1月のダカールラリーに向け、前哨戦としてトップ選手が挑んだアンダルシア・ラリーから2021年のダカールラリーを予想
世界一過酷なラリー「ダカールラリー」は、2021年1月3日から15日にかけ、サウジアラビアで予定通り開催されます。今シーズンは新型コロナの影響でFIAワールドカップのクロスカントリーラリーがほとんど開催されず、9月にお届けしたポーランド以降、選手たちに残されたのはスペインで初開催となるアンダルシア・ラリー(ANDALUCÍA RALLY 2020)だけとなりました。
スペイン南部、ジブラルタル海峡を越えればモロッコに近いこともあり、地形的には砂漠こそないものの、アフリカを感じさせる路面もあります。私が参戦した1998年のパリ・ダカールラリーは、フランスのヴェルサイユ宮殿をスタートし、このアンダルシア地方を走り、アフリカ大陸へ渡り、サハラ砂漠へ挑みました。グラナダでアルハンブラ宮殿を観て感動したのを覚えています。小高い丘を越える砂利道を走ったり、ワジ(涸れ川)を上っていくSS(競技区間)は、水が流れ、鮭が産卵のために浅い川を遡上するような感じで走り、とても面白かったです。
アンダルシア・ラリーには、前回のダカールラリーで総合優勝したMINIのバギーに乗るカルロス・サインツ/ルーカス・クルツ組(X-Raid Mini JCW Team)と総合2位のトヨタ・ハイラックスに乗るナサール・アルアティア/マシュー・ボウメル組(TOYOTA GAZOO Racing)が参戦。
ほかにもMINI勢、トヨタ勢ともに次回のダカールラリー参戦予定の選手が多く、マシンのチェックはもちろんチームのオペレーション確認など本番の前哨戦にふさわしいものになりました。
ハイラックスの4人のドライバーはみな個性豊か
南アフリカトヨタが進めるトヨタ・ハイラックスによるダカールラリー参戦は、2012年から始まり、ベルギーのOVERDRIVEと協力しあい、2017年からナサール・アルアティアが加わったことで、エース級ドライバーが増え、2019年に初優勝しました。
カタールのナサール・アルアティア、南アフリカのジニール・ドゥビリエ、オランダのベルナルド・テン・ブリンケ、サウジアラビアのヤジード・アルラジと勝てるドライバーが4名います。
南アフリカトヨタは、ハイラックスを生産しているのでダカールラリーをはじめ、国内選手権にも参戦し、モータースポーツを通じてもっといいクルマ作りに挑戦し続けています。
OVERDRIVEはラリーに特化したコンストラクターで、代表のジャン・マルク・フォルティンは、元ラリードライバー。自身が理想とするラリーマシンを作るためにOVERDRIVEを設立し、数々のラリーマシンを作ってきました。
彼が過去作ったマシンは、今もダカールラリーに参戦していて、本人曰く自分が作ったマシンが一番多くダカールラリーに参戦しているとのことです。ジャン・マルクは私と同じ歳で、チームでは選手思いのディレクターとして活躍しています。マシンを整備するサービスに行くと、私にコーヒーを入れてくれるほどやさしく紳士です。
ナサール・アルアティアは、PWRCでスバルの新井敏弘選手と一緒に走っていて、ロンドンオリンピックではスキート(クレー射撃)で銅メダルを獲ったオリンピアンでもあります。ダカールラリーではすでに3度の総合優勝を果たしています。
ジニール・ドゥビリエとは、彼がデビュー戦となる2003年のダカールラリーで初めて会いました。元々、南アフリカでサーキットのレーシングドライバーをしていて、このチームではハイラックスの開発ドライバーを務めています。
過去17回ダカールラリーに参戦していますが、一度もリタイヤしたことのないステディーな走り、失敗しないドライバーとしてチームのみんなから全幅の信頼を寄せています。
ベルナルド・テン・ブリンケもサーキットのレースをしていて、ダカールラリーでも高速のフラットダートで特に速さを見せます。
そしてヤジード・アルラジは2015年に会い、日本にとても興味があって、一緒に食事をしていたときに鮨を握る真似をするだけで喜んでくれ、大笑いしてくれます。2019年までMINIで参戦していましたが、母国サウジアラビア開催となり、現地トヨタディストリビューターの支援を受け、今年から再びハイラックスに乗っています。
今回のアンダルシア・ラリーでは10分のペナルティを受け3位になりましたが、もしこれがなければナサール・アルアティアと30秒しか差がなかったので、次回のダカールラリーに期待が持てます。
