EV-GPにミライで参戦。そこで得たものとは・・・寺田昌弘連載コラム
先日、日本初開催となったFormula-Eのコースをトヨタ・ミライでパレードランして満足していたら、再びミライに乗って走れる機会をいただきました。それもALL JAPAN EV-GP SERIES第3戦 全日本 袖ヶ浦EV 55 kmレース大会に参戦です。
今回も飯田章選手からお誘いいただき、大学生の大久保龍成さんと2台体制で袖ヶ浦フォレストレースウェイを走ってきました。
仕様の異なる2台のミライで参戦
EV-GPは、今年で設立15年目を迎える日本電気自動車レース協会(JEVRA)が主催するレース。モーター駆動の車両でテスラやHonda-eのようなBEV、ミライのようなFCEV、日産NOTEやAURAのe-POWERような発電をエンジンで行う車両で競われます。
AKIRA Racingの代表兼ドライバーの飯田章さんといえば、全日本GT選手権、SUPER GTで大活躍し、ル・マン24時間レースでクラス優勝、開発ドライバーとして関わったLEXUS LFAでニュルブルクリンク市販車世界最速記録(当時)を樹立し、ニュルブルクリンク24時間レースでもクラス優勝と世界で活躍してきました。
現在はレーシングドライバーとして活躍しながら、FIAではDriftingコミッションプレジデント、JAFではJAFモータースポーツ レース部会 部会長として、世界のレースでの経験を活かし、モータースポーツ振興に貢献しています。
モータースポーツをドライバーも観客もよりエキサイティングに、より安全に楽しめ、持続的に盛り上がるよう挑んでいます。
昨年JAF表彰式に参加していたときに大学年間チャンピオンだった自動車部の大久保さんらと出会い、モータースポーツの現場を観てもらおうとスーパー耐久シリーズへ招待。
レースの現場で水素エンジンやCNF(カーボンニュートラル燃料)などこれからの可能性に挑む技術、チームの熱意に触れてもらう活動をしています。
そこで今度は、飯田さん自らがステアリングを握って参戦しているEV-GPのミライのシートを大久保さんに譲り、観るだけでなく体感してもらおうという、すばらしい機会を作ってくれました。
予選は川や水溜まりがあるほどのウェットに苦戦
私は袖ヶ浦フォレストレースウェイを走ったことがなく、事前にコース解説をしているYouTubeを観る程度で、ほぼぶっつけ本番です。さらに天気予報が外れ、路面はウェット、しかも川どころか水溜まりまでできているコンディションです。
オフロードであれば、お構いなしにアタックするのですが、どこまでタイヤがグリップするのか、試しながらの予選になりました。
1周してコースレイアウトやコンディションを確認してから少しずつペースを上げていったら、目の前でHonda eがコースアウトしてびっくり。赤旗中断となり、再スタートして、今度はベテランドライバーの後ろを追走してラインとペースをつかもうとしたら1コーナー出口で先行する日産リーフe+がスリップして真横を向いて目の前に迫ってきたりと、サーキット慣れしていない私にとっては驚きの連続です。
結局、委縮したまま予選が終わり、7位/13台。走行データを見せていただいたのですが、コーナーの立ち上がりでアクセルを一気に踏みすぎていて、これではバッテリーからの電力を一気に消耗してしまうと教えてもらいました。
確かに以前、1回の水素充填で1,040.5kmの世界記録(当時)をモータージャーナリストの方々と樹立したときは、ミリ単位でアクセルを調整していたのでうなずけます。サーキットを走るだけで緊張以上に興奮していたようです。
モーター駆動による静かで熱い戦い
決勝は55km、23周。天気が一気に回復し、路面はほぼドライになって、それだけでも助かります。
私が乗ったミライは、今回が初参戦となる軽量化とバッテリーの冷却強化したミライです。ボンネットをカーボンにしたり、フロントからエアーを取り入れやすくしているのがわかります。おそらくこのマシンでさらにデータを取り、改良を重ねながら、FCEVでさらに上位を狙っていくと思います。
そんな大事なマシンの初戦ですので、とにかく自分のミスでリタイヤすることがないよう細心の注意を払います。
AKIRA Racingをサポートしているトヨタ自動車 水素基盤開発部は、マルチパスウェイ戦略のなかで主にFCEVのさらなる可能性を追求している部署。
FCEVといえば、CO2を出さずに走り、CO2を出さずに給電できると環境性能が注目されがちですが、現行モデルのミライはプラットフォームの剛性が高く、重量バランスもいいので走りのよさは乗ればすぐわかります。この素性のよさをベースにさらに運動性能を高めるには、モータースポーツが最も適したステージです。
予選から決勝まで約4時間あり、その間にBEV勢は急速充電をしていきますが、私たちFCEVは何もする必要がありません。
今回ミライで初めてレースするので、決勝スタート前にエンジニアの方々に走らせ方を教えていただいたのですが、ただやみくもにアタックし続けても、回生エネルギーで駆動用バッテリーに充電しなければ、加速時のアシストが得られず、かえって速く走れないと。
あとは走りながら考えようと思ってグリッドに並び、決勝スタートしました。
オープニングラップは、シリーズで参戦している選手のうまさに飲まれながらも順位を一つ落とすだけで済み、2周目は抜き返して7位に戻します。3周目で6位に上げて、その後順位が落ち着いてきたので、このあたりでPOWERモードからNORMALモードにしてバッテリーからのアシストを丁寧に使用していきます。
するとBEV勢が迫ってきて抜かれ、順位を落としていきます。もう1台のミライに乗る大久保さんもおそらく同様にNORMALモードにしているようで、9周目に追い抜いてBEV勢を追いかけます。
ところが追いつかないどころか、BEV勢のペースが上がって苦戦を強いられます。どうやらBEV勢は、前半でバッテリーの消費量を確認しながら走り、ゴールまでバッテリーが持つ計算ができたところからアタックしてきたようです。
ミライには温度管理モニターが設置してあり、あまり説明を理解しないまま走っていたのですが、モニターが赤に点灯するので、不安になり赤い点灯が消えるまでペースを落としてみます。コーナー進入時もあまり突っ込まず、ブレーキを薄く引き釣りながら回生時間を稼ぎます。
このままではペースが落ちるばかりなので、残り数周となったところで、NORMALモードのまま行けるところまでアタックしていきます。
ただトップには2 Lapされていることを計算に入れるのを忘れ、アタックも2周でフィニッシュ。目標としていた5位から9秒遅れの9位でした。
ミライでの初レースでしたが、一番驚いたのは、ミライのコーナリング性能の高さです。ストレートではモーター出力の高いBEVには負けますが、それをコーナリングで詰めていけるので、走っていてワクワクします。ミライの素性のよさを飯田章さんがセットを出したサスペンションセッティングでさらに高めてあるのでコーナリングが楽しいマシンになっています。
今回はスポット参戦で、状況把握しないままほぼNORMALモードで走ってしまいましたが、それでもFCEVでのレースにとても可能性を感じました。また乗れる機会があれば、今度はもっとミライをもっと理解しながらレースがしてみたいです。
写真:AKIRA Racing/文:寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。
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