レクサスが全日本ラリーに初参戦!RC Fの咆哮が新城に轟く【その1】

ダカールラリーをはじめ、クロスカントリーラリーにはエジプト、オーストラリア、モンゴル、アジアと海外で参戦してきましたが、WRCに代表されるラリーは、2013年にTRDラリーチャレンジにTRDからお声がけいただき、GAZOO Racingのヴィッツで参戦させていただき、これはおもしろいと思いました。そして昨シーズンより、ネッツ東京レーシングの一員として、塚本奈々美選手のコ・ドライバーでトヨタ86に乗りTGRラリーチャレンジに参戦してきました。

シーズンが終わり、同じクラスでシリーズ優勝をしたドライバーでトヨタ自動車の社員の石井宏尚さんと豊田市駅近くの居酒屋で一献傾けていたとき「来年レクサスで全日本ラリーに出るんです、RC Fで。でもコ・ドラがいないんです」と聞き、誰もいなかったら喜んでやりますよと伝えました。そして今年「マシンが出来上がっていい感じです」と連絡をいただき、石井選手のなかでコ・ドラは私と決めてくれていたようで、TGRラリーチャレンジに1年しか参戦していない私は、一気に全日本ラリーに参戦することになりました。

日本初、レクサスで全日本ラリーに参戦

エントリーリストが告知されると、RC Fがエントリーされていることや、コ・ドライバーに私の名前があったことから、知人が何人も連絡をくれ、これはおもしろいと言ってくれました。なぜRC Fで参戦するのか。石井選手は、トヨタ自動車の田原工場で品質保証関係に勤務する社員で、田原工場はRC Fに搭載されるV型8気筒4,968ccの「2UR-GSE」エンジンも生産しています。自分で品質保証をしているエンジンで全日本ラリーを走る。この意気込みに私は驚きました。さらにクルマ好きを増やすため、ラリーを知らないかたでも「レクサスがラリーを走る!」だけで注目してくれると思い、石井選手はRC Fの中古車を探して購入。CUSCOもそのチャレンジのサポートをしてくれるようになりました。
参戦したのは全日本ラリー選手権第2戦「新城ラリー2019」。サービスパークにつくと早くも注目の的でした。新城ラリーをよく知る関係者の多くは、「雁峰のSSは狭いから大丈夫かな」と心配してくれました。しかし石井さんは「まったく勝ち目がなかったら、RC Fを選びません。僕はこのクルマのポテンシャルを信じています」とひそかに自信をみなぎらせていました。そしてセレモニースタートを終え、ラリー初日を迎えます。

レクサスとしては日本初、RC Fではおそらく世界初となるラリー参戦。右がドライバーの石井選手
レクサスとしては日本初、RC Fではおそらく世界初となるラリー参戦。右がドライバーの石井選手
  • 車検。隣りにはWRCを走り、2018年全日本チャンピオンとなった新井敏弘選手のマシンが
    車検。隣りにはWRCを走り、2018年全日本チャンピオンとなった新井敏弘選手のマシンが
  • 「もっとクルマ好きを増やしたい」その思いでRC Fで全日本ラリーに参戦することを考えた石井選手
    「もっとクルマ好きを増やしたい」その思いでRC Fで全日本ラリーに参戦することを考えた石井選手
  • セレモニースタート前、トップ争いをしている同じ歳の勝田範彦選手と石田裕一選手が観に来てくれて記念写真を
    セレモニースタート前、トップ争いをしている同じ歳の勝田範彦選手と石田裕一選手が観に来てくれて記念写真を
  • セレモニースタート直前、世界の新井選手と勝田選手が子をかけてくれて。私たちがこのマシンで参戦することを歓迎してくれていた
    セレモニースタート直前、世界の新井選手と勝田選手が子をかけてくれて。私たちがこのマシンで参戦することを歓迎してくれていた
さすが伝統の新城ラリー。たくさんの子供たちに応援されながらスタート
さすが伝統の新城ラリー。たくさんの子供たちに応援されながらスタート
「Give me five!」子供たちとタッチ。手前にはオフィシャル映像を撮る仕事仲間のRallyStream染宮さんの姿も
「Give me five!」子供たちとタッチ。手前にはオフィシャル映像を撮る仕事仲間のRallyStream染宮さんの姿も

最初のSSで観客がV8サウンドに湧き上がった

今回の新城ラリーは、LEG1が県営新城総合公園のギャラリーステージ(580m)、森の中を抜ける細い林道の雁峰北(12.64km)、2車線を使える高速ステージの鬼久保(6.42km)を2回走ります。2日目のLEG2はギャラリーステージと鬼久保は同じですが、雁峰北に変わり、より細く所々砂が浮いて滑りやすい雁峰西(14.84km)になります。SS総距離82.96km、総走行距離299.71km。TGRラリーチャレンジより格段にSSが長く、下りもあり、2日間走りがいのあるラリーです。