ナサール・アルアティア
ヤジード・アルラジ
MINIは2人のレジェンドが優勝を引き寄せる
MINIの2人の英雄、カルロス・サインツとステファン・ペテランセル。カルロス・サインツといえば、WRCでセリカに乗り、トヨタに初めてのタイトルをもたらしたドライバーでST-165、ST-185の歴代セリカでタイトルを獲り、その後のカローラWRCに乗り、三菱のトミ・マキネン、スバルのコリン・マクレーとタイトル争いを展開。自身はタイトルを獲れなかったのですが、トヨタにマニュファクチャラーズ・タイトルをもたらしてくれたWRCのレジェンド。
ダカールラリーは13回参戦し、3度の総合優勝を果たしています。WRC時代はエル・マタドール(闘牛士)と呼ばれていましたが、ビバークで一度、一緒に食事をしたとき、とても温和なかたでびっくりしました。58歳となった現在でも走りは情熱的なラテンの走りです。
そしてステファン・ペテランセル。バイクで10度参戦し、前人未到の6度の優勝を果たします。ちょうど6度目の優勝をする1998年、私もこのパリ・ダカールラリーに参戦していて、ゴールポディウムから降りてきたステファン・ペテランセルが、奥様と静かに抱き合っているシーンを観て、もらい泣きしてしまいました。
そして四輪に乗り換え21度の参戦、7度の総合優勝をしているミスター・ダカール。この2人で10度の総合優勝をしています。
カルロス・サインツ
ステファン・ペテランセル
ハイラックスとMINIに挑戦する新たなライバル
ハイラックスは5リットルV8ガソリンエンジンの4WDでMINIも4WDにはステファン・ペテランセルが乗り、カルロス・サインツはBMW製3リットルディーゼルターボエンジンの2WDのバギーに乗ります。
FIAの規定で排気量や駆動方式によって車重やホイールトラベル量が異なり、MINIの2WDのほうが車重で約200kg軽くできたり、タイヤサイズも大きく、ホイールトラベル量も有利に設計できます。
車重が軽く、大径タイヤのマシンは、フラットダートで路面の凸凹からの衝撃が少なくなり、砂丘では接地面が広くできるのでスタックしにくくなります。南アフリカトヨタは、マニュファクチャーとしてハイラックスは4WDが主力なので、ラリーマシンも4WDで挑んでいます。
そして次回のダカールラリーから新たなチームが参戦します。イギリスのPRODRIVEです。WRCでは、スバルでマニュファクチュアラーズタイトル3度、ドライバーズタイトル3度獲得したレーシングコンストラクターです。また、F1のB・A・Rホンダと提携したり、現在はアストンマーチン・レーシングを運営し、ル・マン24時間レースやWECに参戦しています。
次回のダカールラリーには、バーレーンの政府系ファンドの支援を受け、バーレーン・レイド・エクストリーム(Bahrain Raid Xtreme/BRX)というチームから2台のマシンで参戦予定です。
現在わかっているのは四輪のトップクラスに車両重量1850kgで3.5リッターV6ツインターボ(公称400PS・700Nm)を搭載したバギーで参戦すること。そしてドライバーは、WRCで前人未踏の9連覇を達成したミスターWRCのセバスチャン・ローブ。
過去3度ダカールラリーに参戦し、総合2位の実績があります。もう1人は過去二輪四輪合わせて24度参戦し、どちらも総合優勝経験のあるナニ・ロマ。身長190cm90kgと大柄で陽気なスペイン人。話していてとても人懐っこくユニークな選手です。
このコラムではマラソン解説の増田明美さんのように、選手のプライベートにも少し触れ、速さだけでなく人となりを少し紹介させていただき、マシンだけでなく選手にも興味を持っていただけたらと。
今回のアンダルシア・ラリーの結果は、優勝がハイラックスのナサール・アルアティア、2位がMINIのカルロス・サインツ、3位がハイラックスのヤジード・アルラジでした。開催まであと2ヶ月を切った次回のダカールラリーは、トヨタ・ハイラックスとMINIそしてBRXのマシンが連日トップ争いを展開するおもしろいラリーになりそうです。
写真:AndaluciaRally・DPPI・MCH・Rally_zone/文:寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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