ハイラックス、ランクルが南米大陸に挑む!ダカールラリー2017直前情報

次回で39回目を迎えるダカールラリーは、1月2日~14日に南米大陸で開催される。初開催国となるパラグアイの首都アスンシオンをスタートし、一度アルゼンチンに入り、そこから北上しボリビアへ。折り返し地点となるボリビアの首都ラパスで1日休息したら南下し、再びアルゼンチンに入り、ゴールのブエノスアイレスを目指す。総走行距離約9,000km、13日間に及ぶラリーは、標高3,000mを超えるステージが6日間あったり、1日約1,000kmを走るステージがあったりと選手にもマシンにもとても過酷なラリーとなる。エントリーはバイク144台、クワッド37台、オート78台、UTV(軽量バギー)8台、トラック50台。今回のルートの見どころとともに、トヨタ車で挑む代表的なチーム、そして日本から参戦するチーム、選手を紹介しよう。

3か国を走破する壮大なラリー

スタート前日となる1月1日夜、パラグアイの首都アスンシオンでセレモニースタートをしながらダカールラリー2017は始まる。2日・第1ステージは39kmと短いSSでマシンをチェックしながら走り、その後アルゼンチンへ国境を越える。しかしトップチームは翌ステージのスタート順がかかっているので初日からアタック開始。というのも3日・第2ステージの275kmのSSが、おそらくほぼ1本道で砂埃がひどく、抜くことが難しいステージだからだ。4日・第3ステージは急に気温も標高も上がり、川渡りなどルートに変化が出てくる。ただここまでは順調に来ると思うが、5日・第4ステージは、ここから6日間標高3,000m以上での戦いとなる初日でしかも砂丘が待ち受けている。ただでさえ酸素が希薄で辛くなるのに、砂丘でスタックしたらスコップで砂を掘ったり脱出作業は地獄そのものだ。6日・第5ステージはアルティプラーノと呼ばれるこの地域特有の標高の高い高原を走るが、SS終盤にまた砂丘が待ち受ける。トップチームはいいが、プライベーターにとっては日が暮れたら一気に走りにくくなる。7日・第6ステージはチチカカ湖を眺めることもできるが、SSが527kmと長く、序盤の砂丘で苦戦したらゴールは日没になってしまうタフなステージ。翌日が休息日だが、その日にゴールできない選手も出てくるだろう。
ボリビアの首都ラパスで1日だけの休息をしたら、9日・第7ステージから10日・第8ステージにかけ、アシスタンスが作業できないマラソンステージとなる。選手たちだけでマシンのメンテナンスをしなければならないステージなので、いかにマシンを大事にしながら速く走るかが重要になる。11日・第9ステージはSS406kmを含む977kmと今大会最も長い距離を走る。SSはナビゲーションが難しく、このステージは勝敗を決める大事なステージになりそうだ。12日・第10ステージは前半にトライアルセクションがあり、体力を使う。終盤は走りやすいが、ちょっとしたミスによってタイムロスしてしまう可能性があり、最後まで気が抜けない。13日・第11ステージはWRC(世界ラリー選手権)のようなルートを走る。コルドバは実際にWRCが開催されるエリアで、ここで選手たちに大きなサプライズがあるというが詳細はわからない。そして14日・第12ステージは64kmと短いSSを走り、あとは長いリエゾンを走ってゴールのブエノスアイレスへ向かう。
あくまで予想だが、第4、第5ステージが前半の大きな山場でここをいかにトラブルなく抜けた選手たちがいい順位をキープできるだろう。逆にここで大きくタイムロスをすると取り返すチャンスが少ないだけに勝負は厳しくなる。後半はマラソンステージも気になるが、やはり11日・第9ステージをいかにミスコースすることなくゴールするかが勝敗のカギを握るだろう。現在ボリビアでは記録的な干ばつで、乾ききったルートは連日砂埃に悩まされるだろうが、南半球はこの時期、突然の雷雨もあり、ひとたび雨が降るとルートは一気に泥と化し、波乱を生むから天候も気になるところだ。今回は川渡りや砂丘、高原、山越えなどバラエティに富んだルートで、途中チチカカ湖やウユニ塩湖などもあり、南米大陸ならではの風景のなかをマシンが走る。

