これぞキング・オブ・モテないカーマニア!!:清水草一が行く! モテないカーマニア調査隊

モテないカーマニアのフナタンは超癒し系である。そして彼が所有する4台の愛車のラインナップは……。

フナタン1号……微妙にモテない感じの初代ユーノス・ロードスター(価格:10万円)

フタナン2号……根こそぎモテない感じの日産・グロリアワゴン(価格:タダみたいなもん)

ここまでは、モテないカーマニアとして、それなりにメジャーなラインナップだと言える。なにせ初代ロードスターはカーマニアの王道中の王道。グロリアワゴンはカーマニアの邪道中の邪道。邪道じゃなければ裏街道。表街道と裏街道のど真ん中なのである。
が、フタナン3号には完全に意表を突かれた。1ミリも頭になかった。なにしろ日産・初代パルサーなのだから!

担当リナ(人妻)が差し出したスマホに映し出された、初代パルサーのシルエット。それは単に地味な旧車のそれではなかった。もっともっと特別なものだった!
猛烈に地味で時代遅れならば、年月とともにスターになる。いすず・フローリアンや三菱・初代デボネアのように。が、初代パルサーは違う。現役当時は適度にカッコいい小型車だった! 適度にヨーロピアンな香りがした! でもあくまで適度にだった! この究極の中途半端感!
たとえば日産・P10プリメーラのようにとってもヨーロピアンだったり、グロリアワゴンのようにとっても縄文系ならわかりやすい。しかし初代パルサーは、現役当時適度にいいクルマだったが故に、名車としても駄作としても名が残ることはなく、人々の記憶からほぼ完璧に消えてしまった。「イイ人なんだけど……」と言われつつ女性に敬遠されるタイプを、鉄板にしてプレスしたようなクルマ。それが初代パルサー! モテないカーマニアの隠し玉として、これ以上の素材はあるまい!

フナタン「パルサーは、とっても地味なクルマ屋さんで見つけたんです。通りかかったら、裏の方に半分放置されてる角目のクルマがあって、あれ、KP61かな、と思ってよく見たら、初代パルサーだったんです」
オレ「で、買っちゃったの?」
フナタン「KP61だと思ったらパルサーだったというのが、なにか心に引っかかりまして」
オレ「値段は? 数万円くらい?」
フナタン「いや、結構高かったです。お店の人も割合強気で(笑)、諸経費込みで20万円くらいになりました。でも、『買います』って、その場に3万円置いて行きました」
スバラシイ……。
私は心を打たれた。打ち震えた。これは、モテないカーマニアとして、地上最高に心温まるエピソードではないだろうか!? KP61だと思ったら初代パルサーだった。そのあまりにもどうでもいい意外性!

KP61スターレットは、カーマニア的には最後の後輪駆動コンパクトカーとして価値があるが、初代パルサーには特にない。適度にヨーロピアンだったがゆえに特にブスでもないので、グロリアワゴンのような露悪嗜好も刺激しない。
言ってみれば、「昔、クラスで7番目くらいにかわいかった子が、五十路を迎えてくたびれた主婦になった」みたいな感じだろうか。そのたまらなくどうでもいい風情に惹かれて、フナタンはその場で求婚してしまったのだ(たぶん)! くたびれた主婦に! 激しい略奪愛!

初代パルサーの画像を見て黙り込む担当リナ(人妻)

今さら気付いたが、初代パルサーは猛烈にシブい! あまりにもシブすぎる! 爆笑するしかないほどに!
そして徹底的に発展性がない! 誰も羨ましがらず、チューニングの意義はゼロ、同好の志もいない。もちろん「キャー、初代パルサー、しっぶーい!」と、抱き付いてキスしてくれる女性もいない。
これぞキング・オブ・モテないカーマニア!
(つづく)

プロフィール

清水草一
モータージャーナリスト。慶応大学卒業後、集英社で「サーキットの狼」の池沢さとし氏の担当編集者となる。フェラーリを崇拝しており、「大乗フェラーリ教開祖」を名乗る。
公式サイト https://www.shimizusouichi.com/

企画・編集=ノオト

[ガズー編集部]