旅をしたかった。だからランクル70を相棒にオーストラリアとサハリンを目指した
アフリカ、オーストラリア、中東と過酷な道が多い国で、特に絶大な信頼を得ているクルマといえば、ランドクルーザー70だ。2014年夏から日本でも30周年を記念して期間限定発売をした。中古車市場でも人気が高く、いつかはランドクルーザー70に乗ってみたいという人も多い。しかし決して乗り心地がよいわけではなく、舵角も大きくないので取り回しもコツが必要だ。毎年秋に山梨にあるオフロードコースでランドクルーザー70オーナーによるミーティングが開催され、今年は80台を越えるランドクルーザー70が集まった。そのなか愛車でオーストラリアや樺太を走破したオーナーがいた。相棒にしているのはHDJ78Rという、輸出仕様のランドクルーザー70だ。
すでに33年という長い歴史を持つランドクルーザー70は、エンジンだけでも10種類の仕様があり、ホイールベースもショート、ミドル、セミロング、ロング、スーパーロングと5種類ある。ボディは幌やFRPトップ、ハードトップ、ピックアップとバリエーションが豊富だ。HDJ78Rはホイールベースがロング(2,980mm)の2ドアハードトップ、エンジンは1HD-FTE(4,164cc直列6気筒ディーゼルターボ)を搭載。前後ともリジットアクスルでフロントはコイルスプリング、リヤはリーフスプリングサスペンションだ。その信頼性、耐久性、悪路走破性の高さから民間だけでなく、国連や赤十字、国境なき医師団など途上国支援に採用している。
- エンジンは1HD-FTE。4,164cc直列6気筒ディーゼルターボ。最高出力122kW/3400rpm 最大トルク 380Nm/1400rpm。低速から出るトルクのおかげで運転しやすい
地平線が観たかった。だからランクルで旅に出た
このランクルのオーナーの手塚善道さんは、もともとバイクで日本国内をツーリングし、自分で運転して自由にどこへでも行ける旅の楽しさを知った。しかし北海道に行っても思っていた地平線が観られず、こうなったら海外を走ろうとオーストラリアをバイクで旅した。4か月間、約1万8000kmを走破した。エアーズロックの頂上に登り、夢描いていた地球が丸いとわかるほど、長い地平線をやっと観られた。ただオーストラリアでのもうひとつの目標であった西オーストラリア州にある世界最長の過酷な道と言われるキャニング・ストック・ルートの走破は、そのバイクでは不可能だった。もともと金鉱労働者のために食料となる家畜を運ぶ道として1908年から50年近く使われていたが、その後は廃道となった。約1,800kmの道にはガソリンスタンドはなく、51の井戸しか目印がない。大小約700もの砂丘を越えたり、川渡り、岩盤路など過酷な道は、いつしか冒険者たちの目指す道となっていた。ここをひとりで走破するには、クルマしかないと思い、調べていくうちにランドクルーザー70に行きついた。
「シンプルな構造で耐久性の高いリーフスプリングの4WDがいいと聞いて。当時、パリダカールラリーの市販車部門でも、一発の速さがないにしても、ライバルが故障でリタイアしていくなか、ランドクルーザー70は生き残って上位完走していた。これこそ自分が相棒にするクルマだと確信しました」。と手塚さんは言う。特にオーストラリアは古くからランドクルーザーが販売され、遠隔地でも整備や修理が有利になる。
そして2013年7月。相棒のランクルをオーストラリア・シドニーの港で受け取り、走り始めた。当初はキャニング・ストック・ルートを単独無補給で走破を夢見ていたが、23年の間にさらに行きたい場所がオーストラリア全土に増えていた。いつでもどこへでも自由に行けるランドクルーザーとの旅だから、その夢もかなえられる。結局約6か月、総走行距離は3万7000kmになった。
シドニーから北上し、ダーウィンへ。反時計回りにオーストラリアを走り、キンバリー地方へ向かい、いくつかの過酷なルートを抜け、グレート・サンディ砂漠をキャニング・ストック・ルートで縦断した。西側のパースに到着し、過酷な環境で壊してしまったルーフラックやラテラルロッド、冷却水系のトラブルや無線のアンテナの交換など、ランクルの修理をした。そこからまた内陸に入り、ギブソン砂漠を越え、ガンバレルハイウェイを横断し、思い出のエアーズロックへ。近くのアリススプリングスでオイル交換などを済ませたのち、さらにシンプソン砂漠を東へ。その後メルボルン、ケアンズへ行き、シドニーに戻った。オーストラリア大陸を一周しながら、内陸の過酷なアウトバックを存分に走破した。
「10回パンクしました。このエリアを走るには、スペアタイヤを2本装備するのが必須なのですが、序盤は2日で3回パンクしてしまったことも」と手塚さんが過酷な冒険行を楽しそうに教えてくれる。
今度はサハリンをランクルと走る
相棒のランクルとともに壮大な旅をした手塚さんは、稚内~コルサコフ(サハリン)間のカーフェリーが2015年で打ち切りになるという話を聞き、クルマで渡れなくなる前に行ってみた。カーフェリーで外国に渡るのであれば、通関の手続きも比較的容易だ。南北約1,000kmのサハリンは、郊外が観光地化されていないだけでなく、道がない所も多く、4WDにとっては最高のフィールドだった。
愛車で海外を走る醍醐味とは、そしてランクルとは
クルマで旅する最大の醍醐味は、自由に好きな所に行け、好きなだけいられるということだと言う。たとえばオーストラリアならどのエリアでも、クルマで旅する文化があり、レンタカーもキャンピングカーなど充実している。宿の確保を心配せずに旅ができる。食材を仕入れてキャンプも楽しめる。また日本では体験できない大自然のなかを思いっきり走れる爽快感は、かけがえのない体験になる。見知らぬ土地で友達ができる。特にランドクルーザーに乗っている人同士であれば、なおさらだ。「ランクルに乗り始めた頃は、とてもオーバースペックなクルマだなと感じていましたが、実際にオーストラリアの砂漠を走って、必要な仕様だったのだと実感しました。旅で出会ったランクル仲間のなかには、エンジン交換なしで走行距離が80万kmを越えているランクルもあった」。と言う。手塚さんは、ランクルとともに走るごとにランクルのすごさを知る。これからも相棒のランクルとともに、また旅に出ることを楽しみにしている。
- ランドクルーザー70と旅をした手塚善道さん
- 今度はどの道をランドクルーザー70と旅するのか。これからが楽しみだ
(写真:手塚善道 寺田昌弘)
(テキスト:寺田昌弘)
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