総合優勝を狙うハイラックス

オート部門は、前回王者のプジョーがマシンを大幅にバージョンアップし、ドライバーもスター選手揃い。バイク、オート部門で総合優勝記録を伸ばしているステファン・ペテランセル選手をエースに、WRCでレジェンドとなったカルロス・サインツ選手、セバスチャン・ローブ選手そしてバイク部門で上位入賞を重ねてからプジョーワークス入りしたシリル・デプレ選手と4台体制で連覇を目指す。その座を狙うのがTOYOTA GAZOO Racing SOUTH AFRICA(TGRSA)のハイラックス。前回大会でハイラックスに乗り3位だったジニール・ドゥビリエ選手と前回大会MINIに乗り2位だったナサール・アルアティア選手が今回ハイラックスに乗り、ダブルエース体制で王者プジョーに挑む。

左/ドライバー:ジニール・デュビリエ選手・右/ナビゲーター:ディルク・フォン・ジツェビッツ選手
プジョーが2WDのバギーなので、TGRSAも新たにバギータイプのハイラックス・エボを開発しテストを繰り返していたが、次回は今まで通り4WDのハイラックスをアップデートして参戦する
プジョーやMINIが搭載するディーゼルターボエンジンとハイラックスが搭載するガソリンエンジンのリストリクターサイズの差が少なくなり、今まで高所で不利だったハイラックスも今回は同等に戦えるようになった
ギャップも軽々と飛び越えるハイラックス
右:ドライバー:ナサール・アルアティア選手。左/ナビゲーター:マチュウ・バウメル選手。2016年のクロスカントリーラリーのワールドカップをハイラックスで走って優勝を飾り、10月のラリー・オブ・モロッコでは、プジョーに乗るカルロス・サインツ選手に勝っているだけに楽しみだ
カタールの英雄、ナサール選手は母国の威信にかけて走る。ボディリヤに大きくカタールの文字があるのはその証だ
荷台部に見えるリヤはとても軽く、フロントに荷重がかかるように見えるが、この走りを見る限り、リヤにしっかりトラクションがかかっているのがわかる

2012年から南アフリカトヨタのチームとしてハイラックスで参戦し、デビューイヤーに総合3位に入る活躍を見せた。翌年には準優勝したが、以降4位、2位、3位と総合優勝まであと一歩。ハイラックスは毎年アップデートされ、前回大会から新型ハイラックスとなった。今回こそ総合優勝へ向け、期待が高まる。

今回からRedBullがスポンサーになったTGRSA。GRの名にかけてオート部門の頂点を目指す

市販車部門4連覇を目指すランドクルーザー

総合優勝を目指すスーパープロダクション部門は改造範囲が広いが、市販車部門はその名の通り、市販車をベースに限られた補強、サスペンション交換そしてロールバーなどレギュレーションで規定される安全装備をする部門だ。それだけに市販車としての信頼性、耐久性、悪路走破性の高さを持っていなければ現在のダカールラリーでは完走すら難しい。前回大会ではトヨタ車しかエントリーしなかったというくらいランドクルーザーの信頼性の高さは世界に知れ渡っている。その頂点に立つのがランドクルーザーの生産車メーカーであるトヨタ車体のラリーチーム<Team Land Cruiser TOYOTA AUTO BODY(以降TLC)>だ。
今回は市販車部門4連覇を目標にチーム体制を変更した。マシンはランドクルーザー200の2台体制で挑む。ラリーのハイスピード化に対応するため、約16,000kmもの耐久テストをしながら鍛え上げた新型サスペンションにしスピードアップを狙う。1号車のドライバーには、過去総合トップ10入りも果たした実力を持つクリスチャン・ラヴィエル選手を新たに迎え、ナビゲーターには昨年チームの部門優勝にも大きく貢献したジャン・ピエール・ギャルサン選手を継続起用した。そして2号車は昨年ナビゲーターからドライバーへの転向を果たし、前回大会で見事完走を果たしたTLC初の社員ドライバー三浦昂選手を継続起用。ナビゲーターは前回大会同様、ローラン・リシトロイシター選手。彼らは今年ロシアからカザフスタン、中国を走るシルクウェイラリーにも参戦し、完走はもちろん互いのスキルアップを果たしてきた。 TLCは2007年より廃食油から作られるバイオディーゼル燃料を使用し、環境への配慮をしながらモータースポーツ活動を継続している。

