谷口信輝 ドライバーズコラム 第14回 走り屋出身ドリフト兄ちゃん
走り屋出身、レーシングドライバーの谷口信輝です。
僕は元々、ただのクルマ好き兄ちゃんで、昔から「レーシングドライバーになりたい」って思っていなかったタイプです。でも、昔から「レーサーにも負けない」って気持ちを持っていました(笑)。
僕は、ドリフトで腕を磨いて来ましたが、ドリフトが上手くても遅いのはダメ!
速くてもドリフトができないのはダメ! 速さでも1番、ドリフトでも1番、とにかく総合的に運転の上手い人になりたかったんです。
って言うか…
昔から乗り物が好きで、BMXでも1番。ミニバイクレースでも1番。とにかく自分の好きな事で、他人に負けるのが嫌なのです。広島から関東に上京してきて、ドリフト兄ちゃんな僕がレーシングドライバーとして今はやっていますが…。
僕は、30歳からレースを始めました。
はい、遅咲きです。ドリフトも同時にやっていました。D1グランプリというドリフト大会と、レースの二足のわらじ状態でやっていました。その頃は、そういう人は居ませんでした。ドリフトの人か、レースの人か。どちらかでしたね。
先輩には、土屋圭市さんや織戸学さんが居ますが、両カテゴリーを追いかけている人はいませんでした。後に、今村陽一選手や三木竜二選手が、アルテッツァワンメイクレースにチャレンジしていましたが、やめてしまいました。
ドリフトをやっている人、特にトップランカーの人は、マシンコントロールは抜群に上手い。なので、レースにもどんどんチャレンジして欲しいところですが、全然チャレンジャーが居ません。ドリフト出身で、レーシングドライバーになったのは、僕が今のところ最後です。なんだか寂しいですね。レースとドリフトの距離が、昔より今の方が遠くなっているようにも感じます。
マシンの特性や、走らせ方も最近では特に違います。
普通のグリップ走行が、クリッピングポイントに向かい減速をし、曲げて、立ち上がるのに比べ…、ドリフト走行は、より「魅せる」方向へ進化し、コーナーの手前で減速をし、コーナーの中に入る頃にはもうアクセルを開け、アクセルを踏みながらコーナーを曲がって行くのです。
その方がコーナー中にタイヤスモークが沢山出る事と、今時のドリフトの審査(機械)の得点に繋がりやすいのです。
マシンのセッティングも、常識とは違う方向へ行っています。ドリフトマシンは、やはり角度をつけたい。がしかし、スピンはしてはいけない。
となると、ステアリングの切れ角を増やす。ただ増やせばいいわけではありません。ステアリングの切れ角を増やすと…、「逆関節」と言われるタイロッドとナックルが一直線になって、ステアリングが戻らなくなる現象に陥ります。
次にタイヤハウスのスペース不足。タイヤハウスには限りがあるので、タイヤを外へ外へ出すしかなくなります。
次にアライメントですが、運動性能を求めるより、フルカウンター時のフロントタイヤの転がり方を優先します。なので、カウンターステアが深くなると、タイヤは倒れこむ形になり、タイヤの角ばかりが路面にあたり、抵抗になりうまく転がらない。フルカウンター時にタイヤが路面に対してピッタリくるように、キャンバーを沢山つけます。
アッカーマンも、フルカウンター時に、左右が揃うようにトーインなのか、ナックルなのかをセットします。ここらへんはとても奥深く、ドライバーのスタイルに合わせてセットしていきます。ドリフトドライバーはとにかく走り込んで、調整して、乗りやすいところを探していきます。
ステアリングラックの位置
ナックルの長さと角度
キャスターとキャンバーの位置
その他、リアのジオメトリーなど
とにかくステアリングの切れる角度を求め、そしてセルフステアが無くならず、逆関節にならない所を探していきます。
まだまだこれだけではなく、いろいろありますが…、こういうステアリングが沢山切れるって…
ノーマルのクルマにも欲しいと思いませんか?普段の街乗りでも、ステアリングが沢山切れてデメリットってないですよね?
速度が出ているシーンでは、切れ角は必要ありませんが、速度の出ていない、「駐車」「Uターン」などにとても有効。
自動車メーカーさんからすると、ステアリングを沢山切れるようにする事は、より予算が変わってくる事かもしれないので、なかなか手を出さないのかもしれませんが、逆に、例えば「トヨタのクルマはハンドルが沢山切れる」っていうイメージがついちゃえば、それを1度乗った人は、その切れ角に慣れてしまうのでありがたみを忘れがちになりますが、その後に他の切れ角のないクルマに乗った時、「うわっ!不便~」ってなります。そして切れ角のないクルマを敬遠するようになります。
本当、切れ角と馬力は、すぐ慣れ、無くなると物足りなくなるやつです。
もう、ステアリングラック&タイロッド&ナックルの方式をやめて、ナックル自体にモーターがついていて、電気で回しちゃえばいいのに。そしたら、ステアリングロッドもラックも無くせ、エンジンルームを横断する余計な棒が無くなり、クルマを作る上でより良い設計ができるようになる。
もうアクセルもステアリングも全て電気信号。もしナックル自体が回る設計ができたら、かなりいろいろ便利になりますね。こういう馬鹿な話から、メーカーさんが工夫をして、新しい物を作っていってくれるのだと思っています。
「できない」って言うんじゃない!
「できる」方法を見つけてほしい。
ちなみに、
今時のドリフト車両は、60度切れます。
谷口信輝ドライバーズコラム
第1回 第1回 86/BRZレース
第2回 あの時86を選んだ結果…
第3回 ヨタハチで○○○○
第4回 運転が上手くなるには?
第5回 映画:新劇場版 頭文字Dの制作の裏側
第6回 箱根ヒルクライム
第7回 無謀な僕は豊田章男社長を呼び止め…
第8回 男たる者、これは出来ないとね
第9回 テレビCMの影武者
第10回 クルマとドライバーを近づける「運転学校」
第11回 プロのレーシングドライバー
第12回 チューニングカーとは
第13回 レースを楽しむプチ情報
第14回 走り屋出身ドリフト兄ちゃん
第15回 4月3日は、ツインリンク茂木へ!
第16回 プランの加速度… 500%アップ
[ガズー編集部]