ダカールラリー2018 全力レポート前半戦・ペルー編
<Je vous emmène aux portes de l'Aventure...Mais c'est à vous de les ouvrir pour défier le sort.>「私はあなたを冒険の扉まで連れて行きます。しかしその扉を開けて運命に挑戦するのはあなた次第です」1978年12月26日、フランス・トロカデロ広場に集まった182台のバイク、クルマそして冒険者たちの前で創始者、ティエリー・サビーヌが話しました。それからサハラ砂漠でいくつものドラマが生まれ、2009年以降、舞台を南米大陸へ移し、40回目を迎えたダカールラリー。
今回はペルーの首都、リマをスタート。幾重にも続く砂丘を越え、ボリビアへ。標高4,700mまで登り、ラパス、ウユニと標高3,000mを超える酸素密度の希薄な高所でのステージを走る。そしてアルゼンチンでは砂丘にキャメルブッシュが点在する走りにくい地形や、涸れ川、川渡りそして直線的なフラットダートの高速ステージを走り、第二の都市、コルドバへゴールする15日間約9,000kmのラリー。モトカテゴリー(バイクおよびクワッド)188台、オートカテゴリー(クルマおよびSxS(小型バギー))103台、カミオンカテゴリー(トラック)44台の335台がエントリーしました。
オートカテゴリーのトップ争いは、唯一のメーカーワークスであるプジョー<TEAM PEUGEOT TOTAL>のPEUGEOT 3008DKRに南アフリカトヨタ<TOYOTA GAZOO RACING SA>(以降TGRSA)のTOYOTA HILUX、そしてMINI<X-RAID TEAM>のMINI JOHN COOPER WORKS RALLYとJOHN COOPER WORKS BUGGYが挑む。
戦闘力の高いバギーのPEUGEOT 3008DKR
プジョーのマシンはエンジンをミッドシップにレイアウトした後輪駆動のバギー。2,993ccV6ツインターボディーゼルで公称ですが最高出力は253kw、最大トルクは800Nm、最高速度は200km/h。ホイールベースが3,000mmですが全長が4,312mmと前後のオーバーハングが極めて短く、全幅が2,400mmと広く、全高は1,799mmと抑えられています。タイヤは37×12.5R17と大径タイヤでサスペンションは前後ダブルウィッシュボーン。
4台体制で、選手はコンビで7勝しているステファン・ペテランセル&ジャン・ポール・コトレ組、同じく総合優勝経験のあるカルロス・サインツ&ルーカス・クルツ組、WRCで9回タイトルを獲っているコンビのセバスチャン・ローブ&ダニエル・エレナ組、モトカテゴリーでともに上位入賞経験のあるシリル・デュプレ&デヴィット・カステラ組と盤石の布陣で臨む。
4WDのTOYOTA HILUX
2012年からダカールラリーに参戦している南アフリカトヨタのチームは、同国のHALL SPEEDというチームが母体。もっといいラリーマシンをということで、毎回アップデートをしていて、今回はエンジンを前軸より内側にレイアウトしたミッドシップスタイルで、四輪独立懸架サスペンションを採用しています。エンジンは5,700ccV8ガソリンエンジン。タイヤサイズは245/80R16。
3台体制で、選手はこちらも総合優勝経験のあるナサール・アルアティア&マチュー・ボーメル組、ジニール・デュビリエ&ディルク・フォン・ツィツェヴィッツ組とこのチームで初参戦となるベルナルド・テン・ブリンケ&ミシェル・ペリン組。ミシェルは過去4回の総合優勝経験のある優勝請負コドライバーです。
2タイプのマシンを投入するMINI
MINIもTGRSA同様、4WDのマシンでしたが、今回新たに後輪駆動のバギーもラインナップしてきました。エンジンはどちらもBMW製2,993cc直6ツインターボディーゼル。最高出力は253kw、最大トルク800Nmとプジョーと同じです(公称)。4WDは全長4,350mm、全幅1,999mm、全高2,000mm。ホイールベースは2,900mm。2WDバギーは全長4,332mm、全幅2,200mm、全高1,935mm。ホイールベースは3,100mm。車両重量は1,700kgです。タイヤサイズは37×12,5 R17とプジョーと同じ。
バギー3台、4WD3台の6台体制ですが、プジョーやトヨタと競い合えるドライバー&コドライバーで考えると、4WDはドライバーが総合優勝しているナニ・ロマ&アレックス・ハロ組、コドライバーが総合優勝しているミッコ・ヒルボネン&アンドレア・シュルツ組、ヤジード・アルラジ&ティモ・ゴトシャルク組、そしてアメリカのバハ500などで優勝しているブライス・メンジー&ピート・モルテンセン組も一発の速さに期待できます。
ペルーステージは柔らかく大きな砂丘に翻弄される
1月6日からスタートしましたが、ステージ1は、SSが31kmと足慣らし程度の距離。ここで初日からTGRSAはナサールが1位、ベルナルドが2位、ジニールは6位。MINIはブライスが4位、ナニが5位。プジョーは11位にステファンがつけるくらいでした。これには理由があり、通常ダカールラリーはモトカテゴリーからスタートするのが一般的で、オートは、バイクの轍を参考にしながら走ることができます。ただし翌日のステージ2は、珍しくオートカテゴリーからスタートしていくことになっていました。だから初日1位となると、轍のない砂丘をミスコースしないように慎重に走らなければならなくなります。
- セバスチャン・ローブがスタートポディウムに上がったとき、ペルーのペドロ・パブロ・クチンスキ大統領が登壇し、スタートフラッグを振った
- 初ステージから砂丘。軽快に走るナサール&マチュー組のHILUX
