トヨタ自動車のクルマ好き社員紹介 ― 自ら手がけたMARK X GRMN買っちゃいました!(前編) 水野陽一さん

今年、待ちに待った6速マニュアルミッション、100台限定のMARK X GRMN(http://grmn.gazooracing.com/Mark_X/)が発売になりました。既に完売していますが、その開発責任者でもありご自身でもご購入されたという、自称“セダンオタク”水野陽一さん。MARK X GRMN誕生秘話など、好奇心丸出しで丸ごと聞いて参りました。かなりお腹いっぱいです。

マークⅡの開発もされていたという水野さんですが、貴重なクルマ雑誌を持参してくださいました。以前は、開発者まで掲載してくれる雑誌が存在したそうで、これに載る事はうれしかったそうです。記念になりますね、お仕事と自分が活字で残るなんて。アラフォー、アラフィフのみなさん!クルマもヘアスタイルも懐かしいですね! それでは、どうぞ!

――――開発というお仕事が知識ゼロの私に、実際どのようにクルマが誕生するのか、ご教示ください!

市販車の開発はだいたい4年から6年かかります。 通常4年かな?4年で新車が出て来るでしょう?出たら、次のクルマへの出発点、開発期間となるのです。

フルモデルチェンジだと、新車購入時にいただく膨大なアンケートから、乗っているお客さんのヒアリングを参考にしたり、ディーラーさんの意見を参考にしデータ上でターゲットユーザーを決めて、それに向けてコンセプトの大元みたいなものを決めていきます。 例えば、今始めるとすると、2015年だから、2019年に新しいクルマを出すために、4年後のこのクルマは、こうなっていないといけない!と、今あるアイテムで、2019年に向けて作っていきます。今の装備をブラッシュアップしたり、電子部品を入れたりして、そろばんをはじいて、その値段で売れるのかと徐々に煮詰めていきます。

――――G’sやGRMNの場合はどうなのでしょう?

弊社の市販車の中からどれを開発するのかをセレクトするので、ターゲットユーザーとかは別です。GRMNのMARK Xの場合のお話をしますと、ターゲットユーザーは、普段MARK Xを買う人ではなく…、MARK Xを買いたい人でもなく…、ちょっと変わったMARK Xが欲しい!という人がターゲットなのです。FRのセダンと言ったら、MARK X、縦に直列6気筒、昔のスポーツカーの最高峰で、そんなクルマは今はないよね~というのが、そもそもの始まり。私自身がターゲットにどんぴしゃの世代ですね。

――――GRMNとは、どんな背景で生まれて来たのでしょう

リーマンショックまで遡りますが、大量生産は得意な弊社ですが、当時少量の物を作るということが非常に苦手だということがわかりました。ですので、会社で先端技術として手掛けていたロボットや発想として既にあったMIRAIなどは、沢山作れないから売れない、売らない…という所でプロジェクトがストップしていたのです。そのプロジェクトが、時を経て社内で徐々に動き始めました。そして、いろんなミッションがあちこちの部署に振られました。

例えば、「燃料電池」と振られたところからはMIRAIが生まれ、「都市化モビリティ」が振られたところからはi-roadなどクルマとは若干違いますが生まれ、そんな感じで何パターンかプロジェクトが動き始めました。その流れの中で、MR、セリカなどのなくなってしまったクルマを復活させるべく、当時まだ副社長だった豊田章男社長から、“スポーツ”という切り口でのミッションが関係部署に振られました。その中で、勢力的にセールスするものが、TOYOTA86。マニアックなものがG’sやGRMNという事になりました。

マニアックな特別仕様を作りたいということで、成瀬さん(トヨタ自動車テストドライバー故成瀬弘氏)があたためていたクルマが何台かありました。その中にMARK Xもあったんです。当初、このプロジェクトには関わっていませんでしたが、成瀬さんはMRのハイブリッドを最初やりたかったそうなんです。しかし、ベースのあるクルマをパワーアップ、ドレスアップするのがG’sやGRMNの目的で、ベース車が無いものを一から作るのは非常に難しく…、既に世に出ていたiQを手がけ、そのあとvitz、 MARK XがGRMNとして誕生することになりました。他にこの流れから、アイゴ(Aygo 、欧州で製造・販売する乗用車)のFRが、今年の東京モーターショーで発表されたSFRとして誕生しています。

――――大量生産は得意で少量生産が苦手、特別仕様車を作るというは、非常に大変ですよね? あれだけの装備、とんでもない金額になると思うのですが…。

これは、自社で作りました。当初は、海の物とも山の物ともわからないこの限定車をトヨタのブランドで売るのか?というところから始まっているのに、弊社の元町工場がやります!と言ってくれたんですよ。

最初のGRMNのiQは、モデリスタさんで作っていただきました。カタログを見ていただければわかりますが、トヨタ保証ではありません。次のスーパーチャージャーのついたiQからは、出口が弊社でトヨタ保証のクルマとなりました。そこへ辿りつくのが、どエライ大変だったんです…。

――――では、その今だから話せるエピソードをお聞かせください

100台の限定なので、100回謝ったら作ってくれますか?と言ったこともあります。一つ一つが大変で、例えばドアですが、GRMNと入れたいというこちらの希望があります。GRMNと彫ってもらい、その後プレスで鉄板打ってドアの形にします。ドアが彫り物のせいで平面ではなくなるので、塗料が乗らない場合もあり、更に手間がかかります。それでも、元町工場では是非やらせて欲しいと言ってくれました。元町工場では、マニュアルのクルマは生産していません。ミッションオイルもないんです。

生産工程では、クルマのシートのヘッドレストは折りたたんであって、それを機械で乗せるんですが、MARK Xのシートはデカイから入らない。ダミーのシートを乗せてもらってラインに流して、特別にMARK Xの細かな作業を手作業でしてもらってから、ダミーのシートを外してまたシートを乗せる…。弊社の製造の工程でいくと、ありえないんです。商品に傷がついたらどうするんだ?という事になります。でも、100台だったらやりますと、ラインで流せるように工程をわざわざ考えてくれました。

前回のVitz GRMN Turbo(http://grmn.gazooracing.com/Vitz_Turbo/)の時は、トヨタ自動織機さんがやってくれました。アマノさんが何でもやる!と、言ってくれましたので!

触ると冷たいクルマですが、その製造の話だというのに、心の温かさを感じる深いお話。道がクルマを作ると言いますが、水野さんはGRMN製造までの道を作ったようですね。このお話は後編へと続く!

[ガズ―編集部]