辛いこともすべてひっくるめて楽しいと言える「今」があります!~モータースポーツ現場最前線 海外修行中のメカニックと語る~

いろんな方と出会い、お話をさせていただくことは、仕事を抜きにしても、とても刺激になると常々思っておりますが、自分が年を重ねて行くに連れ、若者から受ける言葉に勇気をいただくことが増えました。
今回は、ある若者との再会で『頑張っていることを素直に表現する』ということを学びました。

日本人は、“頑張っている!”ということに“照れ”があると思うのです。謙虚な国民性なのかもしれません。影の努力を人に見せないことが美徳というか。何かこう話していて、もちろん謙虚な若者なのですが、“仕事を頑張るときはこうじゃなくちゃ!”と、おばさん、今更気づかされたんですよね。

現在、ベルギーでレースメカニックとして働く木村くん(29歳)にインタビューしてきました。
ふと旅に出た先で、偶然にも再会することになり(欧州のどっかにいるとは思っていましたが、ベルギー在住と知らず…)、日本で頑張っている頃から面識があるのですが、どんどん頼もしくなっていますね。それではどうぞ。


――国内でも非常に頑張っていましたが、海外を目指したきっかけは何でしょう?

木村メカ:24時間レースをやりたい!ということがきっかけでした。今は、日本で言えば“スーパー耐久の富士24時間”がありますが、自分が日本で仕事をしていたときに24時間レースがなかったので…。“ル・マン24時間”、“スパ24時間”、”ニュルブルクリンク24時間”、そんなレースに身を置いてみたいというのが海外に行きたいと思ったきっかけです。日本基準ではない目線を持ってみたいと思いました。

――目標に向けて最初にやったことはなんでしょう?

木村メカ:日本のチームを辞めて海外のチームとコンタクトを取りつつも、まったく英語を話すことができなかったので、語学を習得するために勉強をしました。アジアや日本のチームと仕事をしたり、貯金を切り崩して短期の語学留学もしたりで、あっという間に3年が経過していました。
3年やってヨーロッパで仕事ができないなら諦めようと思っていたところ、今のチームから声をかけてもらい拾ってもらいました。

――現在の環境を教えてください

木村メカ:アジアのチームと仕事をしていたときのエンジニアが、元F1ドライバーのティエリー・ブーツェンさんの息子さんで、日本の現場で仕事をしているときに声をかけてもらって、ベルギーのBOUTSEN GINIONのファクトリーで昨シーズンから仕事をしています。
社長の奥様がティエリー・ブーツェンさんの妹さんで、“TCR Europe“や“ブランパンGTシリーズ耐久カップ (Blancpain GT Series Endurance Cup) “などにも参戦しているファクトリーです。ワークスチームにはないアットホームなチームですね。


――レースメカニックとしては、どのようなことをされていますか?

木村メカ:こっちに来てテストを終えたら、いきなりチーフメカニックというポジションをミーティングで伝えられ、それで決まり。昨シーズンはチーフメカニックとしてスタートし、“ブランパンGTワールドチャレンジ“のクルマ”BMW GT3”を一台任されています。そのシリーズの中に組み込まれているのが、“スパ24時間“です。3年かかり、ようやくそのレースにたどり着きました。“ニュルブルクリンク24時間“も裏方のサポートとして、一昨年、そして昨年とで2回となりましたが、経験できたことは大きかったですね。

―目指していたレースにたどり着きましたね?いかがでしたか?

木村メカ:“スパ24時間“は、プレッシャーが正直大きかったです。開幕から24時間レースを目指し、クルマのメンテナンスのことをずっと考えてきましたが、ヨーロッパ各地から来ているメカニックたちの信頼が“ゼロ“で、誰も言うことを聞いてくれないところからのスタートでした。
すべてのオーダーを自分が出し仕事を進めていくことで、今まで口論になったメカニックも「チーフのおまえの指示にすべて従うから」ということを言ってくれ、自然と信頼関係も築くことができていたようです。それがなかったら“スパ“はうまく行かなかったと思いますね。

――あらためて海外に来て思ったことはありますか?

木村メカ:こっち来て良かったのは、みんな目に見えて“好き”でやっている人たちが多くて、仕事に対してテンションが高いんです。すごい熱を入れて頑張っていることを日本人は冷めた目で見ていたりしますが、そういうのが全くないんです。家族経営のチームだから、大きなワークスチームとは違ったチームワークもあって、こういうのが好きだと素直に思えました。
40歳を過ぎたおじさんがタイヤ交換の練習をして、練習なのにタイムが速くなるとみんなでハイタッチしたり、そういう人間関係を見ていて、また今年も続けたいと思いました。
ヨーロッパでは、インターンシップが多いので、こっちは4、5年という期間でさまざまな経験をしている人がたくさんいるんです。それこそ“F1“、“WRC“、“WEC“などのトップカテゴリーも、経験豊富な人はざらにいるので勉強になります。次は、“ル・マン24時間“を経験してみたいですね。

――友人の方々からの反応はいかがでしょう?

木村メカ:日本に帰ったときに「楽しい?」と聞かれますが、聞かれたらレースが楽しいと答えます。辛いことも全部ひっくるめて、楽しいと答えています。

――日本に帰ってくる予定はありますか?

木村メカ:仕事がなくなれば、もちろん帰らざるを得ません…。海外には出て来ましたが、日本で充分メカニックの技術は身に付くと思うんです。だから、日本に戻ったときにテクニックが追いついてないかもしれない、という不安もあります。ただ、日本で戦えるチームを作る力、人間対人間でも戦える、そんなチームストラクチャーを構築できる人間、そこをメリットとして自分のことを理解できる人と仕事ができたらいいですね。
お金のかかるスポーツですのでいろいろ大変ではありますが、単純にレースに熱くなれる人間でいたいです。

ありがとうございました。ベルギーでは、自炊で頑張っているようですが、お母さんとしては、そっちも気になったりしました。
昨シーズンは自由な時間があまりなかったそうですが、休みはチームのクルマで出かけたり、毎週金曜日はランチを全員で食べることになっていて、ブリュッセル名物のフリットの美味しいお店に行かれるようですよ。仕事帰りにご飯に行ったりなど、日本と何ら変わらない生活をしているようで、このコミュニケーション能力も彼らしいと思ったりします。

『かわいい子には旅をさせよ』とは、まさにこのことですよね。
実は、私の実兄も彼と同じくらいの年齢の頃に海外に出て行ってシェフになり、10年後に帰国し、日本でお店を持ちました。全て自分で決めて行った兄は、怖いもの知らずと思ったことがあります。
誰にも頼らず物事を成し遂げるという当たり前のことが、とてつもなく大きく感じました。持っているビジョンが全く違うなと。木村くんもそんなたくましい人間になっていますね。写真がないので、再会したブリュッセルでの写真をちょっと。素敵な街でした。

海外で揉まれ、苦労しつつも臨んでいった場所で、自分の居場所をきっちり見つけて頑張っている若者。これからも応援したいと思います。
また、憧れを抱く若者の参考になればと。木村くんの人生はまだまだこれからで、ほんの序章に過ぎません。今後も楽しみにしたいと思います。それでは、また!

(写真/テキスト:大谷幸子)

[ガズー編集部]

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