癒し系クルマオタク・フナタンとは!?:清水草一が行く! モテないカーマニア調査隊

担当リナ(人妻)が私に言った。
リナ「清水先生、『モテたいならこのクルマに乗れ!』ですけど、あと4回続けられませんか?」
私は大怒を発した。
オレ「フザケルナ! もともとモテるクルマなど存在せぬ! オレはあのタイトルを見た瞬間失神しそうになったんだ! しかしライターとして、高い壁ほど乗り越えなければならぬと思い直し、なんとか8回書き切った。どんだけ血の滲むような思いでこじつけて来たかわかってんのか! これ以上書けるわけねぇだろう!」
リナ「すいませんすいません! じゃ、知り合いにモテないカーマニアの方がいらっしゃるんですけど、連れてきてもいいですか?」

不条理な話の展開により、私はモテないカーマニアにインタビューすることになった。
モテないカーマニアといえば、私が思い浮かべるのはマリオ(仮名)だが、今日の人もモヒカンだろうか。それともブサイク芸人風だろうか。
「あ、どうも。フナタンと申します」

そこに現れたのは、全身から癒しオーラを発する男性だった。どんなことを言われても決して反論してこない、優しい空気に包まれた小太り男性。「ピュア草食」。そのような言葉が思い浮かんだ。
リナ「フナさん、そこらに落ちてるクルマを拾ってきちゃうんです。捨てネコ拾うみたいに」
オレ「ははあ、なるほど。今クルマは何台持ってるんです?」
フナタン「4台です」
リナ「それって問題ですよね? 女性から見て、家族もいないのにいらないクルマを何台も拾ってきちゃうのって、モテない原因だと思うんですけど!」
いや、モテるモテないはそういうことではなかろう。それはともかく。
オレ「で、どんなクルマを持ってるんです?」
フタナン「まず、下のNAロードスターです」
オレ「ああ、あの微妙にモテない感じの!」
微妙にモテない感じとは、微妙なオタク感。基本的には大変きれいな初代ユーノス・ロードスターだったが、フロントのナンバープレートは左いっぱいまでオフセットされ、車内には消火器が置かれていた。

消火器を積んだクルマを見て、「キャ~、火事になっても安心ネ! ステキ!」と、抱き着いてキスしてくれる女性はいまい。ちなみに価格は10万円だったそうだ。
フナタン「あと、平成5年式のグロリアワゴンです」
オレ「グ、グロリアワゴンン?」
フナタン「はい。あのずーっとモデルチェンジせずに作られてた、日産の四角いヤツです。グロリアワゴンに乗ってた知り合いが、もう1台グロリアワゴンを買ったので(笑)、どうしようかと言われて、最終的に『じゃ僕が引き取るよ』ということになりました」
オレ「価格は0円?」
フナタン「そんなようなものです」
そういうクルマ趣味が存在することは理解できる。それはつまり、「ブサイクなほどカッコいい」と言った方向性のものだ。カッコ悪ければ悪いほど震えがくるほどうれしい。毛虫は気持ち悪いほどうれしいみたいなものである。その気持ち、かつて日産・ADワゴンを愛車にしていた私には痛いほどよくわかる。どちらも死ぬほどブサイクなライトバンという立ち位置だ。
フナタン「あと、初代パルサーです」
オレ「え、え、え? 初代パルサー!? 初代パルサーってどんなんだっけ?」
担当リナ(人妻・一児の母)がすばやくスマホで検索した。

リナ「これですね」
オレ「ブワーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
(つづく)

プロフィール

清水草一
モータージャーナリスト。慶応大学卒業後、集英社で「サーキットの狼」の池沢さとし氏の担当編集者となる。フェラーリを崇拝しており、「大乗フェラーリ教開祖」を名乗る。
公式サイト https://www.shimizusouichi.com/

企画・編集=ノオト

[ガズー編集部]