南米で人気のSUV、トヨタ・SW4と、ダカールラリーで見つけた話題のピックアップ
今回のダカールラリーの同行取材では、トヨタ・SW4に乗ってペルー、ボリビア、アルゼンチンと6,000kmを走りました。アルゼンチン、ブラジルではSW4と呼ばれていますが、アジアなど他エリアではフォーチュナーと呼ばれています。2002年にトヨタが新たなグローバル事業として「海外市場専用車を海外のみで国際分業する」ためのプロジェクトを立ち上げ、「Made in Japan」だけでなく、「Made by Toyota」のクルマとして世界中へ供給する「IMV(Innovative International Multipurpose Vehicle)プロジェクト」から生まれたクルマです。共通設計のラダーフレームにピックアップ(ハイラックス)、ミニバン(イノーバ)そしてSUV(フォーチュナー/SW4)のボデーを組み合わせてシリーズ化しています。SW4(フォーチュナー)は、南米大陸はもちろん、アジア、ロシア、オーストラリア、中東、アフリカなど世界中で好評を得ています。現在、日本ではハイラックスが大人気となっていますが、その兄弟車で日本未発売のSW4を紹介しましょう。
ハイラックスサーフのような存在
ハイラックスは、1968年に日本で誕生し、国内の高度経済成長を支えるクルマの1台として人々の生活を支えていました。アメリカに輸出されるようになると、もともとピックアップの自動車文化があるので大人気となり、その後世界中に広がりました。このハイラックスの荷台部分を架装したモデルが北米で流行り、ハイラックスサーフが生まれました。北米では4ランナーとして販売され、当初は日本で生産されていましたが、後に北米で生産されるようになり、専用モデルとして独立しました。日本では、ハイラックスサーフというブランドが2009年で終了しましたが、IMVプロジェクトから生まれたハイラックスの兄弟車のSUV、SW4(フォーチュナー)が2005年から海外で販売されていました。北米を除く海外で見れば、7代目ハイラックスに続いて登場したSW4(フォーチュナー)は、ハイラックスサーフのような存在です。
- ボリビア・ウユニ塩湖にて。湖上が一枚の鏡となり、ほかに何もない空間でも存在感のあるSW4
サイズ、エンジンもハイラックスサーフ似
ハイラックスは7代目から世界基準に合わせて大型化し、現在国内販売されている8代目ハイラックスは、ホイールベースが3mを超え、全長は5.3m。一方共通シャシーを使っているSW4(フォーチュナー)は、全長4795mm、全幅1855mm、全高1835mm、ホイールベースは2745mm。2005年まで国内販売していたハイラックスサーフ(N210系)が、標準ボデーで全長4770mm、全幅1875mm、全高1790mm、ホイールベース2790mmなので、実はサイズがあまり変わっていません。今回、6,000km以上ドライブしてきましたが、オフロードから市街地まで、サイズはまったく気になりません。さらに乗ったモデルのエンジンは、1GD-FTVで国内ではランドクルーザープラドに搭載している2.8リットル直列4気筒ディーゼルターボと同型です。1GDエンジンは、以前ハイラックスサーフに搭載されていた1KD-FTVの後継エンジンですので、サイズ、エンジンスペックをみれば、ハイラックスサーフと呼んでもいいくらいです。
- エンジンは1GD-FTV。私が乗ったのは6MT仕様で最高出力177ps/3.400rpm、最大トルク420Nm/1.400-2.600rpm。6AT車だとトルクは450Nm/1.600-2.400rpm。
- 7人乗り仕様。プラドは電動で3列目シートが動きますが、SW4は手動の跳ね上げ式
エクステリアは兄弟車のハイラックスやイノーバと異なり、フロントマスクがカローラやカムリのような鋭いキーンルックとなり、大きく差別化されています。都会にマッチするデザインですが、ロシアやオーストラリア、南米など導入国のプロモーション動画を観ると、タフなオフロードを走破しているシーンが多く見受けられます。インテリアもかなり上質で、もしこれが国内にあったら、トヨタのSUVラインナップではランドクルーザープラドとハリアーの間で、極めてプラドに近い存在になると思います。
オフロード性能がいいSW4
サスペンションはフロントダブルウィッシュボーンの独立懸架。リヤはリジットアクスル+コイルスプリングと、オンロードでも乗り心地がよく、オフロードで路面追従性が高いタイプとなっています。低速で高いトルクが出るディーゼルターボエンジンとのコンビネーションで、荒れた路面でゆっくり走っても走破しやすいです。取材中も砂丘や涸れ川、岩がごろごろしている山岳路も走りました。競技であれば勢いつけて駆け抜けますが、さすがにカメラ機材など載せているので、路面からの衝撃を抑えるために極力ゆっくり走りましたが、スタックすることなく走れます。愛車のプラドと比較すると、100kgくらい軽いので砂丘はスタックしにくく感じます。フラットなオフロードも軽快に走ります。
