MIRAIで世界新記録樹立。第2区間を走って思った未来に望むこと…寺田昌弘連載コラム

フランスで5月26日、トヨタのFCEV、MIRAI(ミライ)の燃料電池技術を応用した定置型水素発電機から得た電力によって、エッフェル塔をグリーンに照らし出すニュースを見ました。
そして同日スタートした1回の水素充填でMIRAIがどれだけ走れるかというチャレンジで、見事1,003kmの世界記録を樹立。
5月14日に、ヒュンダイがオーストラリアでFCEV、NEXO(ネッソ)で887.5kmを達成した世界記録を約2週間で塗り替えました。

私は過去、自動車環境評論家の横田紀一郎さん率いるTeamACPの一員として1999年よりトヨタ・プリウスで世界5大陸を旅しながらエココンシャスなヒト、コト、モノに触れる環境体感の旅をし、今までモータースポーツでアクセルを踏む楽しさを堪能していましたが、HEVのプリウスに乗ってアクセルを緩めてエコランする楽しさを知りました。

今回のFCEVのニュースを観て、楽しそうだなと思っていたら、自動車評論家の国沢光宏さんが6月3日にSNSで「フランスの1,003kmの記録を抜きたいので、一緒に走る有志募集」の告知をされ、おもしろそうとすぐにDMを送り仲間に入れてもらいました。

  • 水素を満充填

  • この挑戦の発起人の国沢光宏さん

  • 今回のドライバー全員で統一していたはこのエムリットマスク。エアコンフィルターで有名なエムリットフィルターが作るこのマスクは、医療現場で使用されるN95specの日本製。たいがいのものは通さないが、今回ここに書いてあるフランスチームの世界記録の1003kmだけはドライバー全員で飲み込んだ。そういえばMIRAIも取り込んだ空気をフィルターでろ過。PM2.5など大気汚染物質まで除去する空気清浄システムを装備。走るごとに空気をきれいにする

10名のドライバーが決定し、いざ福島へ

  • スタートは「いわき鹿島水素ステーション」。スタートまで取材対応などで2時間いたが、MIRAIが9台、ホンダ・クライリティが1台が水素充填に来て活気がある。

今回のチャレンジのスタート地は福島。浪江町では世界最大級の水素生産拠点、福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)が稼働し、「なみえ水素タウン構想」のもと水素利活用の実証実験が始まったり、楢葉町ではバッテリーの素材のひとつである水酸化リチウムが生産されたりと、現在、福島は日本における水素のシンボルであり、FCEVにとって大切な場所です。

そのなかFCEV普及に向け、水素供給インフラの整備支援する日本水素ステーションネットワーク合同会社( JHyM)が最初にサポートした水素ステーションが、いわき市にあり、ここがスタート地点に決まりました。

ドライバーは国沢光宏さんをはじめ、日本自動車ジャーナリスト協会会長の菰田潔さん、MIRAIを所有する岡崎五朗さん、吉田由美さん、山本シンヤさん、松下宏さん、柏秀樹さんといったモータージャーナリストにclicccar編集長の小林和久さん、MIRAI開発メンバーそして私の10名。

1名あたり約100kmを担当し、福島・いわき市から海岸沿いに南下し、茨城、千葉をぐるっと巡り、東京アクアラインを渡って神奈川へ入り、そして東京へ。1都4県を走ります。

私は第2区間となる茨城・大洗町から千葉・匝瑳市を担当することとなり、スタート前日に想定ルートを下見しながら国道、県道を走っていわき市へ向かいました。

酷暑そして雨。数々の洗礼を受けながら走る

  • 水素ステーションを運営する根本通商の根本克頼社長がヒューエルリッドに封印シールを貼る

6月28日12:30、いわき鹿島水素ステーションで水素を充填し、第1区間を国沢光宏さんがドライブして出発。直線的な国道6号を南下しながら順調に走る。
途中、工事や片側1車線での混雑などもありましたが、さすがエコランのスペシャリスト!なんと209km/kgで私の待つ大洗海浜公園までやってきました。

ちなみにkm/kgは水素1kgあたり何km走ったかという数値で、一般的にMIRAIで走る場合、100~120km/kgが平均的で、カタログデータのWLTCモードではグレードのGが152km/kg、Zが135km/kg。
いかに国沢さんが水素消費を抑えた走りをしてきたかは、乗り換えで停止しているときに207km/kgまで落ちたことからもギリギリの走りをしてきたことがわかります。

MIRAIのタンクは充填装置にもよりますが、水素が5.6kg充填できるようになっています。ですので200km/kg以上を狙って走れば記録を越えられると国沢さんに指示をいただき、第2区間を私のドライブでスタート。

