次回40回を迎えるダカールラリーの説明会に関係者が集結
世界一過酷なラリーとして名高いダカールラリーも次回で40回を迎える。その概要を世界各国で紹介する「ダカール ワールド ツアー」が4月7日にスペインから始まり、インド、オランダ、イタリア、中国を回っている。そして日本で4月22日に開催され、チームランドクルーザー トヨタオートボデーや日野チームスガワラなど、現在参戦し続けるチームだけでなく、三菱パジェロで総合優勝した篠塚健次郎さんや、日本人で初めてバイクで参戦した風間深志さん、過去参戦した方や、今後挑戦したい方など100名近くが参加した。そして今年のダカールラリーに参戦した日野チームスガワラの菅原義正さん、照仁さん、モト部門に初参戦した風間晋之介さんとその親である風間深志さんによる親子トークショーも開催され、会場を大いに沸かせた。
ダカールラリーの意義
ダカールラリーは、日本では「パリダカ」の略称で知られている通り、もともとはフランス・パリをスタートし、サハラ砂漠を走破しセネガル・ダカールへゴールするアドベンチャーラリーだった。<A challenge for those who go. A dream for those who stay behind>(行くものには挑戦、とどまる者には夢)という言葉をモットーに<私にできるのは、“冒険の扉”を示すこと。扉の向こうには、あらゆる危険が待っている。その扉を開くのは君だ。望むなら連れて行こう>創始者のティエリー・サビーヌの言葉と砂漠に憧れた者たちが、地平線の遠く向こうにあるダカールを目指してサハラ砂漠に挑んだ。しかしアフリカの政情不安から2009年より舞台を南米大陸へ移し、ラテンならではの活気、歓声のなか新たなダカールラリーとなり、新たな人気を博している。
- モンベル高輪ビル2階で開催された「ダカール ワールド ツアー」。このなかに入ったらダカールラリーに染まる。そう思うと、この扉はまさしく「冒険の扉」だ
- 会場には開始時間よりかなり早い時間から参加者が集まった
主催者のASO(Amaury Sport Organisation)からグザビエ・ガヴリーさんが来日し、ダカールラリーのことや40回目となる次回について説明した。通訳はダカールラリーの日本事務局の志賀あけ美さん。グザビエさんは、まず日本に感謝を伝えたいと話し始めた。「日出づる国、日本は、選手はもちろん、三菱、トヨタ、日野、ホンダ、ヤマハなど昔から今も多くの参加者が乗るクルマやトラック、バイクを作ってくれている。ダカールはこういった日本のクルマやバイクのおかげで、多くの挑戦者が出られる」確かに三菱は、プジョーやシトロエン、フォルクスワーゲンなどワークスチームと総合優勝を争い、ダカールを盛り上げた。トヨタはメーカー別参加台数で、どのメーカーよりも多く、オフィシャルカーも提供している。ホンダ、ヤマハはモト部門でトップ争いをするだけでなく、初めて参加する者に乗りやすく信頼性の高いバイクをリリースしている。ほかにも日産、イスズでオート部門に参戦する海外選手もいる。
- 日本事務局の志賀あけ美さんは、創成期の頃からコーディネーターとしてダカールに参加。サハラ砂漠に魅せられ、今もモーリタニアで人道支援活動を展開しているアフリカをよく知る方。グザビエさんも一目を置く存在だ
- 映像や画像を観ながらプレゼンテーションを聴く
- グザビエさんは、大会期間中、スタートポディウムで選手一人ひとりを迎え入れたり、ゴールポディウムで選手たちの完走を共に喜ぶ、選手にもっとも近いところにいてくれるやさしいオーガナイザー
1978年12月26日、パリのトロカデロ広場に集まったバイク、クルマなど182台の冒険者たちによって約10,000kmを走破しダカールを目指す第1回大会が開催された。最初は寝袋や食事など必要なものは、各々参加者が持参した。やがて荷物を運ぶサポートカミオンやケータリングなどが充実し、参加者たちは走ることに専念できるようになっていった。時にはフランスの名店FAUCHONがおいしい料理を提供することもあった。南米では、やはり牛肉を中心に(焼き方もミディアム、ウェルダンと用意される)、日替わりでいろんな国の料理が提供される。運営サイドも参加者たちにラリーに集中しやすい環境を整えている。そして何より変わったのは、インターネット、SNSによる配信だ。2017年大会では沿道に450万人以上もの観客が集まり、テレビでは世界190ヶ国でのべ1,200時間も放映されているが、特にSNSの伸びがすごい。動画再生はのべ2,360万回、Facebookのトータルリーチはなんと9,400万回とほかのモータースポーツでは考えられないほどのアクセス数を誇る。日本から現地で同行取材するのは、JSPORTS、東京中日スポーツ、トヨタ、ホンダとなる。特にJSPORTSは、日本から参戦するチームにフォーカスして取材、撮影をしていて観ていて楽しいと評判だ。
