クラス分けを知ると、全日本ラリーがもっとおもしろくなる!

2020年は11月にWRC(世界ラリー選手権)最終戦が10年ぶりに日本で開催予定です。

今シーズンのWRCには、勝田貴元選手がトヨタ ヤリスWRCで参戦し、日本でラリーが盛り上がりつつあります。国内のトップカテゴリーである全日本ラリー選手権は、2月の群馬は昨年の台風19号の影響で中止となりましたが、3月に愛知・新城で開催され、4月佐賀、5月愛媛、6月群馬、7月北海道、8月秋田、9月北海道、10月岐阜と全国で開催予定です。

私は昨シーズンから全日本ラリーに参戦していますが、さまざまなメーカーのクルマが参戦していて観ていても楽しいです。ただ、クラス分けがよくわかっていなかったので、今回はクラス分けについてご紹介します。

クラスは排気量、駆動方式、仕様によって6クラスに分かれる

まず日本国内で道路運送車両の保安基準(昭和26年運輸 省令第67号)に適合し、車検を取りナンバープレートを付け、公道を走れることが前提です。

FIA(国際自動車連盟)公認車両の「R車両」、JAF登録車両の「RJ車両」、JAF登録車両でメーカーラインオフ時の諸元が変更されていない(改造はRPN車両用改造規定内)「RPN車両」、電気モーター、ハイブリッドシステムを動力とする(改造はAE車両用改造規定内)「AE車両」、改造範囲が少ない「RF車両」。これらの車両が、排気量、駆動方式によって6クラスに分かれます。

国内最高峰の 『JN1』クラス

気筒容積が2,500ccを超える4輪駆動の「R車両」「RJ車両」。
総合優勝争いをしているスバル WRX STI、新城ラリーで優勝した三菱 ランサーエボリューションは、エンジンはともに2リッターですが、ターボがある場合、1.7の係数をかけるため、2,500ccを超えることになります。

スバル WRX STIは、昨年チャンピオンの新井敏弘/田中直哉(SUBARU TEAM ARAI)、鎌田卓麻/鈴木裕(itzz RALLY TEAM)、柳澤宏至/保井隆宏(CUSCO RACING)。スバル WRXは、新井大輝/小坂典嵩(SUBARU TEAM ARAI)、勝田範彦/石田裕一(LUCK SPORTS)。三菱 ランサー エボリューションXは、奴田原文雄/佐藤忠宣(ADVAN-PIAAランサー)がシリーズを通してしのぎを削る。

WRCを席捲したAWDの技術が磨かれ続ける、スバル WRX  STI
WRCを席捲したAWDの技術が磨かれ続ける、スバル WRX STI
WRCのために生まれたエボリューション。三菱 ランサーエボリューションX
WRCのために生まれたエボリューション。三菱 ランサーエボリューションX

バラエティに富んだ2輪駆動が競う、『JN2』クラス

気筒容積が2,500ccを超える2輪駆動の「RJ車両」と2輪駆動の「R車両」。
海外生産のマシンが多いこのクラスには、フランス・バランシエンヌ工場で生産された1.8リッター・スーパーチャージャー搭載、FFのトヨタヴィッツGRMNで、昨年チャンピオンの眞貝知志/安藤裕一(TOYOTA GAZOO Racing)、中村英一/大矢啓太(NAVUL)。

トヨタ 86をドイツTMGでチューニングし、約200kgの軽量化と約40ps出力アップされたGT86 CS-R3で中平勝也/行徳聡(R-ART RALLY TEAM)、牧野タイソン/北川紗衣(Rally Team AICELLO)。

また海外ブランドでは、1.6リッター・ターボ搭載でFFのシトロエンDS3R3Tで、山村孝之/伊沢幹昌(THREE FIVE MOTORSPORT)。2リッターターボ搭載でFFのフォルクスワーゲン Polo  GTIで、竹岡圭/山田政樹(圭rallyproject)。そして、国内生産5リッターV8でFRのレクサス RC Fで、石井宏尚/寺田昌弘が参戦しています。

