TGRラリチャレに金メダリスト清水宏保選手とサクシードで参戦!サクシード、清水選手の走りは想像以上だった・・・寺田昌弘連載コラム

第6戦渋川伊香保TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジ(以降TGRラリチャレ)に参加しました。今回は、長野五輪・スピードスケートの金メダリスト清水宏保選手とコンビを組みました。清水選手は、今回が2回目となるラリーです。

前回は、以前哀川翔選手が乗っていたトヨタ・ヴィッツに乗りました。今回はなんとトヨタ・サクシード!しかもCVT!です。一見びっくりするマシンですが、よくよく考えるととてもいい選択だと思います。例えば、ヤリスとホイールベースが同じ、耐久性が高い、現地まで工具等荷物を積めるんです。

コ・ドライバー目線で、清水さんの走り、そしてサクシードの走りをご紹介します。

意外とヤリスと似ているサクシード

  • サービスカーのように見えますがこのサクシードで参戦

  • サクシード(左)と哀川翔選手の乗るヤリス(右)

    サクシードのとなりは哀川翔選手の乗るヤリス

はたらくクルマといえばハイエース、キャラバン、プロボックス、そしてサクシードが挙がってきます。
サクシードは2020年にプロボックスに統合され、現在は販売されていません。おもにフリートで使用されたリースアップ車が中古車市場に多くあります。見た目はヤリスと比較すると、かなり縦長に見えます。しかし、ホイールベースが2,550mmとまったく同じなんです。トレッドもサクシードがフロント5mm、リヤ20mm狭いくらいです。最小回転半径も10cmしか変わりません。

エンジンは、サクシードが4気筒に対してヤリスは3気筒。最高出力は11ps、最大トルクは0.9kgf・m低いです。そのうえ車重が100kg重いということは不利です。しかし、サクシードならではのメリットがあります。そもそもサクシードは商用車ですから、耐久性が高い。

たとえばタイではハイラックスをローダウンにして競うレースがあります。ハイラックスはタイで生産され、国内でもよく見かけるほど人気車種です。マーケティング的にもレースをするのはメリットがあります。それ以上に、チームにとってはその耐久性の高さのおかげで、レースにかかる費用を乗用車ベースに比べて低く抑えられます。そのため、参加しやすいのです。

サクシードの手頃な中古車を見つけてマシンに仕立てたれば、これから長くラリーに参戦してもコストが抑えられます。もちろん、走ることも存分に楽しめるのでおすすめです。また車内が広く、荷室も大きなスペースがあるので工具やジャッキまで積んで会場まで来られます。

  • CVTのサクシードとヤリスのエンジン、車両サイズ比較

  • 左から私(寺田昌弘)、清水宏保選手、哀川翔選手、保井隆宏選手

    左から私(寺田昌弘)、清水宏保選手、哀川翔選手、保井隆宏選手

天気予報は晴れだったのに、当日は昨年と同じ雨

  • おそらく世界初となるサクシードでのラリーが始まった

さてラリーです。車検も無事クリアし、まずはレキ(競技コースの試走)でSS(スペシャルステージ:ラリー競技の花形ステージ)を確認しながらペースノートを作成。
しばらく天気もよかったので路面はドライでしたが、砂が浮いているところが数か所あったので書き込んでおきます。

今回は新井敏弘選手がコースディレクターです。登りだけでなく下りも多く、SSごとに特徴のあるおもしろい設定です。清水選手と私だけでは心もとないので、保井隆宏選手のインカー映像を観ながら、さらにペースノートの精度を上げていきます。保井隆宏選手は、哀川翔選手のコ・ドライバー(※)を務め、全日本ラリーはもちろん海外ラリーにも参戦されています。チームメイトにプロフェッショナルなコ・ドライバーがいてくれてとても助かります。
(※コ・ドライバー:ドライバーと共に車両に乗り込み、走行の手助けをする選手のこと。ナビゲーターともいう)

渋川に来たときには徐々に雲行きが怪しくなり、夜中には遠くで雷が光り、嫌な予感が。天気予報は晴れでしたが、昨年に引き続き雨。レキのときとは路面状況が変わり、より経験が問われる状況でのスタートとなりました。

SS1(北榛名)は4.111km。前半はきつめのコーナーと直線が織り交ざり、滑りやすい砂や橋があります。中盤以降は登り下りを繰り返しながらリズミカルなコーナーが続きます。清水選手は、美浜サーキットのシェイクダウンでサクシードに乗っていました。ラリーでは初めて乗るのでお互い緊張しながらスタートします。

