ピックアップが宙を舞う!アメリカンなレースに日本人初参戦
最近ではル・マン24時間レースでTOYOTA GAZOO Racingが初優勝したり、F1では2019年からレッドブルがパワーユニットをルノーからホンダに変更することが発表されたりと、海外モータースポーツが盛り上がりを見せています。FIA(国際自動車連盟)のある欧州を中心に世界各国でさまざまなモータースポーツがありますが、アメリカは一線を画する独自のモータースポーツで盛り上がっています。Indy CarやNASCARはその代表的なものですが、今回アメリカならではのピックアップによるレースに、私の仲間であるEJ千葉選手が初参戦しました。現地にいる千葉選手と電話やメッセンジャーでやりとりしながら、レースの模様やアメリカのレース事情をインタビューしました。
アメリカの英雄、ロビー・ゴードンがプロデュース
オンロードやオフロード、そしてジャンピングスポットがある特設コースで繰り広げられる<スタジアム・スーパートラック(以降SST)>。プロデュースするのはロビー・ゴードンさん。NASCARやBaja1000などオンオフ問わずアメリカの名だたるレースで活躍したドライバーでダカールラリーにも参戦していました。ダカールラリーのスタートポディウムでは、台数も多いのでトップドライバーですら1分も壇上にいられませんが、ロビーさんだけは唯一ポディウムでジャンプしながらスタートすることが許されていた名物ドライバーです。私も同じポディウムにいましたが、ロビーさんが登場するときの観客の盛り上がりは誰よりも凄かったです。そんなエンターテイナーのロビーさんがプロデュースするから、観客に楽しんでもらえる魅せるレースになっています。
今回、日本人として初参戦する千葉選手は、国内外のオフロードレースを中心に参戦していましたが、SSTに魅了され、2014年からロビーさんとコンタクトを取り始め、今年テストに合格して晴れて参戦することができました。
- 左がプロデューサーであり、自信も参加選手のひとりであるロビー・ゴードンさん。右は日本人として初参戦するEJ千葉選手
同じ仕様のマシンで走る。だからおもしろい
参戦するマシンは共通で主催者が用意します。鋼管フレームにピックアップのボデーを載せたスタイルで、エンジンは600psオーバーのシボレーLS3(V8・6,000cc)を搭載。サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン、リヤが4リンク式コイルスプリングのリジットアクスル。ホイールトラベル量は500mm。車重は約1.3トン。軽量でハイパワーなマシンで、走っている光景はラジコンカーのようです。それもそのはずで、もともとアメリカのラジコンメーカーのトラクサスが協力していたこともあり、トラクサスのラジコンカーのスタイリングが活かされています。だから観客の子供たちから、大きなトラクサスと親しみを持って呼ばれています。
- ピックアップスタイルのマシン。各マシン共通で事前に選手のオーダーに合わせてラッピングする
コースは1周約2kmですが、Indy CarやNASCARが走るオーバルコースやピットロード、その内側エリアにもまたがってコースを作り、土を盛ってオフロードエリアもあります。最大の見せ場となるジャンプ台ですが、オーバルコース上に高さ1.5mが2台、コースから内側に入るためにバリアの飛び越えを兼ねて2台そして約4mの高さが1台あります。ここでは地面より10m近く高く飛びます。飛距離にして20m以上なので観客席から離れていても見応えあります。
- コースレイアウト。オーバルコースやピットレーン、インフィールドのスペースまで使っているのがわかる
千葉選手は「アクセルで簡単にテールスライドさせて向きを変えたり、インリフトしながら三輪走行になったりとアクロバティックな走りになりますが、アクセルやブレーキングはとても繊細な操作が必要です。ジャンプは大きなタイプで2階の屋根から飛び立つ感じですが、飛び出す瞬間は約80km/hで姿勢を崩さず、うまく着地するのが大事です。ちなみにストレートでは160km/hは出ます。今回参戦してみて、十分競い合えると感じたので、次回はもっとファンを魅了する走りを見せたいですね」と興奮ぎみに教えてくれました。今回は成績こそふるわなかったのですが、ぜひ次回に期待したいです。
いろいろなレースが一気に観られる楽しさ
今回SSTが開催されたテキサス・モーター・スピードウェイでは、同時にTexas Indy 600とNASCAR Camping World Truck SeriesのPPG 400が開催されました。アメリカのモータースポーツイベントは、金曜、土曜の2日間で開催されることが多く、またクルマ好きはもちろん、家族で週末を楽しむイベントのひとつとして日常となっています。金曜はフリー走行や予選が行われ、土曜は各レースの決勝が行われるのですが、各レースが連続して行えるよう工夫がされています。たとえばSSTは2レースあるのですが、1レース目が終わってからIndy Carが始まるまで、インフィールドで他のオフロードイベントや食事などを楽しんでもらい、Indy Carで一気に盛り上がります。そしてIndy Carがゴールして表彰式をしているときには、SSTのマシンがオーバルコースに並べられ、表彰式が終わるとすぐSSTが始まるといった感じです。モータースポーツを勝敗だけでなく、エンターテインメントとして確立しているのが実にアメリカらしいと思います。また意外かもしれませんが、レースにレースクィーンやキャンペーンガールがほぼいません。こうすることで、お母さんやお子さんに気を遣うことなく、家族みんなで来られるようにしているのだと思います。そして家族連れは観客だけでなく、選手たちも同様。会場内にモーターホームを持ち込み、週末を過ごします。そして選手が表彰台に上がるときには、家族は祝福するだけでなく、一緒に撮影に応じることもあります。
子供たちはレース観戦も楽しみますが、選手たちからサインをもらうことをまるでオリエンテーリングのように楽しみます。会場で配布されるプログラムには、参加選手全員の顔写真、プロフィールが掲載されていて、それをスタンプ帳のようにして、選手一人一人にサインをもらいに行くことを楽しみます。選手たちもわかっていて、子供たち一人一人に丁寧に接してくれるので、またあの選手に会いたいと思って、親にせがんでまたスピードウェイに連れてきてもらうのでしょう。日本もキャンプやテーマパークに家族で遊びに行く感覚と同じように、週末はレース観戦というのがもっと広まったらいいなと思います。そのためには、アメリカのこの仕組みは、とても参考になると思います。
(テキスト:寺田昌弘 / 写真:芳澤直樹)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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