ランクルで砂漠クルーズ 作家・鈴木光司氏の砂漠の初ドライブに密着

「リング」「らせん」などJホラーを確立し、日本はもちろん世界でムーブメントを起こした作家、鈴木光司さんは、バイクやヨットで世界を旅するアクティブな一面を持つ。私も一緒にバイクでツーリングに行ったり、ヨットではイタリア、スペイン、タヒチ、タイなどセーリングをしている。鈴木光司さんは何事も体験することが大事で、これがなければ自身が生み出す作品にもリアリティ、臨場感が生まれないと言う。その鈴木光司さんに今回、ドバイの砂漠をランドクルーザーで走ることを体験していただいた。

クルマも文章もDRIVE感が大切

2台のランドクルーザー200と鈴木光司さん
2台のランドクルーザー200と鈴木光司さん

鈴木光司さんが作品を手掛けるとき、主人公と数人の登場人物、時代背景ぐらいしか決めないで書き始める。これは意外だ。ふつうストーリーや読者へのサプライズ、クライマックスなど決めてから書くものだと思っていたし、学校の授業でも起承転結を考えてから書きなさいと教わった。「決められたレールに 文章を並べてもおもしろくない。ぼくの作品で大切なのはDRIVE感。この先どこへ向かうのか、書いている本人でさえ、そのときはわかっていない。だからどこへでも向かえる自由がある」。仮に執筆中に現実の世界で地震があったりすると、そのまま地震がシーンとして書かれたりする。これまでゴールまでたどり着けなかった作品が数百もあると言う。それでも勇気と探究心を持って書き続けるから、読者を誰も表現したことのない新しい世界にひとすじの轍を引き、誘ってくれる。

ドバイの砂漠にもラクダがいる
ドバイの砂漠にもラクダがいる

今までアメリカの土漠やモンゴルの草原に突然現れる砂地など、バイクで走破したことがある。しかし砂漠は未経験だという。さてスタックすることなく砂漠を走れるか。

まとわりつく砂、ランクルのすごさを知る

普通に走っただけでもこれだけ深い轍がつく
普通に走っただけでもこれだけ深い轍がつく

今回乗っていただいたのはトヨタ・ランドクルーザー200。言わずと知れた大陸の王者と呼ばれるクルマだ。ドバイの砂漠では観光用にデザートサファリが人気で、そのクルマはみなランドクルーザー200だ。ドライバーに聞くと「砂漠でランクルほど走りやすいクルマない」とみな口を揃えて言う。絶対的な相棒で砂漠の奥地からも生きて帰って来られるクルマだと絶大なる信頼をおいている。

同じように見えても柔らかい場所と硬い場所があり、ルートを選びながら走る
同じように見えても柔らかい場所と硬い場所があり、ルートを選びながら走る

まずは現地ドライバーに走ってもらう。舗装路から砂漠に入るところでクルマを停め、まず空気圧を落とす。ハイウェイを走り、タイヤも温まっていて260kpaまで上がっていたので、150kpaまで落とす。一般道であれば空気圧を下げると、燃費が悪くなったり、ハイドロプレーニングになりやすくなるが、あえてタイヤの接地面を増やし、接地圧を下げることでスタックしにくくするためだ。ちなみにダカールラリーでは、柔らかい砂丘になるとさらに空気圧を下げる。リム落ちのリスクは一気に高まるので一般的にはおすすめしないが、柔らかい砂を走るときは有効だ。

そしてドライビングだが、ステアリングはゆっくり切り、舵角はできるだけつけないようにする。ステアリングを切りすぎると、砂に対してタイヤサイドがぶつかるようになり、それが抵抗になってスタックする確率が上がってしまうからだ。また急ブレーキも厳禁。タイヤが一気に抵抗となり、スタックしてしまう。さらに砂丘の登りでアクセルを緩めないようにする。緩めてしまうと砂の抵抗で予測以上に車速が下がり、慌ててアクセルを踏むと、砂を掻きすぎてしまいスタックしてしまう可能性がある。なので、一般道で急ハンドル、急ブレーキ、急アクセルを踏まないことと同じで、さらに慎重なドライビングが要求される。

ひととおりの説明を受けて砂漠を走り始めると「海みたいだ。洋上を進むクルーザーのよう」と鈴木光司さんは言う。確かに幾重に連なる砂丘は、外洋の波やうねりに似ている。それを乗り越えたり、サーフィンをするかのように砂丘を使ってターンしたりと確かに似ている。

先導してもらいながら走る
先導してもらいながら走る

そして鈴木光司さんに運転してもらう。走り始めると「僕が乗っているクラウンではこうは走らないよね。これはすごい。埋まらず当たり前のように走らせられる」と驚いた。やはり外洋をヨットでセーリングしているだけあって、砂丘の越え方などとてもうまい。最初はゆっくり走っていたが、走るごとに走らせ方がわかってきて、砂丘の登りではしっかり加速しながら登り、下りはエンジンブレーキを使って慎重に下る。ドライビングにめりはりがでてきた。体験することを大事にしている鈴木光司さんにとって、ただ体験するのではなく体験しながら何かを見つけたり、うまくなったりと前進、成長していくことが大切なんだと気づいた。

夜露がつくように細く長い枝葉の木々もいくつか自生している。生命の力強さを感じる
夜露がつくように細く長い枝葉の木々もいくつか自生している。生命の力強さを感じる
砂漠を走るランドクルーザーは、外洋を航行するクルーザーのようだ
砂漠を走るランドクルーザーは、外洋を航行するクルーザーのようだ

砂漠走行を体験していただき感想を伺うと「これだけ砂漠を簡単に走れるとは正直思っていなかった。確かにバイクでアメリカの土漠やモンゴルの砂地も走ったけど、もっと堅かった。ここはタイヤに砂が絡みつくような感じ。それでも走るランドクルーザーがすごいと言われる理由がわかった。これなら雪道でも同じように気軽に走れるね」と360度、見渡すかぎりの砂丘のなかで、最高のDRIVEを体感した鈴木光司さん。これからの作品にまた新たなDRIVE感が生まれることを楽しみにしたい。

観光のデザートサファリの一行にあった。みなランドクルーザー200だった
観光のデザートサファリの一行にあった。みなランドクルーザー200だった

ドバイ・デザートサファリ・アルバム

(テキスト/写真)寺田 昌弘

MORIZO on the Road