ヤマハ発動機とトヨタのエンジニアが互いの4WDをオフロード走行! メーカーを超えた、技術勉強会
もともとは技術部門や製造部門の有志の勉強会から始まり、1947年にトヨタ技術会が誕生。今年で70周年を迎えたトヨタ技術会が、アイデアコンテストや小、中、高校生向けレクチャーだけでなく、さらに未来に向けてもっとモノづくりの輪を広げるために若手社員が企画したのが、他メーカーとのコラボレーションです。ヤマハ発動機技術会と共同でイベント内容を考え、今回はオフロードをステージに選び、トヨタはその代名詞とも言えるランドクルーザーを、ヤマハは現在、北米を中心に海外で人気が高くなってきているROV(Recreational Off-Highway Vehicle)を愛知の「さなげアドベンチャーフィールド」に持ち込み、自分で走って、互いの技術を体感しました。
4WDの基本を見て学ぶ
- ヤマハのROV、YXZ1000Rとトヨタのランドクルーザー
参加者は両社各10名。倍率は10倍を超えていたそうです。幸運にも参加できた社員は、ふだんはエンジンやシャシー、電池や先進技術など様々な部署からやってきました。オフロード走行経験者もいれば、初体験という社員もいます。
そもそも4WDの種類や構造がどうなっているのか。フルタイム4WDとパートタイム4WDの違いや、サブトランスファーの役目などを「さなげアドベンチャーフィールド」の梅本米次さんに教えてもらいます。梅本さんは過去トヨタでエスティマなど主にミニバン、ワンボックスの車両設計(サスペンションなど)をし、トヨタ車体(旧:アラコ)ではインホイールモーターを採用した初代COMSを設計したエンジニア。後輩エンジニアのために熱弁をふるいます。また、クルマがスムーズに曲がるために必要なデファレンシャルギヤは、実物のカットモデルを使って機構を見ながら理解を深めます。もちろん4WDに限らず、クルマの旋回時には、内側と外側のタイヤの回転数を変えないとなかなか曲がれません。運動会の行進で内側の人が位置を動かず、外側の人が内側の人を基点に行進して向きを変えることと同じ原理です。
オンロードではメリットの大きいデファレンシャルギヤは、オフロードだとデメリットとなることもあります。たとえば片輪が砂に埋まったり、泥にはまって空転すると、このタイヤに動力を伝え続け、反対側の路面に接地しているタイヤに動力が伝わらなくなります。そのデメリットを補完するために、たとえばデフロックのように機械的にギヤを直結にして両輪を同じ回転数で回すことでスタックから脱出したり、アクティブトラクションコントロールやマルチテレインセレクト、クロールコントロールなど、電子制御でスタックしない走りが実現できます。ランドクルーザーは、いくつかの電子制御で悪路走破性をより高めていますが、なぜ必要なのかを頭で理解できます。
ランドクルーザーが大陸の王者であることを実感
世界約190か国で販売されているランドクルーザーシリーズのなかでフラッグシップがこのランドクルーザー。参加者のなかには、「こんな高級車でオフロードを走っていいの?」というかたもいましたが、オーストラリアやロシア、中近東では特に高い信頼性、耐久性、悪路走破性の高さからこのランドクルーザーを選ぶのが一般常識です。たとえばドバイでは高級ホテル前にはレクサスLX570が停まり、砂丘ではランドクルーザーが走るといった具合です。
運転を教えてくれるのは、トヨタのオフロードトップドライバーのみなさん。オフロードを走ったことのない参加者にとって、クルマが上下左右に揺れるだけでなく、斜めに傾いたかと思えば一瞬、道が見えなくなるほどの急坂を上ったり下ったりするのは、ジェットコースターのよう。さらに自分で運転するから、なおさら怖がっていました。それでもインストラクターの指示通りにクロールコントロールやターンアシストなど電子制御のスイッチを入れると、悪路走破性がさらに高くなるのに驚きます。
