才能を発掘!プロを目指す若人たちの学び舎 その1 ~フォーミュラトヨタレーシングスクール~

近い将来、国内外で活躍できるレーシングドライバーの人材をメーカーが発掘、そして育成していくフォーミュラトヨタレーシングスクールが8月開講、3日間のスクール+最終オーディションの日程を終えた。

毎年開催されているこのスクールは、1995年からスタートし、2000年にメーカーが支援を開始、その一期生としてレーシングドライバーの片岡龍也選手、平中克幸選手を、その後、中嶋一貴選手や小林可夢偉選手などを輩出している。現在もなお、このスクールからオーディションに合格し、トップドライバーとしてモータースポーツ界に君臨するドライバーは多い。今は雲の上の存在の彼らもスクールを受講しオーディションを受けた。目の前にいる若人たちと同様の経験をしたのかと思うと、このプログラムが以前から知っていたものの非常に興味深く、尊敬の念も抱きながらの取材となった。

講師陣は、校長として関谷正徳氏、講師を務めるのは、土屋武士氏、卒業生でもある片岡龍也選手、中嶋一貴選手、小林可夢偉選手、平手晃平選手、石浦宏明選手、大嶋和也選手が務める。

参加条件は、14歳以上のカートレース出場経験者又は4輪レース出場経験者と門戸は広く開かれているものの、例年輝かしい経歴を持った強者たちが応募してくる為、必然とレベルの高い受講生が集まる。今年、書類選考を通過した者は12名だった。その中で、再受験者は3名と再チャレンジも可能。どんなに輝かしい経歴でも、すでにフォーミュラ経験があっても、ここに来れば実力は一旦フラットで考えられ、同じスタートラインからの3日間が始まる。

3日間で、シート合わせからスタートし、クルマの走らせ方を習得、最終日には予選を経てデモレースを経験するまでになる。

▽3日間のスクールの講習内容は、こちらをご参照の事。
「FORMULA TOYOTA RACING SCHOOL紹介ムービー」
http://toyotagazooracing.com/jp/tdp/ftrs/

○大まかなステップ
このスクールは、プロへの登竜門。頑張った若人には、チャンスが与えられるガチのオーディション。3日間走り込み、プロの講師陣たちからのアドバイスと合宿で約20万円の費用は、お得感満載だ。普段レースで頑張っている講師らは、自分たちも同様の経験をして来た事もあり、若人たちの将来がかかったこの3日間、非常に真剣に向き合い、また受講生のひとりひとりのことをよくわかりながらスクールを進めていく、これもお得な要素の一つ。

そして、ここで晴れてスカラシップを獲得すると、現在は、F4のカテゴリーのシートを獲得することができる。メーカーのスカラシップを獲得できるのだから、走る環境も当然整っている。現在のステップとしては、とにかく頑張ってF4のカテゴリーで成績を残し、F3へステップアップしたいところ。その後も、自身が頑張り続けることでトップカテゴリーへの道が開ける。継続的にステップアップしていけるよう、育成に力を入れている。

○先輩たちの道程
先日のスーパーフォーミュラ第4戦で、ポールポジションを獲得した山下健太選手は、現役大学生ドライバーだが、スクールを受講した10代の頃はカート場に来るコで速いコがいると噂になっていたという。どんなもんだろうという軽い感じでスクールに来たようで、どこにも所属しないタイプの受講生だったそうだ。まさに原石。昨年のスーパーフォーミュラチャンピオンの国本雄資選手は、国内カテゴリーをとんとん拍子に登って行ったタイプ。今年WECのシートを獲得することができた。一昨年のスーパーフォーミュラチャンピオンの石浦宏明選手は、オーディションに落ちたそうだが、その後も頑張り続け3年後に鳴った関谷正徳校長からの電話で育成ドライバーの道が開けた。中嶋選手や小林選手は、ご存じのようにF1という頂点までたどり着いた。スクールで誰よりも下手だったと当時の事を語った中嶋選手は、一度オーディションに落ちている。

話を聞いているうちに、ここに来た「今」がパーフェクトではなくても良いということがよくわかる。ここに来ての習得力の速さなども評価されるのだ。

このプログラムが始まったその時と現在では、自動車産業を取り巻く環境も違い、さらにリーマンショックを境にモータースポーツ業界には明らかに変化が起きた。ひと昔前と現在とではスカラシップ獲得からの道程が明らかに違っていて、当時は合格者複数名がフォーミュラトヨタ、FCJなどの今は無きカテゴリーへ参戦できた。その後に国内でF3にあがり海外のカテゴリーで走らせてもらうこともできた。現在の欧州F3やフォーミュラルノーなどがそれだ。F3の世界戦マカオグランプリに海外から育成ドライバーが参戦し、日本のF3ドライバーと共に戦った…などという事もあった。実際、現地で観戦したが、当時欧州で頑張っていた中嶋選手、小林選手、平手選手のたくましさは忘れない。もう12年ほど前のことだが…。あれからメーカーのF1参戦がなくなりWECやWRCへの復帰などもあった。また現在は、ポルシェの来季WECからの離脱のアナウンスにより来季の行く末が不明なこともあり、このプログラムの行きつく先がどこになるのかわからないというが正直な気持ちではあるが、大きなサポートの元での頑張りが道を開くこと、また、才能のある若人たちのサラブレッド養成機関であることはゆるぎない。

どの“プロ”にも言えることだが、腕を上げるには費用もかかる。それは、モータースポーツにも言えることで、莫大な費用がかかりプロになる夢を諦めてしまう若人も多い。ここにやって来る若人たちは、小さな頃からご両親と共に夢を追いかけて来た事だろう。メーカーのサポートを受けることができれば、もっと走ることに集中ができる。プロとして将来活躍する為に必要なことは、講師陣を見れば一目瞭然、ここに全てがあって無駄に将来までの道程が遠回りをしないで済む環境がある。それは、オーディションに落ちてしまってもだ。主任講師の片岡龍也選手が、レースに出たいなら相談してください、遠回りはさせないノウハウがあると自信を持って最後に挨拶をしていたのだが、まさにそれだ。前述した落ちても…という石浦選手のケースもしかり、書類選考を通過しただけでもメリットはかなりあると推測でき、まだ若い才能のその後の活躍はしっかり見ていてくれるのがFTRSのようだ。

レポートは、続く…

(写真 折原弘之、テキスト 大谷幸子)

[ガズー編集部]