FJクルーザーの真価、南米をステージに体感

2006年に北米で発売され、翌年には世界7万台と大ヒットとなったトヨタFJクルーザー。日本では2010年から販売され、その個性的なスタイリングやオフロード性能の高さから人気を博している。フルモデルチェンジをせず、武骨なまでにそのスタイルを突き通すFJクルーザーを発売から10年たった今、ふさわしい場所、南米チリ、アルゼンチンであらためて検証してみた。

FJ40へのオマージュがこのスタイルを生んだ

トヨタの四輪駆動車といえば、すぐランドクルーザーが浮かぶ。発売から65年が経ち、その信頼性、耐久性、悪路走破性の高さが世界中の多くのファンに知られている。北米でもガソリンエンジンを搭載したFJ40が当時人気となり、このFJクルーザーはFJ40へのオマージュを込めて誕生した。フロントグリル、TOYOTAロゴ、丸型ヘッドランプ、ホワイトルーフそしてリヤコーナーウインドーの形状が、FJ40を踏襲しながらも現代的なデザインになっている。もともとアメリカのキャルティ・デザインリサーチ(初代エスティマや初代プリウスをデザインした)が2003年のデトロイトショーにコンセプトカーとして出展したところ大反響となり、2006年に発売されることとなった。今もなお唯一無二のスタイリングがこのクルマの普遍さを物語っている。

砂丘の上に立つと冒険心を奮い立たせてくれるスタイリング
8月現在、南半球は冬。標高4,000m近い雪上でも似合う
チリのガソリンスタンドで見かけたイエローのFJクルーザーもかっこいい

気軽にオフロードを楽しめる一台

FJクルーザーは、ランドクルーザープラドのラダーフレームを基本としているので悪路走破性の高さは言うまでもなく、さらにワイドトレッド化し265/70R17のワイドタイヤを履き、ボディバランスに合わせてサスペンションの取り付け位置をセッティングしなおしている。また車両重量は2トンを切ることで、軽快にオフロードが走れる。エンジンは1GR-FE(3,955cc・V型6気筒DOHC)で最高出力203kW(276ps)、最大トルクは380Nmとこのサイズにして十分。北米や中東、オーストラリアでは砂丘や土漠といった広大なエリアでオフロードを楽しむユーザーが多い。ここ南米でも土漠があり、さっそく空気圧を落として砂上を走ってみる。もともとワイドタイヤなので、空気圧を落とせばさらに面圧が下がり、砂に埋まりにくくなるのがいい。柔らかい砂上では、低速からトルクが出るディーゼルエンジンのほうが扱いやすいが、ガソリンエンジンでも4リッターと排気量が大きく、出力がフラットなV型のおかげで走りやすい。砂丘を斜めに登って行っても、ワイドトレッドと低重心化されたボディのおかげでとても安心して走れる。車速が上がってきて、推進力(砂丘を走るのは海で船を操縦している感覚に似ている)が上がるとアクセルを踏んだだけしっかり加速する。フロントガラスが立っていて、見切りもいいので、前方に岩など障害物があっても見やすい。岩はタイヤのサイドウォールにヒットさせてしまうと割りと簡単にサイドカットしてパンクしてしまうため、きれいに避けるか、もしくはトレッド面で踏みつけるのがオフロードの基本。タイヤがどの位置にあるかイメージしやすいのもFJクルーザーの特徴のひとつだ。

今回試乗したFJクルーザーは日本仕様と同じパートタイム4WDで、サブトランスファーを持つ。オンロードは2WDで走り、スピードが出せるオフロードは4H、岩石路や登坂路など低速で登坂力が必要な場合は4Lとモードが選べる。土漠や砂丘は4Hで走る。旋回時は、ステアリングを少しだけ切ってきっかけをつくり、あとはアクセルによってクルマの向きを変える。これが実にコントローラブルなのがFJクルーザー。サスペンションは前後ともコイルスプリング(フロント/ダブルウィッシュボーン・リヤ/トレーリングリンク車軸式)で乗り心地もよく、リヤがリジットアクスルなので、岩石路などもトラクションがかかりやすく走りやすい。あらためてFJクルーザーは、オフロードドライブを気軽に楽しむのに最高の1台だ。