そこでプジョーはTGRSAやMINIよりわざと下位でゴールし、できるだけ時間差がつかないようなペースで走り、ステージトップのナサールから2分遅れくらいでゴールしています。こうすることでナッサーに追いつけば、スタート時の時間差がありますので、ステージは追い抜くことなく勝てます。そしてステージ2は、プジョーがワンツースリーフィニッシュを決めます。逆にナサールは8位、ベルナルドは10位。ただナサールもこうなることは承知の上で、毎ステージを自分の持てる技術をすべて出すという姿勢で臨んでいました。その分チームメイトのジニールが初日6位と抑え、ステージ2でプジョーの背後にぴたりとつけ4位でゴール。
- ステージ2はプジョーの圧勝。ディフェンディングチャンピオンのステファン&ジャン組/ASO@World_A.Vialatte
- トップでスタートし、新しい轍を引きながら走るナサール&マチュー組
ステージ3は、さらに大きな砂丘が待ち構えていました。南米大陸の砂丘は砂が山間に吹き溜まったり、法面に吹き付けられたような感じなので、突然極端に柔らかい場所や、砂だけでは出来上がらない大きく急斜面の場所があります。ここでナサールは昨日のリベンジとばかりにステージ優勝します。ただプジョー勢4台がしっかり後に続き、さらにジニール、ベルナルドと続きます。MINIはエースのナニが転倒してリタイヤ。ミッコ、ヤジードのバギーも90分以上遅れをとり、ここで3強のひとつが上位争いから早くも離脱します。
- 砂丘の多いステージが続く。ダカールラリーで一度もリタイヤしたことがないジニール&ディルク組はステディーに走る
- TGRSAから初参戦のベルナルド&ミシェル組。少しずつHILUXに慣れていきながら順位を上げる
ただステージ4はバギーにとって有利なステージでした。海岸線の砂浜を走ったあと、山間部に入るのですが、砂丘だけでなく石が転がる荒れた路面が何度も交互に続きます。このような路面変化がある場合、柔らかい砂丘に入る前には空気圧を落とし、逆に硬い路面になったら空気圧を高くして走ります。レギュレーションで4WDはマシンを停めて選手たちが車外へ出て1本ずつ空気圧を調整しますが、バギーは車内のスイッチひとつで空気圧調整ができます。だからマシンを停める必要がありません。さらに大きな砂丘の急坂を登る場合、車両重量が軽いほど有利です。バギーは4WDより約200kg以上軽く作れるため、これも有利に働きます。さらに荒れた路面では、大きなタイヤのほうが比率的に衝撃が少なくて済み、有利に働きます。ここも外径で10cm近くバギーのほうが大きいので有利です。これらの要素が詰まったステージだったためプジョーが上位を独占し、さらにMINIのバギーに乗るミッコが4位と息を吹き返し、プライベーターのバギーが5位と結果も明らかでした。TGRSAはベルナルドとナサールがなんとかトップから1時間以内でゴール。いつもであれば20分以上差がついてしまえば、その時点でおおよそ優勝が見えてきていたのですが、今回は1時間差くらいでは全然わからないほどサバイバルなラリーになっていました。
- アフリカ時代のパリダカのビクトリーランのようなシーン。このステージのスタートは4台同時スタートでした
- 吹き溜まった柔らかい砂にスタックし、脱出をはかるナサール&マチュー組/DPPI
ペルーで最終ステージとなるステージ5。通常過酷なステージが2日も続くと翌日は比較的走りやすいステージになるのですが、今回は久しぶりのペルーということもあるのか、連日気を抜く場所なくラリーが進む。連日選手たちにインタビューしていると「incredible!(信じられないほど。途方もない。驚くべき)」という単語が必ず出てきました。大きな砂丘、フェシュフェシュ(硬い路面の所々にパウダー状の微細な砂が堆積し、とても柔らかい路面)が続きます。このステージは1,4位がプジョー、2,3,5位がTGRSAと一進一退の攻防が続きます。そしてこのステージでセバスチャンが砂丘でクラッシュしリタイヤとなりました。
- 前日リヤサスペンションを壊して後退したシリル&デヴィット組。追い上げのアタックを試みる/Francois_Flamand_DPPI
- MINIのバギー。見慣れてくるとかっこよくみえてくる/Francois_Flamand_DPPI
- 尖った石と柔らかい砂が入り混じったルート。バギーに有利だが、果敢に攻めるジニール&ディルク組
- 砂丘の段差に落ちてしまったセバスチャン&ダニエル組/Andre_Lavadinho_World
ステージ5が終わった時点で、プジョーは1台リタイヤ、1台は大幅に遅れたもののトップはステファン・ペテランセル&ジャン・ポール・コトレ組、2位はカルロス・サインツ&ルーカス・クルツ組と連覇に向けた体制を着々と作り上げています。いっぽうTGRSAは3位にベルナルド・テン・ブリンケ&ミシェル・ペリン組、4位ナサール・アルアティア&マチュー・ボーメル組、5位ジニール・デュビリエ&ディルク・フォン・ツィツェヴィッツ組。まだ序盤ですが優勝争いは早くもこの5台に絞られました。これから高所での戦いだけでなく、メカニックなどアシスタンスが受けられないマラソンステージがボリビアで行われます。そしてアルゼンチンでは川渡りや涸れ川、山岳路、キャメルブッシュが点在する砂丘、そして高速ステージなどバラエティーに富んだステージがあります。
アンデス山脈を越えると新たなステージが待ち受けています。次回をお楽しみに。
- 延々と続く砂丘。プジョーが上位を固め始める/Eric_Vargiolu_DPPI
(写真:個別記載以外、MCH・寺田昌弘)
(文:寺田昌弘)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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