燃料電池(FC)の大型トラックを今後活かすために変わって欲しいこと・・・寺田昌弘連載コラム
私が参画している水素利活用の企業、「H2&DX社会研究所」がJAXAやトヨタ、川崎重工など、名だたる企業と並んで政府広報センター事業に選ばれ、G7広島サミット会場で国内外メディアへアピールする機会をいただきました。
脱炭素をテーマとした出展が多く、トヨタはFCモジュールやリンナイと共同研究を開始した、水素調理器具の展示(ウーブンシティなどで実証を進める予定)。私が参画するH2&DXは、“水素コンロ”を用いた展示です。
箱根強羅温泉にある高級旅館「円かの杜」は、6月にこの水素コンロを導入。今後、稼働予定で、宿泊者に“二酸化炭素を出さず”に美味しい料理を楽しんでいただけるよう、コンサルティングを進めています。
私たちは、国際メディアセンター内に出展しましたが、隣接の“ひろしまゲートパーク”には、自工会が、自動車業界のカーボンニュートラル達成に向けた取組みを世界に向けて発信するイベント「Diversity in Carbon Neutrality-カーボンニュートラルにも、多様性を。-」を開催していました。イベント会場を観に行くと、各社さまざまな車両を展示していました。
今回は、水素を使った取り組みに参画する私・寺田が、展示されていたFC大型トラックを観て感じたことをお伝えします。
待望のFC大型トラックが登場。これが物流を変える
初代ミライが誕生したとき、これはすごいモビリティだ、と思いました。
水素を充填し、燃料電池(FC)で電気を作り、出てくるのは水、という仕組みに驚いたのを覚えています。同時に、水素ステーションが増えていくためには、水素をたくさん使うモビリティ、大型トラックこそFC化すれば、水素の安定的な需要が高まり、荷物だけでなく私たちを乗せて水素社会へ連れて行ってくれるのでは、と考えていました。
今回、Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)は、FC大型トラック・FC小型トラックなど展示。このFC大型トラックこそ、水素社会に向けた動脈的存在になると思います。
大容量水素タンクを6本装備(ヘッドと荷室との間に横向きに2本。左右荷室下に2本ずつ)し、最大約50kgの水素充填が可能です(現行モデルのミライは5.6kgなので約9台分)。
航続距離は約600kmと、東京→大阪間が約500kmなので、大都市の行き来は想定の範囲内の設計になっています。多少、荷室長が短くなりますが、見た感じ大差ないでしょう。
それ以上にCO2を排出しないことや、従来のディーゼルエンジンと違ってエンジン音や排気音、振動がなくなるので、ドライバーにも荷物にも極めてやさしいモビリティになるという大きなメリットがあります。
私はこのFC大型トラックに期待していますが、現状から変化しないといけない点が2つあると考えています。
1つは水素ステーション。2024年、FC大型トラックをメインにした大型水素ステーションが、福島県本宮市と東京の京浜島に開業予定ですが、やはり、東京⇔愛知⇔大阪の東名阪ルートにも大型水素ステーションが早くできると良いです。
現在、東名高速・足柄サービスエリアに、FC大型トラックも充填できる水素ステーションが建設中で、完成を楽しみにしています。この場所は、もともとLPガスステーションがあった場所で、LPガス車利用が少ないので転換はしやすいと考えられます。
また中央自動車道では来年春にオアシス小牧が新たに誕生し、敷地内のガソリンスタンドに水素ステーションが併設される予定です。
しかし、その他のサービスエリア、パーキングエリアで既設のガソリンスタンドを無くすわけにはいかず、新たに水素ステーションを作るのは難しいのが現状です。
FC大型トラックの出発・到着地点に、大型水素ステーションがあれば良いように思えますが、水素充填に集中して渋滞が発生する可能性があります。個人的には、高速道路の200kmおきくらいに大型水素ステーションを作り、FC大型トラックをGPSで管理しながらAIで調整し、充填渋滞が起きないシステムで運用できれば、円滑な物流が実現できると考えています。
そしてもう一つは充填方法。このFC大型トラックは2ヶ所同時に充填可能になっています。また水素ステーション側も2本同時に充填可能な高圧水素ディスペンサーを開発しています。
しかし、現在の法律では、2ヶ所同時に充填することが不可能の為、法改正が必要となります。2ヶ所同時に充填できればFC大型トラックの50kgタンクに約10分程度で充填完了とのことなので、すぐにでも改正していただきたいところです。
東京都では、2025年度中に約50台のFC大型トラックを導入し、関西⇔関東⇔東北で活用する予定です。FC小型トラックについては既に190台導入し、都内で走り始めています。ここで実績を積み上げて、FC大型トラックを早く普及させることが、脱炭素はもちろん、トラックドライバーの労働環境改善につながる為、期待しています。
トヨタ博物館で観た不思議なトラックの正体
G7広島サミットから帰り、今度はトヨタ博物館に行きました。ちょうど「トランスポーターズ 日本の輸送を支え続けているモビリティ」の企画展が開催されており、商用車が展示されていました。
その一番前に展示されていたのが「トヨタBM型トラック(1950年)」。ただ荷台にシルバーの見慣れない装置が搭載され、何だろうと思ったら「薪ガス発生装置」でした。
戦中、戦後のガソリン不足のなか、なんとか物流を止めないために、薪を不完全燃焼させてガスを発生させ、エンジンに送って燃焼させる装置が考えられました。
この装置は「石油代用燃料使用装置」と呼ばれ、当時のガソリン不足を少しでも補うために開発された装置のため、煙は出るし、パワー不足でもありましたが、その時代の環境に合わせたものです。
広島で観たFC大型トラックは、モビリティのカーボンニュートラルを目指す現在、薪ではなく水素を使い、FCで電気を生んでモーターを回し、出てくるのは水、パワーも十分。いわば、これからの環境を見据えた「石油代用装置」です。
70年以上前に、苦しい環境のなか人々の生活を支えてくれたトヨタBM型トラックに感謝しつつ、FC大型トラックが切り拓くカーボンニュートラルの世界の実現が楽しみです。
FC大型トラックがたくさん水素を使って需要が増えれば、経済産業省が2030年に水素の価格を現在の1/3にするとの発表に現実味が増し、ミライに乗っている私たちも安く水素充填ができるようになります。
水素ステーションが増えれば、FCEVももっと身近になり、水素エンジン車の市販化もみえてきます。FC大型トラックが高速道路を走っている姿を早く見てみたいものです。
(写真・文:寺田昌弘、 編集:GAZOO編集部)
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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