ランクル70を溺愛するナナマル乗りたち・・・寺田昌弘連載コラム
ランドクルーザーのなかでもヘビーデューティーとして人気があるのが70系(通称:ナナマル)。1984年に40系から70系となり、以来フロントサスペンションを変更したり、ボディ形状を変えながら、70系として今も海外で販売されています。
私は1996年に購入し、パリ・ダカールラリーに初参戦し、今もナナマルに乗っていますが、ナナマル乗りの仲間は、やはりオフロードを走るのが大好き。ナナマル乗りのワンメイククラブである「LAND CRUISER 70 OWNER'S CLUB」は毎年オフロードコースを貸し切って、走りを存分に楽しんでキャンプで親睦を深めていましたが、この2年は世相に鑑みて開催を見送ってきました。ずっと我慢してきましたが、宣言解除もあり、久しぶりにナナマル乗りが集まるショップの「マッドハウス」主催で埼玉の「アウトドアパーク ブロンコ」で走りを満喫しました。
ナナマルには多様なエンジン、ホイールベース、ボディがある
ナナマルは、仕向地によってさまざまなエンジンがありました。
日本ではディーゼルエンジン搭載車が販売され、3B(直列4気筒3,431cc)に始まり、ターボがついた13B-T(直列4気筒3,431cc)は、レスポンスがよく回転を上げると一気にパワーが出て乗っていて楽しいナナマルでした。
海外では2H(直列6気筒3,980cc)があり、日本では1PZ(直列5気筒3,469cc)、そして名機と言われ1HZ(直列6気筒4,164cc)ています。その後、海外では1HD-FTE(直列6気筒ターボ4,164cc)、1VD-FTV(V型8気筒インタークーラーターボ4,461cc)とディーゼルターボが進化していきます。
ガソリンエンジンは、3F(直列6気筒3,955cc)に始まり、1FZ(直列6気筒4,477cc)そして現在も中東を中心にベネズエラなどでも販売されている1GR-FE(V型6気筒3,955cc)があります。生誕30周年を記念して日本で期間限定販売されたナナマルは、この1GR-FE搭載モデルでした。
ホイールベースは2,310 mm、2,600 mm、2,730 mm、2,980 mm、3,180 mm の5タイプあり、ボディは2ドアショート、2ドアミドル、2ドアロング、4ドアセミロング、2ドアピックアップ、4ドアピックアップとバリエーションに富んでいます。
サスペンションは、4輪リーフリジッドに始まり、フロントのみコイルスプリングに変更されました。
やはりナナマルはオフロードが似合う
日本では、1PZ、1HZエンジンで2ドアショート、2ドアミドル、4ドアセミロングが多く、逆輸入車となる2ドアロングのオーナーには、1HZ、1FJエンジンもいます。もちろん期間限定で国内販売された1GRエンジンの4ドアセミロング、4ドアピックアップも。新車では購入できないですし、中古車情報を見ても新車購入時よりも価格が高いモデルもあり驚きです。20万km以上走行しているモデルでも300万円を超えるものも。
しかしナナマル乗りは、泥だらけになるのはもちろん、ときにはボディをぶつけてでもオフロードを楽しみます。
ナナマルのよさは、なにより操る楽しさだと思います。路面からステアリングに伝わってくる衝撃とか、シフトストロークが長いとか、アシストしてくれる電子制御がないので、自分のドライビングスキルがそのまま走りに現れてくるところです。運転というより操縦している感覚です。小回りも効かないので、モーグルでも走破できるラインをしっかり読みながら走る。ドライバーの経験値が、ダイレクトに走りに出るのがおもしろいです。
オープンデフであれば、タイヤが路面から浮いてしまったら、トラクションコントロールもマルチテレインセレクトもないので、乗り越えられないこともあります。ただデフロックを装備しているナナマルであれば、デフロックスイッチをひねって前後デフロックすれば、比類なき踏破力を発揮します。このスイッチをひねる作業も儀式として楽しさのひとつだったりします。
ランドクルーザー300やプラドのように電子制御のあるランクルなら、あまり考えなくてもクルマがより安全に悪路を走破してくれます。しかし悪路をどうやって走るかをドライバーが考え、愛車のナナマルの悪路走破性の高さを引き出す、その感覚がおもしろかったりしますし、ドライバーによってその悪路走破性が変わってくるからおもしろいのです。
そして悪路走破性を高めるためにサスペンションも変更します。多くは2~4インチ(約50~100mm)リフトアップするオーナーが多いです。またタイヤによっても悪路走破性が変わってくるので、自分の用途に合ったタイヤを選ぶのも楽しいです。リフトアップすることでより大径タイヤも履けるようになります。MTタイヤもBF GoodrichやYOKOHAMA、DUNLOP、TOYO TIRESでオフロードでのグリップ、排土性だけでなく、普段一般道も走るので耐摩耗性、そして価格を考慮しながら選びます。
ナナマル仲間と相談しながら、ひとつずつ自分で選び、自分だけのナナマルにしていく。この工程も楽しみのひとつです。
世界で信頼されるナナマルをぜひ日本で
ナナマルはワクチン保冷輸送車としてWHO(世界保健機関)が定めるPQS(医療機材品質認証/Performance, Quality, Safety)を、世界で初めて2021年3月に取得しました。
道路インフラが整っていない途上国では、今まで適切な保冷輸送手段がないので、輸送中の温度変化が原因でワクチン供給量の約2割(400億円相当)が毎年廃棄されているそうです。そのこともあり、ワクチンで予防できる感染症で、毎年150万人の子どもの命が奪われています。
ナナマルは働くクルマであり、人の命を支えるクルマとして、その信頼性、耐久性、悪路走破性の高さが世界で認められています。
海外のランクル仲間に言われたことがあります。「日本にはナナマルというすばらしいクルマがあるのに、生産している日本で買えないなんてかわいそう」。過去、サハラ砂漠やタンザニア、オーストラリアに行ったとき、ナナマルが活躍しているのを見て、日本人として誇らしかったです。私は幸い25年前に新車で購入し、今も楽しくナナマルライフを楽しんでいますが、保安基準や安全装備などクリアしなければならないこともあるかと思いますが、ナナマルの母国日本で、また販売してくれたらいいなと思います。
先日発売されたGR86の購入者の約3割が20代で、30代も含めると4割を超えるとネットニュースで見ました。もしナナマルが新車で買えたら、きっと同じようにクルマ離れが叫ばれる20~30代に大人気になると思います。ランドクルーザー300に搭載されているV6ディーゼルツインターボとは言いませんが、プラドの直列4気筒2.8Lインタークーラーターボで充分なのでぜひ再登場してくれることを望んでいます。
私のナナマルのディーゼルエンジンの1HZは、最高出力99 kW(135 PS)/4000 r.p.m. ・最大トルク280 N・m/2200 r.p.m.。プラドの1GD-FTVは150kW(204PS)/3,000~3,400r.p.m・500N・m/1,600~2,800r.p.mとスペック的にも優位ですし、現行オーストラリア仕様の1VD-FTV(4.5LV8ディーゼルターボ)は151kW(205PS)/3,400r.p.m. ・430N・m/1,200~3,200r.p.m.とかなり近い値なので、牽引能力が3,5トンのままで行ければ、車重を軽くするためにも、右ハンドル仕様でオーストラリア仕様も合わせて生産し、日本はDPR(排出ガス浄化装置)と尿素SCRシステムをプラスすれば、いいのでは、なんて期待しています。
(文:寺田 昌弘 / 写真:柴崎祐介・MUD HOUSE)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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