ダカールラリー 取材同行の旅No.8

ダカールラリーならではのモータースポーツとして人気が高いのが、トラック部門。巨体を揺らしながら大自然のなかを疾走する光景は、モト部門やオート部門とは違ったダイナミックさがファンを魅了する。この熱い戦いが繰り広げられるトラック部門に、1991年から参戦している日野レンジャーは、今回参戦25回目という記念すべき大会を見事10リットル未満クラス優勝し7連覇を達成。そして全車完走と、高い技術と信頼性そしてチームワークのよさを世界に証明してみせた。

リトルモンスターの快進撃

トラック部門は、排気量18,000cc、最高出力は800馬力など、オート部門とは桁外れのディーゼルエンジンを搭載し、車重も10トン近い。一見、大柄で重そうに見えるが、トラック部門のトップチームの速度は、オート部門のトップ20位以内に入るほど速い。90年代は特にトラック部門の改造に拍車がかかり、エンジンをミッドシップ、つまり荷台を開けるとそこにエンジンがあるようなモンスターマシンが登場し、オート部門のワークスマシンのようにジャンプもすればドリフトもする、硬い土の路面にはタイヤのブラックマークがつくほどだった。そのなか、街中を走っているトラックと変わらないような日野レンジャーが日本から参戦。中型トラックでフロントエンジンの日野レンジャーは、その俊敏性、機動力の高さそして何より耐久性の高さで、日野チームは初参戦以降、ずっと完走し続けている。さらに私も現場にいたが、97年大会では、1,2,3位フィニッシュと表彰台を日野レンジャーが独占し、信頼性の高さを証明した。ほかのトラックより車体もエンジンも一回り小さいが、大型モンスタートラックを脅かすことから、いつしかリトルモンスターとして注目されている。

タイヤが埋まるくらい柔らかい砂丘を丁寧に走る2号車
赤い鯉のぼりが目印の1号車

親子鷹で世界に挑み続ける

ドライバーは、菅原さん親子。父である菅原義正選手は、ダカール史上最多の過去32回参戦し、20回連続完走記録とともにギネスブックに認定されるほど。モト部門、オート部門そしてトラック部門とさまざまな角度からダカールラリーに挑戦し続けている、日本を代表するドライバー。息子の菅原照仁選手は、1999年に菅原義正選手のナビゲーターを務め2005年から2号車ドライバーに。ドライバーとしての技術はもちろん、マシン開発能力に優れ、モンゴルのラリーなど実戦を通してデータを収集し、的確にエンジニアへ伝え、日野レンジャーを改良する。またナビゲーターの高橋貢選手(1号車)杉浦博之選手(2号車)は、過去それぞれ菅原義正選手のナビゲーターとしてモンゴルのラリーに参戦したり、メカニック技術などを習得しながら、着実に実力をつけダカールラリーに参戦。菅原義正選手はよく「ダカールは学校のようなもの。いつも走りながら人生そのものまで勉強させていただいている」と言うが、その菅原義正選手とともにダカールラリー参戦への実績を積んできた彼らは、いわばダカール学校へ入るために菅原塾で鍛え上げられた。ダカールラリーは、世界中からみなそれぞれの思いを持って真剣に挑んでくる。ある者は勝負に勝つために。またある者は長年の夢を実現するために。みなそれぞれ地平線の向こう側のゴールを目指して走っている。だから勝つための技術だけでなく、日本人として、日本を代表する選手としてのふるまいもとても大切だということも教えてくれる。ダカールラリーで、菅原義正選手が尊敬される理由はここにもある。

青い鯉のぼりが目印の2号車
ダカールの鉄人、菅原義正選手(上段左)/ダカールは初参戦となる高橋貢選手(上段右)/日本を代表するドライバー菅原照仁選手(下段左)高いナビゲーション能力とメカ技術を持つ杉浦博之選手(下段右)
10リットル未満クラス優勝の2号車

25回連続完走という信頼性

トラック部門で総合優勝をするだけでなく、25回も連続完走する偉業を成し遂げている日野レンジャーは、世界で高い評価を得ている。ダカールラリーのなかでも、日野レンジャーに乗りたいという選手は多い。確実に完走できる信頼性、耐久性の高さ、中型車ならではの機動力、俊敏性の高さ。今回のマシンは、総排気量8,866cc直列6気筒ディーゼルターボエンジンを搭載。2,200rpmで630psの出力と特に1,200rpmの低回転で230kgf・m [2255.5N・m]というサーキットで走るレーシングカーとは比較にならないほどの圧倒的なトルクが特徴だ。ダカールラリーでは、砂丘ステージやコーナーの立ち上がりなど、エンジントルクが重要になってくる。そして総重量は7,300kg。全長は6mを少し超えるくらいとトラックとしてはとてもコンパクトだ。マシンもそうだが、トラブルを最小限に抑え、完走をするためには、メカニックの存在がとても重要だ。日野チームスガワラは、過去ダカールラリーにメカニックやナビゲーターとして20回参戦し、菅原義正選手が全幅の信頼を寄せる鈴木誠一さんをメカニックリーダーに、日野自動車のものづくりの現場に欠かせない高度なスキルを持つ車両生技部や、ラリーの期間中に電子制御エンジンのコンピューターチューニングを行うエンジン設計部など社員がラリーの現場で活躍している。また全国の日野販売会社から公募により選抜された腕利きのメカニックなど、日野レンジャーに熱い思いのある日本人エンジニアやメカニックが支えている。トラック部門はスタートがモト部門、オート部門より遅いため、ビバークに到着する時間も遅く、毎日暗く、高地では寒いなか、毎晩明け方まで日野レンジャーのメンテナンスを行っている。彼らの技術と熱意がこの連続完走を支えている。

中型トラックとはいえ、部品ひとつひとつが大きくて重い。メカニックも体力勝負だ
日野自動車の社員も現場で挑む。車両生技部の中村昌樹さん(右上)とエンジン設計部の名越勝之さん(左下)
砂丘と空の白の見分けがつかないような幻想的なステージを走る1号車
東京、静岡、香川、九州と全国の日野販売会社から選抜されたメカニック
川渡りをする1号車

再びポディウムのトップを目指す

現在トラック部門の総合優勝争いをしているのは、排気量12,000cc以上で最高出力が800ps~1,000psのエンジンを搭載するマシンが主流だが、日野レンジャーは、あくまで中型車の車格で排気量10リットル未満クラスにこだわる。単に勝つことだけが目標ではなく、日本人が日野レンジャー(外国名:HINO500)とともに侍スピリットで挑む。これがファンを魅了し、ふだん世界中で日野レンジャーに関わっているすべての人に勇気を伝える。ダカールラリー2016でトラック部門総合優勝車との時間差は5時間50分28秒。今大会は、日野レンジャーが得意な砂丘ステージが少なく、今後またチリやペルーの砂丘ステージが戻ってくれば、もっと上位が見込める。道が過酷になればなるほど真価を発揮するのが日野レンジャーであり、日野チームスガワラだ。日本を代表する日野チームスガワラが再び、トレードマークの鯉のぼりとともに日の丸をトラック部門の頂点に掲げる日が楽しみでならない。

狭い渓谷のなかを走る2号車
この鯉のぼりが高々と掲げられ、たなびく姿をぜひ見てみたい

(写真 : 日野自動車)
(テキスト : 寺田昌弘)

[ガズー編集部]