木製マイクロモビリティで、本来あるべきワクワクを体感・・・寺田昌弘連載コラム
マイクロモビリティとは、自動車よりもコンパクトで小回りが利き、環境性能にも優れながら、地域の手軽な移動の足となる1人~2人乗り程度の車両のこと。
ランドクルーザーに乗る仲間から「おもしろいモビリティを作る方がいますよ」と教えていただきさっそくホームページをチェック。
調べてみると自宅から自転車で5分もかからない近さでびっくり。
木製の電動カートに興味津々で、SNSで連絡を取ってみると試乗できるというので、さっそく近所の工房へ行ってきました。
教材で手掛けていたら、ナンバーを取得して公道を走るまでに
お会いしたのはライト・モビリティ設計の代表、水嶋徹さん。イメージスケッチからCAD、モデリング、図面、試作まで、イメージをカタチにする機械設計をしています。
そしてトヨタ東京自動車大学校スマートモビリティ科の非常勤講師として教鞭を執られています。スマートモビリティ科はBEV、HEV、PHEV、FCEVなど電動化技術を活かしたモビリティを扱うエキスパートを養成する科です。
ここで教材作りとして木製電動カートを開発。さらにミニカー登録を行い、公道走行を可能にしました。
水嶋さんは大学卒業後、桑沢デザイン研究所でプロダクトデザインを専攻し、その後航空宇宙関連の設計開発をした経験を持つエンジニア。
「いつか自分の手でクルマを作ってみたいという夢あって、ここまで仕上げました」
全長1,713mmとコンパクトですが、身長180cmの私が乗っても十分ゆとりがあります。主電源を入れ、イグニッションをオンにすれば準備完了。
あとはカートと同じで、右足のアクセルを踏めば走り出します。タイヤが細く路面抵抗が少ないので、走り出しも滑らかに加速していきます。
ちょっとした下り坂は、アクセルを踏まなくても加速していくほど軽やかです。
停止状態ではカートと同じで、アシストがないのでステアリングを回すのに少し重みを感じますが、少しアクセルを踏んで動き始めてからステアリング操作をすればまったく問題ありません。
前後トレッドはフロントが少し広く、交差点での右左折も曲がりやすく、直進も安定しています。ただサスペンションはないのでマンホールの凹凸などでは跳ねます。
今回のギヤ比だと最高速度は30km/h。目線の低さと振動から、「もっとスピードが出ているのは」と感じるほどワクワクします。
ウインカーはトグルスイッチで曲がる方向に倒し、曲がり切ったらスイッチをセンターに戻します。座面もボディも木の合板が使われていて温かみを感じ、乗ってみて欲しくなるほど興味深いモビリティです。
ひとしきり乗って、水嶋さんに感想を話していると
「今度アートパラ深川で、私も手伝っているのですが、おもしろい電動バイクを作っているかたも一緒に出展するので、見に来てください」と。
というわけで、アートパラ深川にも行ってきました。
トランスフォームするワクドキの電動バイク
アートパラ深川は、障害のある方々のアート作品を街に解放する芸術祭で、私の暮らす江東区の清澄白河、門前仲町、森下などいわゆる深川の神社、寺院、隅田川沿い遊歩道などにアート作品が展示されます。
水嶋さんも開発に携わった電動車いすの試乗コーナーには、今回試乗した電動カートだけでなく、開発に関わった電動バイクも展示されました。
作ったのはICOMA代表の生駒崇光さん。この電動バイクのすごいところは、“折りたたんでコンパクト”になること。その名も「タタメルバイク」。
トランスフォームするんですねと言うと「昔、タカラトミーでトランスフォーマーを担当していたので」とのこと。
私の知人で、ベイブレードを担当していた方に一時期、私のランドクルーザー70を貸していたことがあってと話すと、
「知っています!あのランクル、寺田さんのだったんですか!」と驚かれ、同時に一気に仲よくなれました。
幼少のころからロボットを作ってみたかったという生駒さんは、タカラトミーから、Cerevo、そしてドラマにも登場した家族型ロボット「LOVOT」で有名なGROOVE Xで経験を積まれてから独立し、この電動バイクを作りました。
タタメルバイクは、折り畳んだり、広げたりするアクションが楽しく、乗る前からワクワクさせてくれます。
ふと、リヤホイールを見ると、インホイールモーターだったり、リヤサスペンションが一般的なスクーターより質感の高い部品を使っていたりして、メカ好きな人の心をくすぐられました。
また乗るときに、ウインカーやサイドステップを自分で出す儀式のような作業が必要なところも心躍らされるポイントです。
発進時はとても力強く加速して、決して玩具の延長ではなく、モビリティとして高い性能を持っています。
この電動バイクにも木が使われていて、オーナー自ら画を描き、自分だけのデザインにすることで愛着も湧くようになっています。またスマートフォンの充電もできて大変便利です。
生駒さんは、プロトタイプからSNSで公開し、意見をもらいながらこの電動バイクをブラッシュアップしてきたそうです。
ゲームでいうベータ版のような感覚で、ユーザーに改善点やアイデアをもらったり、バグをみつけてもらったりして、徐々に完成形に近づけていきました。
すでに発売前からアクティブなファンも増え、みんなの思いをどのように形にするか、生駒さんもうれしい悩みが増えていることでしょう。
こうして公道を走行可能な電動カートと電動バイクに触れ、やはり自分の思うままに自由に移動でき、その運転自体もワクワクする、そんなモビリティが私たちの生活を心豊かにしてくれる、と再認識させてもらいました。
写真:森近延直・寺田昌弘 文:寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
[GAZOO編集部]
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