タイヤ下側が埋まるくらいの砂でもワイドタイヤなので走りやすい
柔らかい砂から締まった砂など刻々と変わる路面でもしっかりトラクションがかかり、思い通りに走らせられる
フラットダートは乗り心地もよく、FJクルーザーにはとても向いているステージ。ハイスピードで走っていてもとても安定している
南米ではこのような道も生活道路として使われている。だから4WD車の需要が高い
路面のギャップはフロントのダブルウィッシュボーンのサスペンションがうまく吸収してくれるのでボディの姿勢変化が少なく、安定している
南米には、小さな石が多い川底のような涸れ川も道路の一部になっている。多少水があっても気にせず走れる
砂丘は風圧で固められたところを見つけながら慎重に走る。路面からのインフォメーションもわかりやすい

静粛性とV6サウンドが心地いいオンロード

オフロードを本格的に走れる4WDは、オンロードではゴツゴツと乗り心地が悪いと思われがちだがそうではない。確かに市街地でストップアンドゴーの繰り返しやタイトなワインディングではセダンにはかなわない。しかし見晴らしのいいアイポイントの高さや、シートの適度な硬さ、トルクフルなエンジンのおかげで高速巡航にはとても適している。今回も1日800kmを走行したりもしたが、疲れずドライブできる。そしてアクセルを踏んだときのV6サウンドがとても心地よい。さらにラダーフレームのあるFJクルーザーは、路面からの振動をうまく消して乗り心地がいい。心地よいV6サウンドを楽しみながら走っていて、ふと信号待ちで停まると、これまでと対照的にアイドリング時の静粛性がとても高く、一瞬エンジンが止まったかと思えるほどの差がある。ボディ剛性が高く、遮音もしっかりしていることも寄与している。リアアクスルがリジットなので、路面のギャップでの突き上げは多少あるが、これはオフロードでのトラクションのよさの恩恵を考えれば気にならない。フロントはダブルウィッシュボーンなので、しっかり路面に追従してくれ、1列目の乗員は、とても乗り心地がいい。

冬の南半球、標高が高いところは朝夕に路面が凍結している箇所もあるので、パートタイム4WDで路面に合わせて駆動方式を選択できるのがうれしい
幾重にも続く緩やかな登坂路も大排気量エンジンのおかげで余裕のクルージングができる
コーナリングも思ったよりロールも抑えられ走りやすい
車内の静粛性はとても高く、低ミューのオンロードで車速によってコーナリング中に出るスキール音も出始めから聞き取りやすく、車速コントロールがしやすい
エンジンは1GR-FE(3,955cc・V型6気筒DOHC)で最高出力203kW(276ps)、最大トルクは380Nm。
レギュラーガソリンでタンク容量は72L。今回の燃費は、高速巡航で約8km/l。オフロードはアクセルを踏んで楽しんだので約6km/lだった

走りもデザインも圧倒的な個性をもったクルマ

BMW・MINIやフォルクスワーゲン・ビートル、フィアット・500は、過去へのオマージュを込めながら先進的な運動性能を持って走るから人気がある。これはFJクルーザーにも言える。いわゆるパイクカー的存在だが、日本車としてとても稀有な存在だ。デザインこそFJ40をベースにしているが、5人乗りながら2ドアのように見せるドアレイアウトやリヤのスタイリングなどかなり工夫されている。そして何より悪路走破性の高さは、クルマが先進的電子デバイスだけで生み出すのではなく、ドライバーが操る楽しさが存分にあり、この部分もFJ40へのオマージュが込められていると思う。オフロードでクルマを操る楽しさがあるからこそ、北米はもちろん中東、オーストラリア、南米そして日本で今も人気があるのだと、さまざまなシチュエーションで乗ってみてそう確信した。また今回のようなオフロードをいつか走ってみたいというかたは、国内仕様であればA-TRCとリヤデフロックはつけておいたほうがおすすめだ。

1日中乗っていても飽きないおもしろさがある。ひとしきり走り、こうして自然のなかに停まっている光景を眺めて悦に入るオーナーも多いのでは
どこか懐かしくも新しいスタイリングのFJクルーザーは、こうした砂漠から街中まで、景色に同調しながらも、強い存在感がある

(写真:寺田昌弘・三浦昂)
(テキスト:寺田昌弘)

[ガズー編集部]