幸いSS1の路面はドライだったので走りやすいです。サクシードと2人のリズムを合わせながら走ってみましたがクラス17台中12位。
SS2(岡崎)は2.333kmで序盤こそ余裕はあります。その後登り下りを繰り返しながら連続するコーナーで息つく間もなく走り続けます。ここは9位でゴール。少しずつ私たちもリズムがつかめてきました。
SS3は渋川スカイランドパーク内を走る0.272kmのギャラリーステージ。清水選手が長野五輪で金メダルを獲った500mより短い、一瞬で駆け抜けるSSです。長く続く左コーナーを抜けて右ヘアピンがあり、さらに右コーナーを抜けるとゴールです。
ロケットスタートまではいきませんがうまくスタート。右ヘアピンでインに寄り過ぎてしまい縁石に乗り上げ、一瞬片輪走行に。無事ゴールしましたが結構衝撃があったので、サービスに戻ってメカニックにチェックしてもらいました。多少タイヤに擦れた跡があったもののアライメントすら狂っていませんでした。「何かあったんですか?まったくわからないです」とメカニックに言われるほど問題なしでほっとしました。こういったところでもサクシードの商用車としての耐久性の高さが実証されました。

チームメイトの哀川翔/保井隆宏組のヤリスはここでクラス3位をゲット。ギャラリーステージで魅せる翔さん、さすがです。

SS6本中、1本でクラス3位獲得!これからが楽しみ

  • 雨が降りしきるなか、それでも攻める

後半のSS4(SS1と同じ)は路面がウェット。アスファルトもそうですが特に砂があったところが泥になって極端に滑りやすくなっていて、注意が必要です。

前半のSSでの走りをもとに、ふたりでドライビングの方法やコールのタイミングなどをすり合わせます。スタート地点に行くと、先行しているうちの2台のマシンがSS内で停まっているという情報がはいりました。滑りやすいことを再認識しながらスタート。

清水選手のドライビングは特にコーナーの進入がすばらしくきれい。さすが、スピードスケートで培ったコーナリング技術が活かされています。しかし出口からの加速態勢に入るのが若干遅れています。そこで、スタイルを加速重視にしてもらったところ、より安心して攻められることがわかってきました。ここは17台中7位。

少しずつ自信をつけ、順位を上げながらSS5(SS2と同じ)へ。SS5ゴール後、清水選手が「すごくドライビングしやすくなった」と言われました。私も想定上に清水選手が速くなっていたので、ゴール手前で思わずコールが遅れてしまいました。タイムを見るとクラス3位!これには2人で大喜びです。

SS6(SS3と同じ)はSS3で乗り上げてしまったイン側の縁石を意識しながら丁寧に走り、無事完走しました。
結果は17台中8位、今回はまず完走。そして中盤くらいの順位を目指していたので狙いどおりの成績で一安心です。

清水選手はご自身のyoutubeチャンネル「清水宏保 太ももチャンネル」の取材でマツダのディーラーに行ったときに、なんと仕事用にファミリアバンを衝動買い。このクルマはプロボックスのOEM車なので今回のサクシードとほぼ同じ仕様です。

ふだんからこのバンに慣れてラリーに活かす。一流のアスリートは、日々トレーニングを欠かさず「練習は噓をつかない」ことを試合で証明します。ラリーはまだ2戦目の清水選手です。しかし、すでにドライビングをロジカルに分析し、良かった点、修正すべき点を見つけています。ここから参戦ごとに経験を積みながら、上位を目指す清水選手。みなさまぜひ「清水宏保 太ももチャンネル」を観ながら応援よろしくお願いします。

  • エムリットが開発中のCLING AIRシートクッション

    エムリットが開発中のCLING AIRシートクッション

最後に、今回気に入ったのが、エムリットが開発中のCLING AIRシートクッション。2種類の素材を組み合わせ、フィット感がよくシートエアコンを使用しているかのように汗が残らずさらさら。ラリーを1日走っても背中や腰が疲れずスグレモノでした。

  • 哀川翔選手の運転するヤリス

    哀川翔選手も攻める

  • 左から 寺田昌弘選手、清水宏保選手、哀川翔選手、保井隆宏選手

    2台とも無事完走。お互いの成績を比べ、いいライバル関係を築きながらラリーを楽しみ、盛り上げる

清水宏保選手のYoutubeチャンネルはこちらから↓
(2) 清水宏保 太ももチャンネル - YouTube

  • エムリットが開発中のCLING AIRシートクッション

写真:TGRラリーチャレンジ・FLEX SHOW AIKAWA Racing/文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


[GAZOO編集部]