今年もトヨタ・ミライで「Eco Car Cup」に参戦。そこで気づいたタイヤの大切さ・・・寺田昌弘連載コラム
昨年初参戦した「Eco Car Cup」に今年も体験取材を兼ねて1スティントだけ走ってきました。マイカーのトヨタ・ミライでの参戦も考えたのですが、今回は以前EV-GPでドライブさせていただいた飯田章選手のミライで、トヨタの水素ファクトリーのエンジニアチームに加えていただきました。
またミライ、クラウン、センチュリーのチーフエンジニアの清水竜太郎さんがミライの製品企画ZSエンジニアとともに参戦。さらにトヨタイムズのスタッフが取材ではなく実体験するためにチームを組んで参戦。FCEVクラスはほかに三重トヨタのディーラーチームもあり、4台のミライが3時間で燃費(電費)と3分15秒のターゲットラップタイムにいかに近いタイム(それより速く走ると減点)で走れるかを競う「Challenge180」にエントリー。
FCEVもICE、HEVなどと同様にエネルギー消費の係数が認められ、前回は参考出走でしたが、今回から総合順位に反映されます。パワーユニットや車種の違いによって走りが変わりますが、今回はタイヤの性能が走りに大きく影響したことを体験しました。
ふだんEV-GPに参戦しているこのミライは、パワーユニットは純正のままで、サスペンションとタイヤをよりサーキットを走りやすくするために変えています。仕様としては86/BRZ Raceのような感じです。以前、EV-GPに参戦したときは、コーナリング性能の高さに驚きましたが、エネルギー消費については走行距離も短かったので気にしていませんでした。
先日、スーパー耐久レースのイベント広場でミライオーナーと給電活動をしていたときに、このミライは展示のみだったので、会場とホテルのスタッフ移動車として乗っていたのですが、一般道を普通に走っていても水素の減りが自分のミライより早いなと感じていました。純正サイズよりトレッドがワイドだから接地面が広く、かつハイグリップなので加減速時の反応がよいかわりに、転がり抵抗が強くなります。
またミライはPHEV、HEVと異なり、バッテリー容量が小さいので減速時の回生ブレーキによる充電も多くは期待できません。そうなると今回のミライでより効率的に走るには、いかにブレーキを踏まず、ストレートでの車速からコーナー進入時の車速に合わせるために、どこでアクセルオフにするか、そしてハイグリップタイヤの性能を信じてコーナーでもスピードを落とさず抜けていくかがカギになります。本来のサーキット走行とは異なりますが、エネルギーをいかに効率的に使うか、考えながら走ります。
車種、チームの戦略によって走りが異なるEco Car Cup
私は予選を走らず撮影に行き、ピットに帰ってきたら予選40位と聞き、全体の中盤くらいでまずまずのスタート位置で一安心。
「Eco Car Cup」の「Challenge180」は、一台でも多く抜いていくレースではなく、全車3分15秒のターゲットラップタイムに合わせて走るので、もちろんその精度が高い予選上位のグリッドにいたほうが前後のクルマもうまくタイムを合わせてくるので走りやすいかもしれませんが、5回のピットインが義務付けられているのでタイミングによってまわりのクルマが変わってきたり、ドライバーも変わるので大きなハンデにはなりません。
ピットインが5回ということで私たちのチームは30分に1回入るようにしてレースがスタート。スタートはまた撮影に行き、30分ほど経ってから第2スティントのパッセンジャーとしてミライに乗り込みコースイン。コーナーや看板など基準になるところで通過想定タイムと実際のタイムのずれをドライバーに伝えていきながら自分がドライビングするときのイメージをつかんでいきます。
そして30分が過ぎ、ドライバーとして、じわっとアクセルをやさしく踏み込みながらコースイン。1周目は一年ぶりの感覚を取り戻しつつ、水素消費量のインジケーターをみながら効率のいいアクセルワークを見つけていきます。
ホームストレートから第1コーナーは車速も出ていて下りになるので、少しブレーキを踏んでフロントに荷重をかけてステアリングを切ります。ステアリングを小刻みに動かすのもタイヤの抵抗になってしまうため、コーナー出口まで一定の舵角のままコーナリングしていきます。
第2コーナーから下りの転がりを意識しながらアクセルで動力をつけ足していきコカ・コーラコーナーへ。ここでは前を走るICEやHEVが減速しますが、ミライは一瞬アクセルオフでフロントに荷重がかかったときに左に旋回しながらリヤにトラクションをかけてアクセルを踏んでいくので、ICE、HEVを追い抜きグリーンファイト100Rもそのまま引き離す感じです。これはミライのコーナリング性能の高さとともにハイグリップタイヤの横方向へのグリップの高さのおかげでコーナー進入から車速を落とさず走れるからです。
ADVANコーナーはかなり手前でアクセルオフして軽くブレーキングしてきっかけを作ってコーナーに進入。勢いを活かしてアクセルをゆっくり踏み込み300Rを抜けてダンロップコーナーへ。参戦しているドライバーの多くが前半は速めに走り、このあたりから時間調整する感じになるので前を行くクルマが多くなってきます。
その後の第13コーナー、GR Supraコーナー、パナソニックコーナーの上りを電動ならではのトルクを活かしてスムーズに行きたいところですが、前を行くクルマが多くて最適なラインを通れないこともあり、我慢のセクターになります。
こうしてまたホームストレートに戻ってくるとタイム計測地点まで早めにつきそうと思うのですが、早着のペナルティだけは避けたいとアクセルを踏めず、計測地点近くでアクセルを踏み込んで合わそうとしてエネルギー消費ロスをしてしまいます。3分15秒台には何度か入れて走れていましたが、自分の最終ラップで3分15秒193を出し、チーム内では最もターゲットラップタイムに近く走れてなんとか面目を保てました。
久しぶりにミライで走ってみて、あらためてコーナリング性能の高さに感動しながらFRならではの走りを存分に楽しめました。しかし、すべてのラップを15秒台で走れなかったのが悔しく、また機会があったら今度は15秒台フルクオリファイしたいです。
「Eco Car Cup」は高速道路とワインディングを心地よいスピードで走りながらクルマの素性を知れ、タイムマネジメントしながら自分のドライビングに向き合えるユニークなモータースポーツだと再認識しました。ただサーキットを走るだけでなく、各チェックポイントに決められた時間に行くオリエンテーリングのようなゲーム感覚で楽しめるので、サーキットを仲間と走ってみたいかたはぜひ参加してみてください。
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混戦もなくTGRコーナーへ
写真・文/寺田昌弘
ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。