限定発売されたトヨタ ヴィッツ GRMN
限定発売されたトヨタ ヴィッツ GRMN
R3仕様で軽くて速いシトロエン DS3 R3
R3仕様で軽くて速いシトロエン DS3 R3
5リッターV8サウンドが人気のレクサス RC F
5リッターV8サウンドが人気のレクサス RC F
ドイツTMGでチューンされたGT86 R3
ドイツTMGでチューンされたGT86 R3
全日本ラリー唯一のドイツ車、フォルクスワーゲン Polo GTI
全日本ラリー唯一のドイツ車、フォルクスワーゲン Polo GTI

86/BRZ Raceのラリーバージョンのような、『JN3』クラス

気筒容積が1,500ccを超え2,500cc以下のFRの「RJ車両」「RPN車両」。
現在販売しているFRのスポーツカーは車種が少なく、まるでサーキットレースで盛り上がっている86/BRZ Raceのラリー版のようです。

トヨタ 86は昨年チャンピオンの山本悠太/山本磨美(k-oneレーシングチーム)、山口清司/大倉瞳、筒井克彦/松本優一など。スバル BRZは、新城ラリーで優勝した竹内源樹/木村悟士など。

パーツも多く参戦しやすいトヨタ 86
パーツも多く参戦しやすいトヨタ 86
トヨタ86とともにJN3で兄弟対決をする、スバル BRZ
トヨタ86とともにJN3で兄弟対決をする、スバル BRZ

スズキ スイフトのワンメイクラリーのような、『JN4』クラス

気筒容積が1,500ccを超え2,500cc以下のFFおよび4輪駆動の「RJ車両」「RPN車両」。
1トン未満の軽量ボディに1.4リッター・ターボのスズキ スイフトスポーツが大半を占めるクラスで、ベース車のリーズナブルな価格と走りの良さにファンも多い。

また、現在のクラス分けでは不利になってしまいますが、1リッターターボで4輪駆動の
ダイハツ ブーンX4も数戦参戦しています。

ドライビングが楽しくてリーズナブルな、スズキ スイフトスポーツ
ドライビングが楽しくてリーズナブルな、スズキ スイフトスポーツ
国内ラリーのために生まれた、ダイハツ ブーンX4
国内ラリーのために生まれた、ダイハツ ブーンX4

コンパクトカーの頂上決戦の場 、『JN5』クラス

気筒容積が1,500cc以下の「RJ車両」「RPN車両」。トヨタ ヴィッツ、ホンダ フィット、マツダ デミオなど、FFコンパクトカーが中心のクラス。

またロータリーエンジンは係数が1.0なので、654cc×2ローターのマツダ RX-8や660ccインタークーラーターボのダイハツ コペンなど、軽自動車のターボ搭載車もこのクラスになります。

トヨタ ヴィッツは、昨年チャンピオンの天野智之/井上裕紀子(豊田自動織機)と、昨年JN6クラスチャンピオンで、今シーズンはこのクラスに移ることになった、スポーツCVT搭載の大倉聡/豊田耕司(アイシンAW)がしのぎを削ります。

マツダ デミオは、岡田孝一/石田一輝、本名修也/湊比呂美。ホンダ フィットは、小川剛/梶山剛。マツダRX-8は、鷲尾俊一/井上草汰、中西昌人/竹尾真里華。唯一の軽自動車で挑むダイハツ コペンは、相原泰祐/山口佳祐。

このクラスの連覇街道まっしぐらのトヨタ ヴィッツ
このクラスの連覇街道まっしぐらのトヨタ ヴィッツ
昨年はJN6のチャンピオンマシン。トヨタ ヴィッツ CVT
昨年はJN6のチャンピオンマシン。トヨタ ヴィッツ CVT
現在は車名をMAZDA2でグローバル統一した、マツダ デミオ
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ホンダフィットもカラーリングひとつでこんなにレーシーに
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ロータリーエンジンでラリーに挑む、マツダRX-8
ロータリーエンジンでラリーに挑む、マツダRX-8
ライトウエイトスポーツがラリーに。ダイハツ コペン
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AT、CVT、EV、HVがモータースポーツに挑む、『JN6』クラス