最初はギャラリーステージ。オフィシャルしかいないところからスタートし、坂を駆け上がると一気に観客がたくさん見えてきます。全日本ラリーでは聴いたことのない大排気量V8サウンドに「おぉー」っと驚きの声と歓声が沸き上がります。ゴールするとクラス2番手。上々の滑り出しです。次の細くて長い林道は、私は石井選手にとってどのあたりでコールをすればいいか探りながら、石井選手は、どこまで私からの情報を信じて走るか、初コンビだからお互いに探り合いながら走ります。大小230を超えるコーナー、上り下り、橋、砂、ギャップなどがどんどん迫ってきます。少しずつ石井選手に合うコールができてきたかなと思った10km過ぎに左右が連続したコーナーで、私の喉が詰まってしまい、すぐリカバリーしたのですが500mくらいロストしてしまいました。さらに終盤には、タイヤが熱を持ちすぎてグリップ力が低下し、ペースダウンを余儀なくされました。

同じクラスのヴィッツと比較してパワーやトルクはありますが、大きなボディ、車両重量も約400kg重く、ブレーキやタイヤに大きな負荷がかかります。RC Fにとって最も不利とされたこのSSですが、タイムを見たらクラストップから20秒遅れたものの、2番手でした。これには私たちも喜びましたが、それ以上にSSゴール地点のオフィシャルが「よくこの細いSSをこのタイムで走ってきましたね。速いし、音がわくわくしますね」と笑顔で言ってくれました。

そしてコース幅のある高速ステージの鬼久保。全開のRC Fの助手席はシートに貼り付けられるほどの加速で、思わず歯を食いしばってしまいました。コールも少ないのでショートサーキットの同乗走行のような状態でゴール。ここは自信がありましたが、トップに4秒遅れの2位。このSSを知り尽くしたベテランたちと、初めて走る私たちとでは、RC Fのパワーを存分に活かしきれませんでした。

  • まずは新城総合公園内のギャラリーステージ
    まずは新城総合公園内のギャラリーステージ
  • 細く長い雁峰北ステージ
    細く長い雁峰北ステージ
鬼久保ステージ。この先から2車線となり高速ステージになる
鬼久保ステージ。この先から2車線となり高速ステージになる

初レグを無事完走。クラス2位に驚く

給油をしてからサービスに戻り、45分間のサービスを受けます。名門CUSCOのサービスを受けさせていただけることはとても心強く、下回りやタイヤ、ブレーキ関係のチェック、サスペンションの調整など手際よく進めてくれます。私たちは軽く食事をしてリフレッシュ。そして午後も同じSSを走ります。ギャラリーステージはトップに0.2秒と詰め寄り2位。雁峰北は、1秒詰めたもののここでは無理をせず、鬼久保ではトップに3.3秒差。トップとの差を少しずつ詰めながらレグ1を無事走り切り、サービスへ戻りました。

サービスではみな笑顔で迎えてくれ、まさかRC Fも選手もデビュー戦に関わらずクラス2位で帰ってくるとはといった感じで、みな驚きとともに健闘を讃えてくれました。石井選手と私にとってもほっとした瞬間でしたが、石井選手が「1本でも勝ちたい」と言い、LEG2はもう少し攻めて行こうと目標を高めました。うまく走れると、もっと欲が出てきます。しかし出すぎると完走もできなくなってしまうので、まずは完走を第一に、石井選手には行けるところまで行っていただきます。次回はLEG2。お楽しみに。

SS3本を走り切りサービスへ。45分以内に各部のチェックとリフレッシュをしていただく。手際のよさはさすがラリーメカニック
SS3本を走り切りサービスへ。45分以内に各部のチェックとリフレッシュをしていただく。手際のよさはさすがラリーメカニック
  • メカニックへ感謝しながら、チーフメカの熊崎さんに気合いをいれていただき、その信頼に応えるべく、後半に挑む
    メカニックへ感謝しながら、チーフメカの熊崎さんに気合いをいれていただき、その信頼に応えるべく、後半に挑む
  • 雁峰北。ほかのマシンと比べてトレッドの広いRC Fは、イン側の誰も通らない落ち葉や砂の積もったところを走ることも多い
    雁峰北。ほかのマシンと比べてトレッドの広いRC Fは、イン側の誰も通らない落ち葉や砂の積もったところを走ることも多い
日本の美しい林道を走る
日本の美しい林道を走る
  • 鬼久保も2度目はかなり安心して攻められる
    鬼久保も2度目はかなり安心して攻められる
  • 初めてメンテナンスするRC Fだが、慣れた手順で作業を進める篠原さん(左)と小泉さん(右)
    初めてメンテナンスするRC Fだが、慣れた手順で作業を進める篠原さん(左)と小泉さん(右)
RC Fの助手席に1日乗って、そのパワーに少し慣れてきて笑顔に
RC Fの助手席に1日乗って、そのパワーに少し慣れてきて笑顔に

(テキスト:寺田昌弘 / 写真:山本佳吾、高橋学、熊谷泰三)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。