トヨタ・ミライ誕生10周年を迎え、オーナーとして感じたこと・・・寺田昌弘 連載コラム


トヨタのFCEVを初めて見たのは確か2002年の冬。国土交通省より燃料電池ハイブリッド乗用車「トヨタFCHV」の大臣認定を取得して、限定発売前に開催された行政、報道向けの発表会でした。

私は1999年からプリウスをメインカーに北米大陸を横断したり、欧州8カ国巡ったりしながら、エココンシャスなヒト、コト、モノに出会う環境体感の旅をしていました。企画したのはTeam ACPの横田紀一郎さんとモータージャーナリストの故・渡辺靖彰さん。

1997年に誕生したプリウスを横田さん、渡辺さんは「21世紀は必ずハイブリッドカーが世界を席巻する」とおっしゃり、確かにプリウスとともに北米や欧州を巡りながら出会う方々にプリウスを紹介すると、みなこれはまったく新しいクルマだと驚いてくれました。

今やモビリティの王道となったHEV、そこから派生したPHEVを四半世紀前から見えていた横田さんと渡辺さんの先見の明に驚きながらも、そのもとでモビリティの進化を見て体験してきたことが今に活きています。

この「トヨタFCHV」発表会もお二人のおかげで出席でき、その後、私がクルーガーハイブリッドに乗っていた際に、クルーガーのボディに載せたFCユニットを見て、これがモビリティの未来のひとつなんだとワクワクしたことを今も覚えています。

トヨタFCHVを観てから12年後にミライが誕生

それから12年が経ち、2014年12月15日にミライが発売されました。水素と大気中の酸素を反応させて発電し、出るのは水だけ。内燃機関ではないので排気ガスがなく、駅伝やマラソンの先導車にぴったりだと思いましたが、近くに水素ステーションもないし、まずは官公庁などが乗り始めてくれるのかなと、私自身はまだ身近に感じなかったです。

ただミライが自分事になってきたのは2つの出来事のおかげです。

まず東京オリンピック・パラリンピック開催。地元江東区で全競技の半分近くが開催されることもあり、ENEOS、IWATANI、東京ガス、巴商会と次々と水素ステーションが開業し始めたこと。

そして、長年懇意にしているヘアメイクさんから「SUGIZOさんが相談したいことがある」と、LUNA SEA、X JAPANのギタリストのSUGIZOさんを紹介していただき、エンターテインメント業界でさらにカーボンニュートラルを目指していきたいとの思いを伺い、この2つの出来事があったおかげでミライに乗るようになりました。

やはり自分で乗っていないと、水素利活用について気づけないことがあるし、現場で体感したことでなにかひらめきが起きるのではと。

ミライで約2万km、水素換算で約200kg消費(というか酸素とくっつけて水になっただけですが)して気づいたのは、CO2を出していないという清々しさと静粛性の高さが今まで乗ってきたクルマと大きく異なること。

遠方でよく行く仙台市や豊田市は、東京からともに約350kmで着いたら水素充填すればいいだけなので、事前にどこの水素ステーションに行くか決めていればなんら問題なく移動の足になってくれます。
自分が乗っているバイクは200kmで給油しなければならないので、バイクでツーリングするより気にならない感じです。

それよりSUGIZOさんのおかげでライブの楽器への給電をミライからするようになり、電動車ならではの楽しみも実感できています。

さらに音がよくなるのにも驚きました。
確かに遠い発電所から運ばれてくる電気やディーゼル発電による給電車は、電気そのものにノイズがのっていたり、同じ電源から取っているほかの機器が一気に電気を使うと、電圧が微妙にさがったりして音に影響がでます。

このミライから楽器への給電はいわば「源泉かけながし電源」。
発電場所と楽器が近く、とてもクリアな音で、かつほかの機器の影響を受けないので、アーティストの方々にとても喜ばれています。

このオフグリッドの発電は、災害時にも地元で役に立つと思い、可搬型給電器も購入し、なにかあれば最大9,000Wまで出力できるようにしました。

2年間、ミライに乗って思ったこと

ミライに乗って水素モビリティ社会を体感しているうちに気づいたのは、日本ではやはりまず商用車が広がってくれることだと思います。

大型FCトラックも国内は4台あるそうですが、小型FCトラックが増えてくれることを期待しています。すでにパッカー車(ゴミ収集車)が福岡などで活躍しているのは観てきましたが、できたらこの3トン車ベースではなく2トン車ベースの平ボディが希望です。

みなさんの町でも資源回収の小型トラックが週に1度はきてくれると思いますが、市、区でみれば毎日どこかの町の資源回収をしていて、江東区では約50台あり、しかも古紙集積場の目の前がENEOSの水素ステーションがあるんです。

私の暮らす下町は道が狭く、また湾岸タワーマンションでは地下駐車場付近に回収場所があったりと2トン車であれば機動性もよく、現状のディーゼル車から切り替えやすいと思います。

2トン車だと水素タンクのレイアウトが難しいと聞きますが、確かにリヤ駆動であればプロペラシャフトのほうがコストが抑えられると思うのですが、eアクスルにしてケーブルでFCユニットとつなげばプロペラシャフトがあった位置に水素タンクが縦に入るのではと素人ながら思っています。

そして東京⇔大阪に200km以内ごとに水素ステーションを作り、充填渋滞が起こりにくくなるようトラックの位置情報や水素残量を確認しながら、水素ステーションへ誘導してくれればよいのではと思います。

またディーゼル車と異なり、振動も少なく静粛性が高いFCトラックであれば運転での疲労も軽減できます。こうして物流業界で水素を毎日使用する量が見えてくれば、計画的な水素生産ができ、コストも下げられるのではと。

そうすれば乗用車で水素を使う私たちもリーズナブルに、そしていろんな場所で水素充填できる社会ができるのではと思います。初代ミライはトランクが大きく、使いやすいサイズですが、やはり現行モデルのFRで5人乗りに魅力も感じます。

ミライ誕生から10年が経ち、オーナーであるみなさんとともに祝いながら、これからの水素社会のこれからをミライに乗り続けながら考えていきたいと思います。

  • 市販車ベースのレーシングミライでFormula EのコースやEV-GPを走ったのはいい体験だった

  • 数々のライブで楽器電源をミライから給電してきた

  • コンパクトな水素ステーションが全国のディーラーでできれば、ミライオーナーも安心できる

写真/文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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