  • ここから長い旅が始まる

  • いい天気で車内温度がぐんぐん上がる

  • 第1区間の国沢さんの209km/kmのエコランを見て、自分にどれだけできるのだろうと緊張と不安な顔をしながらスタート

国道51号を南下し、序盤は205km/kgのいいペースで走ります。しかし電力消費を抑えるためエアコンはオフ、ウインドウも開けすぎると空気抵抗が増すので少ししか開けられず、車内温度がぐんぐん上がってきます。

ただ私はダカールラリーなど車内温度が50℃越えのなか走っていたので慣れていて、この長所を認めてもらえてメンバー入りできたのではと思っていました。

一般道を法定速度で走るのですが、今回のルートは50km/hと40km/hがあり、エコランするには向いています。
プリウスなどHEVでは回生ブレーキをうまく使いながらエネルギー回収して動力にしますが、FCEVのMIRAIは、回生で得たエネルギーを動力にあまり活かす設計ではないため、いかにエネルギー損失、無駄なブレーキングをしないような走りに徹します。

法定速度を守る、周りの交通の流れを乱さないことが大前提ですので、前後のクルマの流れや、信号のタイミングもしっかり見る、MIRAIをドライブしながら数百メートル先の未来を予測しながら走ることが重要です。

前半をできるかぎり水素消費を抑える必要がありました。中盤以降に鹿嶋市、神栖市と2つの市の中心部を通過しなければならず、信号が一気に増え、交通量も増えます。後続車がいる場合、アクセルもブレーキも踏まず滑走するわけにもいきません。

この2つの市中心部を抜けたとき、202km/kgまで落ち、さらに利根川を渡り千葉県銚子市に入る頃には夕方の帰宅ラッシュで交通量が増え、ますます右足に神経を集中させます。

さらに難関はふたつの丘を越えるところです。負荷が増える登りはしょうがないにしても、下りがブラインドコーナーになっていてブレーキを引きずらなければならず、そうこうしているうちに198km/kgに。

このままではみんなの待つ乗り換え地点には行けないと、交通量の少なくなる県道でより繊細な走りでなんとか203km/kgまで持ち返し、次の小林和久さんへタスキをつなぎました。

  • 鹿島アントラーズのホーム、県立カシマスタジアム前を通過し、ここから市街地へ

  • 信号でストップアンドゴーを繰り返す試練のエリア。交通量も多い

  • 国沢さんと合わせて183km走り、203km/kg。なんとか200km/kg以上で走破できてひと安心

第3区間は、九十九里浜に沿った直線的な道路を走り、終盤の大きな登りも耐えて鴨川まで走り切り204km/kgに。

第4区間はMIRAI開発メンバーが担当。ここでさらに貯金ができると予想していましたが、雨が降り始め、これが大きな抵抗となり、それでもなんとか200km/kgで富津まで来ました。

第5区間は山本シンヤさん。雨はさらに本降りとなり、東京アクアラインに乗るまでの木更津市内で苦しみ、風雨がひどいアクアラインを渡り、首都高を走り箱崎PAへ。196km/kgとなりましたが、計算上はまだ世界新記録は狙えるところです。

第6区間は岡崎五朗さん。時刻はAM2:00。雨で所々水溜まりができるなか、水溜まりの抵抗を避けたり、回生した電気をちょっとした加速にうまく活用しながら細かく水素消費を抑え、ほぼキープの195km/kg。さすがMIRAIオーナーです。

第7区間は紅一点、カーライフエッセイストの吉田由美さん。相変わらず降り続く雨の首都高を美脚で繊細にアクセルをコントロールしながら、空が明るくなりAM6:40まで走り、196km/kgと1kmアップする華麗な走りを披露。第8区間は松下宏さん。首都高も交通量が増え始め、思い通りのアクセルコントロールも困難ななか走り切ります。

  • 日が暮れると雨が降る。思った以上の抵抗となり水素消費量が増えてくる

  • 真夜中すぎは首都高も空いてくる。トンネルは雨もあたらず、ほっとする瞬間

  • タスキリレー。車外にいるメンバーは走行順で私(左上)・小林さん(右上)・トヨタ開発メンバー(左下)・シンヤさん(右下)

  • TNGAの考えに基づいて開発されたLEXUSのLS、LCに採用されているGA-Lプラットフォームにしなやかなサスペンションのおかげで、各ドライバーはそれぞれ2時間以上ドライブしたが、上質な乗り心地のよさで驚くほど疲れなかった

  • さらに乗っていて感動したのは、圧倒的な静粛性の高さ。エンジンがないからもちろんですが、ロードノイズや風切り音まで抑えられ、FCEVならではの静粛性をさらに高めている

第9区間は柏秀樹さん。ふだんはバイクのジャーナリストとして小排気量から大排気量まで乗りこなし、私も30年前にオーストラリア大陸を縦断するラリーにバイクで一緒に参戦したことがあるのですが、バイクで培った繊細なアクセルコントロールを駆使し197km/kgへ距離を伸ばす大殊勲。

