました。

  • 日本で製造されたBBS初の市販鍛造ホイール「RS」

以降、鋳造ホイールはドイツ、鍛造ホイールは日本の富山県で製造され、現在も続いています。また、日本では鍛造BBSホイールの製造と販売のすべてをBBSジャパンが担当しています。

日本とドイツのBBSそれぞれの関係

2023年現在、BBSは日本とドイツ、それぞれに別の会社として展開。両社はパートナーとして協力し合っている状況です。鋳造ホイールを製造しているドイツのBBSは、アフターパーツのホイールはもちろん、ドイツを始め各自動車メーカーに鋳造ホイールを納入しています。

また日本のBBSジャパンの子会社としてBBSモータースポーツが、ドイツに存在しています。BBSモータースポーツは2012年からBBSジャパンの子会社で、F1やNASCARといった、世界中のモータースポーツで採用されているBBSホイールは、このBBSモータースポーツが窓口となって開発しているものです。

日本で製造された鍛造剤をドイツに送り、BBSモータースポーツで切削加工を行って完成品に仕上げます。ドイツでの設計と日本での金型設計技術の両方があって世界のモータースポーツシーンを足元から支えているのです。

  • 富山県高岡市四日市にあるBBSの工場

一方、SUPER GTやインタープロトシリーズなど、日本国内でのモータースポーツで採用されているホイールに関してはBBSジャパンが窓口となっています。設計から完成まで全て日本で行われています。しかし、日本でのモータースポーツで使用されるホイールに関しても、ドイツのBBSモータースポーツから技術情報データを貰うような協力関係があるとのこと。

  • SUPER GT 300 SUBARU BRZ 61号車のBBSホイール

日本とドイツ、お互いの尊敬と歩み寄りがあって生まれたのが「MADE IN JAPAN」のBBSだったというわけ。

日本で培った鍛造技術と世界のモータースポーツシーンで得た経験を基に、難しいと言われてきたマグネシウム鍛造ホイールの市販化や超超ジュラルミン鍛造ホイールの実用化も日本の技術開発で実現しています。アルミ鍛造ホイールを実現したときと同じような困難に立ち向かうスピリットが、こうした課題をクリアしてきたのでしょう。「MADE IN JAPAN」の文字が、ことさら誇らしく感じます。

取材協力:BBSジャパン

(取材・文:西川昇吾/写真:BBSジャパン/編集:木谷宗義 type-e+ノオト)

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