- 撮影ではこういった砂丘に入っていくことも。SW4だったら低回転で十分なトルクが得られるので走りやすい。地元の観客も朝早くから4WDで砂丘に入り、パラソルを立ててBBQする人も。みなダカールを楽しんでいる
ただ長距離走行(今回はオンロード700kmをノンストップで走る日も)では、プラドのほうがボデー剛性、遮音性が高く、また私のLパッケージはシートがとてもよく、適度な硬さと背中や太腿とシートが当たる部分が蒸れずに快適です。ただプラドはフルタイム4WDですが、SW4(フォーチュナー)はパートタイム4WDなので、オンロードは2WDで走ることができます。(走行条件が違いますが、燃費はあまり変わりなかったです)
- 上質なインテリア。グローブボックスはエアコンの空気を取り込めるように切り替えられ、500ccペットボトル2本が冷やせて便利
- 質感が高く、適度なホールド性のあるシート
プラドとSW4(フォーチュナー)は似ているようで、別物のSUV。SW4は、国内販売しているハイラックスと同じ2GDエンジン搭載モデルも海外では販売しているので、プラドと差別化してコンパクトな2GDエンジン搭載モデルがあったら、きっと乗りたい方も多いのではと思います。そんな魅力的なSW4(フォーチュナー)。今回の取材が円滑にできたのも、海岸線から標高4,700mまでアンデス山脈を駆け上がり、砂丘や岩石路でも安心して走れるSW4のおかげです。
- 奥に見えるのはアンデス山脈。アルゼンチン・サンファンあたりは日射しはきついが、空気が乾燥しているので日陰は心地いい。競技車が来るのを先回りして待つのも仕事
- シンプルで視認性のいいインストルメントパネル。今回6,436km走り、山岳路を登ったり、エアコンをつけっぱなしで待機したりしましたが、平均燃費は10km/Lを超えました
気になる他のプレスカー、アシスタンスカー
今回のダカールラリーのプレスカーやアシスタントカーで目立ったのがピックアップ。現在、日本では正規にハイラックスしか新車で販売していませんが、海外ではさまざまなメーカーがピックアップを販売しています。最近ではメルセデスがXクラスを発売し、早くもジャーナリストがテストドライブを兼ねてダカールラリーに持ち込んでいます。日産・ナバラもヨーロッパのジャーナリストが持ち込み、おそらくこの2台は、取材の足として使いながら、インプレッションを自国のメディアに発表するでしょう。
- メルセデスXクラスのピックアップがプレスカーで初めて走りました。注目度抜群でした。ジュネーブショーではハイパワーエンジンを搭載したモデルも披露されるらしいです
- 日産・ナバラのプレスカー。プレスカーは本来SUVタイプのほうが荷物の管理、防塵、防水に便利ですが、PRを兼ねてあえてピックアップで走っています
メーカーからしても、ダカールラリーのプレスカーに使ってもらうことで、走行中に沿道で観戦する約400万人を超える南米の人たちにクルマを見せることができ、プロモーション効果もあります。観客から見たら、競技車もプレスカーも、よほどダカールラリーに詳しい人でなければ、違いはわかっていないと思います。そして北米、オーストラリアだけでなくアジア市場でも力を入れていくフォードも、今回大会スポンサーが乗るクルマのなかにレンジャーを貸し出していました。これはおそらく、現在トヨタがサプライヤーとしてオフィシャルカーを貸与していますが、今後このパートを狙って試走も兼ねていると思われます。
- フォード・レンジャーはアルゼンチンでも生産している人気モデル。なぜか大会スポンサーが乗るゼッケン「E」をつけているのが1台ありました。今回は今後のオフィシャルカーを狙って試走していたようです
- ブラジルで生産されている三菱L200。タイ、オーストラリアでも人気のあるモデル。あるチームのアシスタンスカー
- 日産・ナバラのリヤデッキにキャノピーを装着するプレスカー
- 早くも新型プラドがプレスカーやアシスタントカーとして参加しています。写真はリトアニアのプレスカー。ほかにもモトカテゴリーで17連覇しているKTMワークスチームのアシスタンスカーにも使われていました
日本ではハイラックスの独壇場ですが、海外ではハイラックスが大きなシェアを持つ市場に、これからフォード、さらに日産ルノー+三菱、メルセデス連合は挑んでくると思います。メディアでは電動化の話題ばかりが注目されている自動車業界ですが、今後販売台数の伸びが期待されるアフリカ、アジア市場を考えれば、ピックアップはとても重要な車種であると私は思っています。そのプロモーションの場として、海外ではダカールラリーがとても重要なモータースポーツイベントとなっています。
- 真っ暗なウユニ塩湖を走り、このような実景撮影もしました。SW4だから安心してうっすらと水の張る塩湖を走れました
(写真・文:寺田 昌弘)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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