第10区間は菰田潔さん。雨もやみ薄日が差し、路面もドライになってきます。私たちはゴールとなる東京ガス豊洲水素ステーションへ先回りをし、走行状況を確認しながら到着を待ちます。すると1,003kmを超えたと同乗者より連絡が入り、これで記録更新となりますが、私たちが待つ水素ステーションまで、水素を使って走り切ることを条件としているので、最後まで気が抜けません。

そしてレインボーブリッジをお台場方面へ渡ってくるのが見えたとき、今まで世界記録保持していたフランスチームに敬意を込めて、フランス語でラルク アン シエル(L'Arc~en~Ciel/The Rainbow/虹)を渡ってくると思ったら、偶然ですがアーティストのラルク アン シエルが8月25日リリースするタイトルがなんと「ミライ」という奇跡が!なんてシンクロニシティに震えた15:00、スタートから26時間以上走り続けてゴール。

記録は1,040.5km!

フランスで打ち立てられた記録を36.5km上回る距離で世界記録更新に成功しました。

  • とどまっているときのスタイリングもいいが、こうして走っているときのかっこよさも持ち合わせている。風景に溶け込みながらも存在感ある造形が美しい

  • タスキリレー。五朗さん(左上)・由美さん(右上)・松下さん(左下)・柏さん(右下)

  • 首都高も朝になると一気に交通量が増え、新記録への道を困難なものにする

  • フランスチームはエッフェル塔前で撮影していたので、こちらは東京タワーをバックに走るMIRAIを撮影

  • アンカーを務める菰田さんがゴールの水素ステーションに到着し、世界新記録達成を喜ぶ

  • 26時間以上、10人で1040.5kmを走り、197km/kg。世界記録を更新した

  • ワールドレコードホルダー。まるで小学生のような短パン半袖姿なのは車内の暑さ対策だが、いくつになってもクルマ好きは少年の心を持っている証のよう

TGRラリーチャレンジ開会式でサプライズが

  • 自工会会長でトヨタ社長そしてMORIZOさんご本人から感謝状を授与していただく。感謝感激!Photo by Noriaki Mitsuhashi / N-RAK PHOTO AGENCY

MIRAIでエコランを堪能した5日後、久しぶりにTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジin渋川伊香保に、哀川翔さん率いるFLEX SHOW AIKAWA Racingのメンバーとして参戦するために群馬へ。
長野五輪男子スピードスケート500m金メダリストでW杯34勝の清水宏保さんのコドライバーとしてコンビを組みます。

当日はMIRAIで一緒に走った国沢光宏さん、山本シンヤさんも会場におられ、早くも同窓会ですね、なんてすぐの再会を喜んでいました。

そんな和やかな開会式でひとりのカーガイ、MORIZO選手として参戦される豊田章男社長のご挨拶のとき、突如私たちMIRAIの世界新記録樹立の話になり、なんとサプライズで感謝状授与式が行われました。

日本自動車工業会会長であり、トヨタ自動車社長の豊田章男さんとして、またMORIZO選手として、それぞれの立場でいただいたお言葉のそのウイットに時折クスっとなりながら、感動して久しぶりに涙が出ました。

その涙はきっと僕の心が、酸素と水素を取り込んで心が動き、FCEVのようにその後出てきた水だと思います。一所懸命みなさんと挑戦して達成すると、こんなにも驚くことが起きるんだと感謝で胸がいっぱいです。

今回、私たちはフランスチームが打ち立てた世界記録を超えましたが、今度は私たちの世界記録を目指し、北米などFCEVが販売されていて、インフラが進んでいる国々で挑戦してくれるチームが出てくるのが楽しみです。

カリフォルニア州ランカスターがアメリカ初の水素都市と呼ばれているのでスタート地点に、そこからバハ・カリフォルニア半島を南下、北上しゴールはロングビーチの水素ステーションがいいですね。

カリフォルニア州はFCEVを購入から3年間、水素充填が無料ですし、フリーウェイも優先レーンが走れたりと優遇制度がありますし。日本も購入時だけでなく、所有してからも優遇制度があればもっと普及するのになと思います。

私もMIRAIを3時間ドライブして、すごくワクワクして、国沢さんや五朗さんのように欲しくなりました。
まずは今回の挑戦のようにこうしていろんな角度から水素社会に向けたムーブメントがグローバルに広がることを期待しています。

  • クルマと関わり、日本を愛する550万人の仲間とともにこれからも挑戦は続く

写真:上野訓宏・Noriaki Mitsuhashi / N-RAK PHOTO AGENCY 文:寺田昌弘

過去6回ドライバーとしてダカールラリーに参戦した寺田昌弘さんが、国内外のイベント・レースを臨場感たっぷりにレポートします。


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