ダカールラリーは難易度を増し、新時代への扉を開けた・・・寺田昌弘連載コラム
今年で46回目を迎えたダカールラリーが1月5日~19日にかけ、サウジアラビアで開催されました。
サウジアラビアで5年目を迎えるダカールラリーは、回を追うごとに過酷さを増し、よりタフで純粋なモータースポーツになっていました。
参加台数は340台。2輪部門はバイク132台、クワッド(4輪バイク)10台、4輪部門は総合優勝を狙うアルティメットクラス(改造四輪)70台、ストッククラス(市販車)3台。
小型バギーはチャレンジャークラス(改造小型バギー)42台、SSVクラス(市販小型バギー)36台。トラックは47台の参加。
その数多くの車両が総走行距離7,891km(競技区間4,727km)を走り、ゴールにたどり着いたのは239台(規定時間内に走破したのは182台)で、完走率は約70%でした。
総合優勝は、Audi RS Q e-tronのカルロス・サインツ/ルーカス クルス組。電気駆動システムを搭載したマシンで優勝した最初のメーカーとなりました。今回のダカールはルートもマシンも進化していました。
4輪部門は新たなカテゴリーでヒエラルキーが明確に
私が参戦し始めたサハラ砂漠を舞台とした1997年パリ・ダカールラリーでは、三菱や欧州メーカーの総合優勝争いが注目されていました。しかし、私が参戦した市販車無改造クラスはプライベーターが多く、このクラスは冒険色が濃くて、順位より日々生き抜くことを楽しむエントラントが多かったです。
年々ワークスマシンの性能が高まり、それに対応するように競技区間の難易度が増していきました。徐々に市販車では、車速を落とさないためにバンパーを敢えてぶつけて走らなければ越えられない砂丘や段差のルートが増え、市販車をベースとした改造車も含め、参戦台数が減ってきたのです。
逆にワークスマシンは毎年アップデートされるため、過去モデルをレンタルする仕組みで年々台数も増えて充実してきました。また、走破性の高いプロトタイプバギーのコンストラクターも台数を増やし、レンタルシステムを拡充。
さらに2017年大会からSSV(小型バギー)クラスができ、軽量・小型で砂丘やガレ場を走るために生まれたSSVが、年々ロングステージに対応しながらダカールラリーにマッチしているので、さらにルートの過酷さが増していきました。
よりエクストリームで純粋なモータースポーツとなり、エントラントは生き抜く叡智より、アスリートとしてドライビングからナビゲーション、メンテナンスまで高い技術力が求められます。
このような中で、市販車クラスで参戦し、11連覇を達成したチームランドクルーザー・トヨタオートボデーの2台のランドクルーザー300GR SPORTと、地元プライベーターの日産パトロールは完走しました。これは、市販車としての信頼性・耐久性・悪路走破性の高さを選手・チーム力とともに証明した凄い功績です。
過去にSSVで活躍していたセス・キンテロ選手がTGRドライバーとなり、ギョーム・ド・メビウス選手もハイラックスでOverdrive Racingからエントリー。
昔は市販車クラス、2輪で総合優勝した選手やWRCで活躍した選手がトップカテゴリードライバーになることが多かったですが、今後はSSVクラスで優勝したドライバーが4輪部門のベテラン コドライバーとコンビを組んで参戦するヒエラルキーになるのではと思います。
WRCに続き、ダカールでもTGR vs M-SPORT Fordが観られる?
今回新たに参戦したマシンで気になったのが、トップカテゴリーに参戦したフォード・レンジャー。
今までフォードは、チェコのマルティン・プロコップ選手がフォード・ラプターで参戦していました。そのマシンは自国チューナーが製作していましたが、今回ナニ・ロマ選手が乗るフォード・レンジャーはM-SPORTとフォードパフォーマンスで、WRC同様に製作されます。
今回はデータ取りのための参戦で、本格的には2025年大会からを予定していますが、フォードにとってはレンジャー、ラプターともにピックアップトラックとしてビジネスで大切なブランド。WRCのフォード・ピューマよりダカールのトップカテゴリーで走ることは、ある意味、市販車のマーケティングに重要なことだと思います。
また、現在トップカテゴリーで参戦するハンターを製作しているのは、かつてWRCで名を馳せたプロドライブ。
2025年からルーマニアのダチア(ルノーグループ)が、プロドライブ製作マシンで参戦表明し、ドライバーには今大会ハンターで参戦したナサール・アルアティア選手、セバスチャン・ローブ選手などを予定しています。
こうなると2025年大会は、TGR vs M-SPORTフォード、さらにプロドライブ、X-raidとバラエティーに富んだマシンによるトップ争いが楽しめそうです。
2輪部門はHRCとKTMを脅かすインドと中国メーカーが躍進
2輪は、昔のいわゆるパリ・ダカ時代では、ホンダ、ヤマハ、BMW、カジバが活躍し、その後KTMがトップに君臨。再びHRCが王者奪還に挑み、KTMと同じグループのハスクバーナやGASGASも参戦し、トップでゴールするメーカーが毎日変わるほど、観ていておもしろい部門です。
今回すごかったのは、インドのHeroが総合2位入賞、中国のKOVEも完走したことです。来年は今までトップに君臨し続けている日本、欧州メーカーをインドと中国メーカーが追いかけ、ハイレベルな競い合いが観られそうです。
新たな冒険の扉を開いた「Mission1000」
環境負荷を抑えたモータースポーツへの挑戦。Mission1000という新たな挑戦は、電力100%、水素活用100%、バイオフューエルを使用したハイブリッドの動力を用いたモビリティによる技術開発を行うカテゴリーで、今大会から始まりました。
FCEVトラックや電動バイク、ハイブリッドのピックアップなどがエントリーしていました。
日本からは、カワサキモータース、川崎重工業、スズキ、本田技研工業、ヤマハ発動機、トヨタ自動車で結成されたHySEが、小型モビリティ用水素エンジンの基盤技術構築の加速化とグローバルな仲間づくりのために水素エンジン小型バギー「HySE-X1」で参戦しました。(※HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology/技術研究組合 水素小型モビリティ・エンジン研究組合)
このカテゴリーは、速く走るのではなく、搭載したエネルギーをいかに効率的に、ラフなルートを乗り越えながら走行距離を伸ばすかがカギになります。また走行モード(エコ・ノーマル・スポーツ)によってもポイントが加点・減点されます。
SNSで観ているファンからの投票でポイントがもらえるユニークなシステムもあり、私はもちろんHySE-X1に投票しました。
今大会は10台が参戦し、HySE-X1は4位でしたが、順位より大切なのは毎日取ったデータ。主催者から「自分達で世界を変えられると思うほどクレイジーなやつら」と最高の賛辞をもらい、新たな冒険の扉を開けた10台のマシンとチーム。
次の大会ではもっと効率を上げ、オフロードモータースポーツに新たな轍をつけ、道を切り拓いてくれるのが今から楽しみです。
文:寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
[GAZOO編集部]
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