ダカールラリー2018 全力レポート後半戦・ボリビア~アルゼンチン編
アンデス山脈を越え、新たなステージへ
ペルーから国境を越えてボリビアへ入国するとステージの様相は一変します。数日前に海岸線、つまり海抜0mを走っていたかと思えば、今度は標高4,700mまで一気に登ります。砂丘を走っていたかと思えば、今度は土、雨が降れば滑りやすい泥が浮いたステージになります。ここ数年、この時期に雨が多く、ステージがキャンセルになることが多かったのですが、やはり今回も雨は避けられないようです。
世界で一番高所にある湖として知られるチチカカ湖付近を走り、ボリビアの首都ラパスへ。ボリビアでのダカール人気は特に高く、毎年沿道には多くの観客が集まります。ラパスまでくれば休息日があり、この1日でメカニックたちはマシンを徹底的にメンテナンスし、選手たちはつかの間の休息が取れるとともにリフレッシュできます。
- ペルーからボリビアへ。緩やかな山岳路はまるでWRCのようなコース
- チチカカ湖を望む丘でのSS。ボリビアに入ると観客の服装も色合いが鮮やかになる
選手たちだけで競うマラソンステージ
後半戦はラパスから塩湖で有名なウユニそしてトゥピサと1泊2日のマラソンステージから始まります。これはメカニックなどのアシスタンスが受けられず、選手たちだけでメンテナンスも行わなければなりません。マシンの信頼性、耐久性が問われることはもちろん、できるだけマシンにダメージを与えず、いかに速く走るか。そのバランスが重要です。
- ラパスから始まったマラソンステージ1日目。ウユニに向けて走るルートは砂地に低草が生え、走りにくい
- 高地のフラットな大地に所々、砂が降り積もり、さらに湿気を持ったところに草が生える
- バイクは自由度が高いので、方角だけ合わせ、直線的に走る。オートは草のないところを走っていくうちに一筋の道を作る
- こうなるとどこを走っていいのか。ルートブックに指示された方角を信じて進むしかない/Eric Vargiolu_DPPI
- どこに轍があるのか。バイクの轍を追ってしまうと深みにはまることも多い/Eric Vargiolu_DPPI
マラソンステージ初日、総合首位のステファン&ジャン組がマシントラブルで大きく後退しました。リヤサスペンション、トランスミッションなどにダメージを負いました。マラソンステージでこのダメージは致命的ですが、レギュレーションでは選手同士のサポートは可能なので、すでに優勝戦線から離脱しているチームメイトのシリル&デヴィット組からパーツを分けてもらいコース上で修理をしました。さらにプジョーはカミオンを競技に参加させ、ここに部品、メカニックがいるのでマラソンステージとはいえ、修理が可能です。この日はカルロス&ルーカス組がトップでゴール。TGRSAはジニール&ディルク組が2位、ナサール&マチュウ組が3位、ベルナルド&ミシェル組が7位と粘る。
ステージ8は今大会最長となる498㎞のSS、しかも標高4,800mまで上がる、マシンにも選手たちにも過酷なルートです。ただSSの距離が長いときは、砂丘のようなスピードが出せない路面ではなく、比較的フラットダートでルートもはっきりし、スピードが出せます。ただ雨の影響で路面はぬかるみ、油断すればコースアウトしてダメージを受けることにもなります。ここはステファン&ジャン組が前日の遅れを取り戻すべくアタックし1位、サポート役のシリル&デヴィッド組が2位、総合首位のカルロス&ルーカス組は大事に走り5位。TGRSAはナサール&マチュウ組が3位、ベルナルド&ミシェル組が4位、ジニール&ディルク組が9位。ここからは総合首位で守りの走りに切り替えたカルロス&ルーカス組を、ステファン&ジャン組、TGRSAの3台が、毎ステージ何分ずつ詰めていけるかといった図式になりました。
- マラソンステージ2日目、ウユニからトゥピサへ。水たまりや浅い川を渡る
- 砂地を走ってきたら目の前に草原が。これでもオンルートで示されたルートを走っている/DPPI
- 生活道路も封鎖してSSの舞台となる。高速ステージ
しかしトゥピサのビバークでアシスタンスと合流できると思っていたら、ビバーク前の道路が大混雑。実は先回りして前日トゥピサに着いたアシスタンスを待ち受けていたのは雨。それでビバークが泥沼と化し、このままではビバークからアシスタンスのカミオンやキャンピングカーが出られなくなると主催者が判断し、なんとビバークからアシスタンスを出すことに。アシスタンスは道路脇にサービスを作り、その長さはおよそ2km。これでは十分な作業ができないと判断し、翌日のステージ9はキャンセルとなり、各チームそれぞれ国境を越えアルゼンチン・サルタへ移動しました。先行するカルロス&ルーカス組を追いかけた少しでも時間差を縮めたい選手たちにはアンラッキーだったかもしれませんが、自然も相手にしなければいけないダカールラリーでは受け入れなければなりません。
- トゥピサからアルゼンチン・サルタへ。ステージがキャンセルされ自由に移動する。湾曲した地層が見える光景はアルゼンチンに入るとよく見かける/DPPI
アルゼンチンはマシンに過酷な道が多い
アルゼンチンに入ると直線的なフラットダートも多くはなりますが、ミスコースをすると大きなタイムロスとなる幾重にも分岐がある涸れ川や、砂地もあるものの背の低い草が点在し、走りにくいです。そして川渡りと路面のバリエーションも増えてきます。