- トロカデロ広場に集まった参加車
- パソコンやスマホからダカールへアクセスするメディアはいくつもあるが、Facebookトータルリーチが9,400万回、競技車両がどこを走っているかを観られるIRI TRUCKでも420万回ある
- JSPORTSで現場取材をする杉山さん。日本から参戦するチームにとって、杉山さんの存在は大きい
40回大会はペルー、ボリビア、アルゼンチンを走破
次回、40回を迎えるダカールラリーは、1月6日にペルー・リマをスタートする。ペルーでは砂丘やフェシュフェシュと呼ばれるベビーパウダーのような柔らかい砂と硬い路面が入り混じる悪路を走る。そしてボリビアでは標高3,000m以上の高所で山岳路や砂丘を走り、アルゼンチンへ。アルゼンチンでは高速ステージや砂丘が待ち受ける、バラエティーに富んだルートが発表された。グザビエさんは「SS(競技区間)を長く、リエゾン(移動区間)を短く設定することで参加者に存分に楽しんでもらえるルートになる予定だ」という。1月20日にコルドバへゴールする15日間(休息日含む)、3か国を走破するラリーになる。
- 次回のダカールラリーのルート
- 次回からMOTULが大会公式潤滑油パートナーになる
グザビエさんは「次回のダカールもより安全で持続可能なラリーを目指しながら、選手たちへの負担を減らし、走ることに集中できるものにしていきます」という。メディカルサポートは現在、ドクターヘリが7機、救急車32台、医療関係者60名の体制だ。交通、治安に関しては22,000人もの警官や兵隊が警護にあたる。持続可能性という点では、カーボンオフセット100%を実行するため、2011年からペルーの環境プロジェクトに参画し、破壊の危機にあるアマゾンの森林約120,000haを10年かけて再生することに支援金を出している。さらにアルゼンチンでは社会的弱者や被災者などを支援するNPO・TECHOの活動を支援し、すでに緊急用の住宅を350軒建てている。日本ではあまり知られていないが、社会、環境との関わりに配慮してダカールラリーは行われている。
日本の親子鷹たちがダカールを盛り上げる
次回ダカールラリーのプレゼンテーションに先がけ、今回のダカールラリーに参戦した父子2家族のトークショーがあった。風間親子と菅原親子だ。風間深志さんは、82年にモト部門で日本人初となるパリ・ダカ―ルラリー参戦。85年にはバイクでエベレストに挑み、高度6,005m の世界高度記録を樹立した。さらに87年に北極点、92年には南極点に到達するなど、バイクで世界を駆ける冒険家だ。息子の晋之介さんは、モトクロスの国際A級ライダーで俳優。今回、ダカールラリーに父親を監督に初参戦した。一方、菅原義正さんは83年にモト部門に初参戦。その後オート部門に参戦し、92年から日野レンジャーとともにカミオン部門に参戦している。前回大会で34回連続出場を果たす、まさしくダカールラリーのレジェンドだ。息子の照仁さんは98年にメカニックとして参加し、その後、義正さんのナビゲーターをしながら経験を積み、05年からドライバーとなり親子で2台の日野レンジャーを走らせる。
- 左から菅原照仁さん、菅原義正さん、風間深志さん、志賀あけ美さん、スクリーンにskypeで登場した風間晋之介さん
風間深志さんは、今回、晋之介さんの初参戦のために13年ぶりにダカールラリーに監督として参加したが「南米でのパリダカはどういったものかと思ったけど、やはりパリダカだね、あまり変わっていなかった」という。第4回大会を知る深志さんにとって35年経った今も、その過酷さ、冒険というおもしろさはしびれるほど感じたそうだ。「このラリーは1位でも100位でも同じ苦労をしている。遅い人は遅い人なりの苦労を、速い人は速い人なりの苦労を背負って競っている。それぞれ夢を持ってダカールに挑んでいる。それぞれに生まれるドラマがある。それがダカールなんだと」
- ボリビアの高所は選手でなくてもきつかったと、今回のダカールラリーの過酷さを語る風間さん
