強靭なのは当たり前。どうして、ランドクルーザー250はかっこよくなれたのか・・・寺田昌弘連載コラム

ランドクルーザー72周年を迎えた翌日の8月2日に新たなランドクルーザーのワールドプレミアが開催されました。

歴代のランドクルーザーが展示され、その中央に現れたのが「ランドクルーザー250」、そして「ランドクルーザー70」です。「ランドクルーザー300」の誕生から2年が経ち、新たなランドクルーザーシリーズの冒険の扉が開かれたのです。

「The LAND CRUISER.」それが250の存在

  • ワールドプレミアされたランドクルーザー250(プロトタイプ)

発表のタイミングとしては150系プラドのフルモデルチェンジかもしれませんが、250はランドクルーザーシリーズでグローバル販売台数の最も多い150系プラドに変わる、新たなランドクルーザーの中核的存在になるモデルなのだと思います。

開発にあたり豊田章男社長(当時)が基本的な考えを開発陣に提示したそうです。
「ランクルは人々の生活、地域社会を支えるためのクルマであるべきで、より多くの人の生活を支えるライトデューティーモデルは、お客様が求める本来の姿に戻す必要がある」

この言葉により、開発陣は、これからのランドクルーザーの進むべき道のスタート地点に立つため、原点回帰で一から作り上げました。

サイズは全長4,925mm、全幅1,980mm、全高1,870mm(プロトタイプ)、300のZXと比較すると、全長が60mm、全高は55mmとコンパクトですが、全幅は同じです。

300と同じGA-Fプラットフォームを採用しているので全幅とホイールベースは同様ですが、250はボディサイドが絞られ、スクエアでありながらグラマラスなスタイリングです。

世界の仕向地に合わせ、5つのパワートレーンをラインナップ。最も注目すべきはランドクルーザーシリーズ初となる“ハイブリッドモデル”です。

クラウンなどに搭載されている2.4リッターガソリンターボハイブリッド「T24A-FTS」をベースに、250に合わせて半分近い部品を新開発し、8速AT(Direct Shift-8AT)と組み合わせています。そのため、市街地や高速道路での上質な走り、そしてオフロードではモーターならではのクイックでトルクフルな走りを両立させていることが容易に想像できます。

残念ながら日本での発売はなく、北米・中国モデルに搭載予定です。このハイブリッドではない2.4リッターガソリンターボもラインアップされています。

日本では2.8リッターディーゼルターボ「1GD-FTV」8速AT(Direct Shift-8AT)と2.7リッターガソリン「2TR-FE」6速AT(Super-ECT)の2タイプがラインアップされました。

さらに「1GD-FTV」に48Vシステムを搭載した、マイルドハイブリッドとなるモデルもオーストラリア、西欧向けにラインアップされています。。

悪路走破性の高さは、300で実証されているプラットフォームとサスペンションから予想できますし、「1GD-FTV」ディーゼルターボは150系プラドでそのよさを体感しています。これらが250のために一から見直されているということは、もはやライバルは150系プラドではなく、300だと思います。

そして、すごくかっこいいスタイリング! このかっこよさはどこから来るのだろうと思っていたら、ワールドプレミアでプレゼンテーションを行ったChief Branding Officerのサイモン・ハンフリーズさん自身が、長年ランドクルーザーに乗るオーナーなんです。

そして、プロジェクトチーフデザイナーの渡辺義人さんも幼い頃、父親の愛車が60で、家族との思い出を作った大切な相棒だったそうで、仕事の枠を超えて、ランドクルーザーが人生の一部である方々がこのデザイン、存在感そのものを作り上げたからこそ、その思いが伝わってくるのでしょう。

私も、現在の愛車150系プラドを250に乗り換えます。

  • スケールモデルでイメージを具現化していく

ランドクルーザー70が国内レギュラー販売。新車で70に乗れる喜び

  • 誕生から72年、世界170の国と地域で販売累計数1,130万台と愛され続けている歴代のランドクルーザー

以前、「日本で生産している70がなぜ日本で販売していないんだ?」とオーストラリアのランクル仲間から言われたことがあります。期間限定で国内販売されたこともありましたが、70の新車は海外でしか見られないのかと思っていました。

そこへ国内継続販売として70がラインアップ。しかもフロント周りのデザインが新しくなっての登場です。

70が世界で愛される理由は、強靭なだけでなく、誕生以来、本質的な部分が変わっていないことなんです。例えば、アフリカなど部品供給がままならないエリアでは、動かなくなった70から使える部品を外して、自分の70につけて乗り続けることは日常です。

90年代に私がサハラ砂漠でNPO医療支援活動をしていたとき、そこに暮らす人々の命を支える救急車が古くなっていたため、日本から新車の70救急車を現地医療機関に寄贈しました。

そのとき現地の人々は喜びながら、この新車の70救急車から部品を外して今乗っている古い70救急車を修理できると言っていました。その感覚に驚き、“明日から、この新車の70救急車を使い、今まで乗ってきた70救急車を部品取り車にして下さいね”と伝えたくらいです。

また1998年のパリダカールラリーに70で参戦したとき、操舵系部品が壊れてスペアパーツを持っていなかったのですが、現地の70から部品を外して組付け、クラス優勝できました。このように、70は変わらないことによって不変の英雄でもあるんです。

しかし、生き物が環境に適応して変化してきたように、クルマ業界、そして車そのものも意図的に進化をしていかねばなりません。排ガス規制や安全装備の取付け義務など、70は生き延びるために進化をしています。これはそこに暮らす人々の生活を支え続けるために必要です。

ダーウィンの進化論で知られるイギリスの自然科学者、チャールズ・ロバート・ダーウィンが書いた「種の起源」のなかに、「生き残る種とは、最も強いものでも最も賢いものでもなく、最も変化に適応したものだ」とあります。

70の開発エンジニアのみなさんが70をこの変化に適応させてくれるおかげで、こうしてまた日本でも70が新車で乗れるようになります。

今回のワールドプレミアで新たな250、70が発表され、300とともに新たなランドクルーザーシリーズが誕生しました。ここから新たなランドクルーザーファンが世界中に増え、その方々がオーナーになったとき、どんな夢を乗せて走るのか、今から楽しみです。

文:寺田昌弘 写真:トヨタ自動車

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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