クルマの機能を学び、実際自分でステアリングを握って走り、最後はランドクルーザーの開発責任者である小鑓貞嘉チーフエンジニアの話を聞く。大陸ごとでのシェアや用途を聞いていると、ここまで頑丈なランドクルーザーの必要性が見えてきます。これはふだんの自分の生活圏を見ているだけではわからないことです。そして新しいランドクルーザーが誕生するまでに100万km以上(地球約25周分!)も走り、実車評価をしていると聞くと、みな驚いていました。と同時になぜランドクルーザーが強いのかを納得していました。
オープンエアが楽しいROVに大興奮
北米を中心に盛り上がっているROV。もとは多用途4輪車(横2名乗車でステアリングはクルマと同じ円型)で、森や牧場での作業やハンティングなどアクティビティの移動手段として低速で走るタイプが活用されているなか、ヤマハはバイク、ATVで培ったオフロードを高速で走る技術を用い、ROVを拡充し人気を博しています。世界一過酷なラリーと呼ばれるダカールラリーでは、クワッド部門を連覇し続けるほど、ヤマハの4輪バギーの技術の高さは世界的に知られていて、そのノウハウを活かし、2人乗り以上のROVでオフロードを走る楽しさを提案しています。
日本ではお目にかかれないROV。それだけでもわくわくしますが、こちらもヤマハの開発トップドライバー(ライダー?)が同乗して、ドライビングをレクチャーします。4輪でステアリングがクルマと同じで、窓がないのは一見ゴルフカートのようですが、アクセルを踏むと、軽々と加速していくのにみな驚きます。当日は前日から降った雨が、路面を泥にしていたので、オープンエアは気持ちいいのですが、水たまりに入ると泥が飛んできます。
ROVの開発責任者である鈴木孝典プロジェクトリーダーは、自社やトヨタの若手エンジニアがROVで楽しんでいる光景を見てとても喜んでいました。鈴木さんはヤマハ初のCVTスクーターの駆動系を担当したり、ゴルフカートや乗用芝刈り機などをエンジニアとして担当していました。ヤマハモーターヨーロッパでは、スノーモービルやATV、電動車いすなどの商品企画を担当し、帰国後ROVのプロジェクトリーダーをしています。様々なスタイルの乗り物を担当してきたから、ノウハウも多彩でROVに活かされています。
ヤマハのDNAは「人機官能」。乗り手とクルマが一体になったときに興奮や快感を得ることをとても大切にしています。エンジニアはあまり平面で考えすぎず、とにかく立体的にものを作って評価し、また作り直して評価します。だからデザインも躍動的になり、心が動く乗り物を生み出せます。一般的にビジネスマンが仕事をより効率的に向上させていくためにPDCAサイクルという指針があります。PDCAサイクルとはPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)ですが、鈴木さんは同じPDCAでもPassion(情熱)→Desire(かき立てられる衝動)→Create(創造)→Action(新しい可能性の扉を開ける)と、いかにもヤマハらしい考え方に、参加者もびっくりしていました。
新たな視点と熱意がもっといい乗り物を生み出す
トヨタの小鑓さんは、ROVに乗って、軽さが高い機動力を生んでいることに感動し、ヤマハの鈴木さんは、ランドクルーザーが歴史や伝統を重んじながらも、絶えず世界中のユーザーの使用環境を現地現物で知り、クルマづくりに活かしていることに感銘を受けていました。朝は少し緊張した面持ちだった参加者たちは、1日学んで、走って、開発責任者の想いを聞いて、笑顔になっていたのが印象的でした。
同じ乗り物を作るエンジニアですが、ヤマハとトヨタでアプローチの手法がまったく異なることを知って、考え方の多様性として受け入れていました。今後さらに自由な発想と方法で、もっといい乗り物を生み出してくれると期待が高まるおもしろいイベントでした。
- 若手エンジニアのために先輩エンジニアや技能系社員がサポートしたイベント。みんなの笑顔がイベントの意義を表している
(テキスト:寺田 昌弘)
(写真:寺田 昌弘・トヨタ技術会・MARIO JOSE SATO)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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