息子の晋之介さんは16歳で渡米し、帰国後もモトクロスライダーとして走り、現在は俳優として活躍している。晋之介さんは父親が挑んでいたパリダカに幼少の頃から興味があった。「小さい頃、親父がいないと海外をバイクで走っている。海外をバイクで走るのはうちでは普通のことで、そのなかにパリダカがあった。いつかは一緒に行ってみたいと思っていました」。2015年には親子でBAJA1000に参戦した。これも深志さんが、83年に日本人として初めて参戦したレースだ。そして思い続けていたダカールへ。深志さんは「今回、晋之介は67位で完走してすごいと思ったけど、俺も昔、総合18位で完走したから、もっとすごいよね?」と自身を振り返りながら会場を沸かせた。そして「晋之介は、途中ガス欠で困っていたクルマに自分のバイクからガソリンを分けてあげたり、パリダカならではのことをしっかりしていた。それが偉い」と満面の笑みで息子を讃えた。晋之介さんも「これだけ経験豊富な親父がそばにいてくれたのは心強かった」と父へ感謝しているとskype越しに伝えた。
- 雨が多かった今回のダカールラリー。逃げ場のない水たまりに果敢に飛び込む晋之介さん。ウェアの予備がなかったので、ずぶ濡れのままスタートした日もあった
- ブエノスアイレスのゴールポディウムに上がる。安堵と達成感からほっと笑顔になる
- 親子で走り切った今回のダカールラリー
- 山梨県山梨市西沢渓谷にある「道の駅みとみ」に、今回のダカールラリーで晋之介さんと共に走ったヤマハ・YZ450と、35年前に深志さんが日本人としてダカール初出場を果たしたスズキ・DR500が同時に展示されている
菅原義正さんは連続参戦記録を34回とし、照仁さんとともに日本人として菅原親子だけがダカールレジェンドとして認定されている。風間さんに「どうしてそんなに長く続けられるんですか?」と質問されると「いつもうまくいかないんですよ。だから次回はもっとうまくいくようにと出るんですが、またうまくいかない。終わりがないんですね」という。義正さんはよくダカールラリーを学校に例え、なかなか卒業できないという。私も現場にいたが、97年のダカールラリーで日野レンジャーは、ワンツースリーフィニッシュをした。あの光景は、日野レンジャーで挑んできた義正さんにとって最高の瞬間だったと思う。それをベンチマークにすれば確かにそう思えるのかもしれない。レベルの高さがすごい。
- 風間さんが照仁さんに「親子で一緒に出るのは、やりにくくない?」と聞いた瞬間
- 日本人で菅原親子しか持っていないダカールレジェンドの称号
- 今回のダカールラリーで各申請や保険、ライセンスチェックなどを終え、ほっとしている菅原親子
- 序盤から快調に飛ばす照仁選手
- ビバークでの光景
- 日本を代表するチームの意志に多くの企業が賛同している
- 南米らしい涸れ川を走る義正選手
- 2台揃って完走。そして照仁選手の10リットル未満クラス8連覇、総合8位をチームみんなで喜ぶ
さらに風間さんは照仁さんに「親父と一緒に走るのってどうなの?今では息子のほうが速いし。やりにくい?」と聞くと、照仁さんは「僕は初めて選手として出たのは、親父のナビでしたから、最初はすごいなと思いました。そして僕もドライバーになって走ってみるとさらに親父のすごさがわかりました」。今回のダカールラリーでは、カミオン部門で総合8位に入る大健闘をみせた照仁さん。その目標に向け確実に順位を上げてきている。
- ダカールラリーの歴史を知る方々の話はおもしろい
日本が世界に誇る親子鷹の菅原義正&照仁親子そして風間深志&晋之介親子。モータースポーツに親子で挑むことで、よりその絆が深まっている。道なき道を切り開いてくれた父親への敬意。そして息子として父親に胸を張って並ぼうと懸命に挑む姿。この親子鷹のこれからの活躍を応援したい。
TLCはダカールラリー2018へ参戦発表
このイベントが終わった数日後、2台のランドクルーザーで市販車部門に挑むチームランドクルーザー トヨタオートボデーは、早くも次回大会への参戦を発表した。体制は今回同様2台体制で、角谷裕司監督(トヨタ車体㈱広報室)がチームを率い1号車にはクリスチャン・ラヴィエル/ジャン・ピエール・ギャルサン組、2号車には三浦昂(トヨタ車体㈱広報室)/ローラン・リシトロイシター組。5連覇に向け準備が始まった。40回の記念大会となる次回のダカールラリーはTLCや日野チームスガワラなど日本チーム、ジャパンブランドのチームの活躍に期待したい。
- インタビューを受ける角谷監督
- ドライバーとしてさらに高みを目指す三浦さん
- 参加者
篠塚健次郎さんをはじめ、過去参戦した方々や今後参戦を考えている方々と一緒に集合写真を。この画像がダカールのオフィシャルページに使われた
- 三浦さん、菅原照仁さんと自撮りをするグザビエさん。このスマホで撮った画像もオフィシャルページにアップされている
(写真:日野自動車・Spirits of Kazama・寺田昌弘)
(テキスト:寺田昌弘)
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