気筒容積が1,500cc以下のAT限定「RPN車両」および、気筒容積別区分なしの「AE車両」。全日本ラリー選手権の入門クラス的存在ですが、上位クラスと比較してパワーが低い分、いかに効率よく走らせるか、またセーフモードへの対処など、このクラスならではのマシンのマネージメントが必要です。

女性選手が多く、華やかなクラスです。トヨタ ヴィッツCVTは、上位クラスでも好成績を収める明治慎太郎/里中謙太(G-EYES)。ドリフトのMSCチャレンジにも参戦する、水原亜利沙/高橋芙悠(CUSCO RACING)、板倉麻美/梅本まどか(WELLPINE MOTORSPORT)。EVの日産 ノート e-POWERは、永井歩夢/竹下紀子(CUSCO RACING)、ハイブリッドカーのトヨタ アクアは、海老原孝敬/蔭山恵(SMaSH)などが参戦しています。

EVでトルクを活かして走る、日産 ノート e-POWER
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ハイブリッドカーでラリーに挑戦。トヨタ アクア
ハイブリッドカーでラリーに挑戦。トヨタ アクア

ヒストリックカーからスポーツカーまで走るアート、『OPEN』クラス

全日本ラリー選手権に併設されるOPENクラスは、「R車両」「RJ車両」「RPN車両」「AE車両」にFIA、JAF公認がなく、改造範囲も緩やかな「RF車両」が参戦できます。気筒容積が3,000ccを境にOP-1、OP-2と分かれます。

過去ラリーに参戦していた往年のラリーカーや、ストリートチューン程度のスポーツカーなど、ふだん街中ではなかなか見られない稀有なマシンが走ります。選手たちは公道を愛車で思いっきり走れ、観客はその珍しいマシンが走っているのを観ることができます。

トヨタV6 3.5リッター(2GR-FE )を積む、ロータス エキシージS
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特に海外で大人気のスポーツカー。ホンダ シビックタイプR
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カローラにセリカのパワーとラリー感を。初代、カローラ レビン(TE27)
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往年のラリーモンテカルロの雰囲気を楽しめるMINI
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トヨタの小型車のルーツ、パブリカ。スターレット、ヴィッツそしてヤリスへ引き継がれる
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全日本ラリーは走る実験室。そして、クルマ好きが挑む場所

TOYOTA GAZOO Racingは、ヴィッツ GRMNでラリーに挑みながらも、「もっといいクルマづくり」に挑み、人を鍛える。スバルもSUBARU TEAM ARAIからデータを集積。DUNLOP、YOKOHAMAも様々なチームにタイヤのセッティングデータをアドバイスしながら、走行後のタイヤの使われ方を見て、次のタイヤづくりに活かす。

各チームも走るごとに、選手とメカニックで協力しながらセッティングを見直し、煮詰めながらもっと速く走れるポイントを追い求める。

私もコドライバーとして参加していると、こうした動きがとてもよくわかります。また、メカニックのなかには、ふだん販売店で整備士として勤務している人も多い。
ラリーの現場で限られた時間のなかで、セッティングを変えたりトラブルがあったら、時間内に走れるように仕上げる。

ふだんの仕事ではないクルマとの関わり方を積み重ね、工具の使い方ひとつとってもより効率的な方法を見つける。シーズンを駆けながらクルマと深く向き合い、勝つか学ぶかを積み重ねる。これがモータースポーツの醍醐味だと思います。

あと選手やメカニックのなかに、ふだんはトヨタやスバル、ダイハツなど、メーカーの社員がプライベートで参戦している人も多いのが、何よりうれしい。
こういった方々が、きっともっとエモーショナルなモビリティーを生み出してくれるんだと確信しています。

(写真:山口貴利・中島正義 テキスト:寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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