ステージ10は、プジョーのステファン&ジャン組、TGRSAのジニール&ディルク組がカルロス&ルーカス組より速くゴールしますが、それでも数分しか差は縮まらず。
- サルタからベレンへ。スピードが出せるフラットダートが増えてくる/ASO@WorldhN.Katikis
ステージ11はアルゼンチンステージで難関といわれる猛暑で白く柔らかいフィアンバラの砂丘を含む、毎回波乱が起きるところ。しかし今年はラニーニャ現象の影響か、思ったより暑くならなかった。気温が上がると砂丘の砂粒との間にある空気が膨張し、砂丘は柔らかくなるのですが、暑くならなければ、砂丘も締まってきます。また前夜、雨雲がフィアンバラ方面にかかっていたので、おそらく夜半に小降りの雨があったかもしれません。なので波乱は起きませんでした。
ただTGRSAのベルナルド&ミシェル組が自身初となるステージ優勝を飾りました。ベルナルドは「HILUXに慣れてきたけど、なによりミシェルのナビゲーションのおかげ。彼はとてもいい仕事をしてくれる」と相棒を褒める。それもそのはず、ミシェルは過去4度の総合優勝の経験を持つベテラン。ただルートを指し示すだけでなくチャンピオンへの道筋も示してくれているのでしょう。
ここまでで総合1位はカルロス&ルーカス組、2番手はステファン&ジャン組でプジョーのワンツー体制が構築されていました。ただTGRSAの3台は、みな諦めていなかった。ジニールは、「とにかく毎ステージ上位で帰ってくることに集中したい」とステディーな走りに徹し、ベルナルドは「HILUXは本当にいいクルマだ。やっと乗り慣れてきた感じ。感触がいいのでこのまま走るのみ」と後半に調子を上げてきているその波に乗る。ナサールは「戦略などない。ただ毎ステージをアタックするのみ。アタック、アタックそしてアタックだ」と3人のドライバーの考えも違っておもしろい。
ステージ12はその言葉通りナサール&マチュウ組がトップでゴール。ジニール&ディルク組は4分遅れで3位、ベルナルド&ミシェル組も8分遅れで5位と上位2台のプジョーにプレッシャーをかけます。
- チレシトからサンファンへ。涸れ川や切り立った渓谷の間を走ったり、こうして川渡りも増えてくる/Eric Vargiolu_DPPI
- 渓谷のなかを走る。ここも雨季には水が流れ、川になることもある/Frederic Le Floc'h_DPPI
- 今年は雨が多かったようで、この時期は涸れ川のはずが、水が流れ普通に川になっているところも多い
- ペルーやボリビアとは風景も変わってくる
そしてステージ13。SSとリエゾンを含めた走行距離が928kmと長い1日。前半にフェシュフェシュ(硬い路面の所々にパウダー状の微細な砂が堆積し、とても柔らかい路面)などありますが、路面自体は前半戦を乗り越えた選手たちにとっては難しくありません。高速で走れる箇所も多く、最後のアタックステージとなります。ここでステファン&ジャン組が木に衝突してステアリング系を損傷してしまいます。このステージでトップから1時間以上遅れてゴールし、2位から4位へ陥落しました。アクシデントがあったのはプジョーだけではありません。TGRSAのベルナルド・ミシェル組が後半、エンジントラブルでリタイヤを余儀なくされました。そこまでいいタイムで走り、そのままいけば3位表彰台も見えていただけに残念でなりません。そしてこのステージはナサール&マチュウ組が前日に続きステージ優勝し、総合2位に浮上しました。ジニール&ディルク組も3位でゴールし、総合で3位に浮上。
- サンファンからコルドバへ。微細な砂埃が舞うフェシュフェシュ。減速するだけで自車前に砂埃が舞い、視界を失うこともある
最終ステージは119kmの山岳路。普通に走れば順位が入れ替わることも少ない。ここではジニール&ディルク組がトップでゴールし、これでTGRSAは3台とも今回のダカールラリーでステージ優勝をしました。この最終ステージではジニール&ディルク組と2位のステファン&ジャン組、3位のナサール&マチュウ組とのタイム差が40秒しかなかったので、本当いいライバル同士最高のラリーで競い合えたのだと思います。
- コルドバで最終SSを終え、ナサールは総合優勝を決めたカルロスの腕を持ち上げ、讃えた
総合優勝はプジョーのカルロス&ルーカス組、2位はTGRSAのナサール&マチュウ組、3位はジニール&ディルク組と表彰台の過半数をトヨタHILUXが占め、トップ10でも10台中5台がトヨタHILUXとなり、総合優勝こそできませんでしたが、HILUXの信頼性、耐久性、悪路走破性の高さを世界に示したと思います。40回の記念すべき大会では、オートカテゴリー(クルマおよびS×S(小型バギー))は103台がペルー・リマをスタートし、完走したのは49台(クルマ43台、S×S6台)完走率47.5%と厳しいラリーになりました。次回はまだ南米大陸のどの国を走るか未定ですが、日本人の私としては、次回こそ三菱以来のジャパンブランドの総合優勝をぜひトヨタに飾ってもらいたいと思います。
- 前回大会はクラッシュして思うように走れなかったナサール&マチュウ組。総合2位は本人たちにとって満足のいく結果だった。そして次回はさらに高みへ
(写真:個別記載以外、MCH・寺田昌弘)
(文:寺田昌弘)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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