市販車部門4連覇を目指すTLC。メカニックにはトヨタ自動車の社員や福岡トヨタのディーラーメカニックも参加
1号車はフランス人コンビ。ドライバーには、過去ダカールラリー総合トップ10入りも果たした実力を持つクリスチャン・ラヴィエル選手(左)が新たに加入。ナビゲーターには昨年チームの部門優勝にも大きく貢献したジャン・ピエール・ギャルサン選手(右)
クリスチャン選手もこのランドクルーザーをとても気に入っている
2号車は前回同様のコンビ。ドライバーはトヨタ車体の社員の三浦昂(あきら)選手(右)、ナビゲーターはローラン・リシトロイシター選手(左)。1号車をサポートしながら上位での完走を目指す
3トンを超えるランドクルーザーで軽々とジャンプ。ランドクルーザーの信頼性、耐久性、悪路走破性の高さを証明しながらゴールを目指す

カミオン部門でクラス8連覇と総合上位入賞を目指す日野レンジャー

ダカールラリーならではの醍醐味はカミオン部門にある。18,000ccといった大排気量エンジンを搭載したマシンやエアサスペンションを装備するマシンなど、オート部門のマシンと遜色ないスピードで走るカミオンがしのぎを削るなか、日本からはHINO TEAM SUGAWARAが2台の日野レンジャーで今回も挑む。10,000cc未満のエンジンでマシンもカミオンのなかでは小柄だが、リトルモンスターとして世界から注目されている。チーム代表で1号車をドライブする菅原義正選手はすでに33回連続参戦記録を持つレジェンド。過去バイクやオートでも参戦し、誰よりもダカールラリーを知る日本人だ。そして2号車をドライブするのは息子の菅原照仁選手。10リットル未満クラス連勝記録を伸ばすチームのエースだ。こちらもマシンテストを兼ねてシルクウェイラリーに参戦し、帰国後マシンのアップデートを行い、万全の体制で連覇とともに総合上位入賞を狙う。

HINO TEAM SUGAWARAは日本人で構成される。メカニックは日野自動車社員、福島、石川、岡山、広島と全国の日野ディーラーから選抜された優秀なメカニックがレンジャーを支える
(左から)1号車ナビゲーターの高橋貢選手、1号車ドライバーで日本人唯一のダカールレジェンドに選ばれた菅原義正選手、クラス連覇、総合上位入賞を目指す2号車ドライバーの菅原照仁選手、ナビゲーターの杉浦博之選手
2台の日野レンジャーでダカールへ挑む。左が2号車、右が1号車。正義、勇気、強さを表す赤を基調とした隈取りをデザインしたヘッドがかっこいい。鯉のぼりがトレードマークだが、1号車が赤、2号車が青で見分けられる
海外ラリーに参戦し、そのデータをもとに日野自動車で改良する。日野レンジャーは年々、速くそして強くなっている

モト部門に初参戦する日本人ライダー

次回大会にひとりの日本人ライダーが初参戦する。俳優の風間晋之介選手。父はパリダカールラリーやバハ1000など世界最高峰のオフロードレースに参戦し、北極点、南極点へバイクで到達し、エベレストにも登った(高度6,005m)冒険家の風間深志さん。晋之介さんは、幼い頃から父がバイクで世界中の大自然に挑む姿に憧れ、本人もアメリカで武者修行をし、国際A級のモトクロスライダーとして活躍した。すでにバハ1000には親子で参戦し、今回は父が挑んだダカールラリーに初めて挑む。深志さんも監督として同行する。

日本人としてパリダカールラリーのモト部門に初参戦した風間深志さん(左)と今回初挑戦となる息子の風間晋之介選手(右)
マシンはヤマハYZ450F。フランスヤマハ系チームのサポートを受け、完走を目指す

オート部門で総合優勝を目指す唯一のジャパンブランドであるトヨタ、市販車部門4連覇に挑むTLCにはオート部門唯一となる日本人ドライバーの三浦選手がいる。そしてカミオン部門、モト部門には2組の日本人の親子鷹が挑戦する。日本のちょうど反対側の南米大陸でジャパンブランド、日本人選手が地平線の向こう側にある栄冠を目指して駆ける。ぜひ一緒に南米大陸を一緒に走っている気分で応援しよう!

(写真:ASO、TOYOTA GAZOO Racing SOUTH AFRICA、トヨタ車体、日野自動車、Spirits of KAZAMA)
(テキスト:寺田昌弘)

[ガズー編集部]