Eco Car CupをBEVで快走。ヒョンデが提案するBEVの新たな楽しみ方・・・寺田昌弘連載コラム

富士スピードウェイを舞台に毎年2回開催される「Eco Car Cup」。指定された基準タイムに毎周合わせながらエコランをする、速さではなく正確さを楽しむモータースポーツです。

「Challenge 180」と「Enjoy 60」と2種類のレースがあり、「Challenge 180」は180分のレースで3分15秒のラップタイム(それよりも速く走ってしまうと減点)にできるだけ合わせ、周回数は50周、ピットに5回入る規定で走ります。「Enjoy 60」は60分のレースで4分45秒のラップタイムにできるだけ合わせ、エコランに集中できます。

参戦車は小排気量ガソリンエンジン車とHEVが多く、FCEVも4台いますがBEVカテゴリーはありません。そして今回、ヒョンデのBEVが参考出走ながら初参戦、しかも参加者はヒョンデモビリティジャパン(以降HMJ)の社員だったので、興味津々で話を聞きに行きました。

  • 14名のHMJスタッフでBEVの新たな楽しみ方に挑む

BEVの楽しみ方のひとつとしてファンレースに参戦

グローバルグループ販売でトヨタ、フォルクスワーゲンに次いで、傘下のKIAを含め世界3位のヒョンデ。海外でレンタカーを借りようとするとヒョンデが多かったり、アルゼンチンでは議員会館前にブラックのヒョンデばかり停まっていたのを見て、モビリティ業界のビッグスリーになっているのを海外で実感します。
現在日本国内で5車種のBEVと1車種のFCEVを販売し、BEVオーナーも着実に増えてきています。今回、監督兼ドライバー、パッセンジャーとして参戦したHMJマーケティング・コミュニケーションチームの澤村さんに経緯を伺いました。

澤村さん:「EVのオーナーさんはたくさんいらっしゃるのですが、こういったレースという形で楽しめる場所が少ないのが現状です。Eco Car Cupは未経験の方でも安全に、安心して参加することができるので、今回社員を募って参加させていただきました。まだEco Car CupにはEVカテゴリーはありませんが、富士スピードウェイもEVの参加を広げていきたいという思いもあったため、今回のレースをきっかけとして、今後もEVの魅力やEVでの走行を楽しめる場所があることを発信していきたいと思っています」

確かにEco Car Cupのタイトル通り、HEVやFCEVだけでなくBEVカテゴリーがあるべきだと私も思います。HMJは参戦するだけでなく大会にも協賛し、このレースを盛り上げようとしているところもとてもすばらしいと思いました。

Eco Car CupをBEVで走ってわかったこと

今回「Challenge 180」にはIONIQ 5 Lounge、「Enjoy 60」にはINSTER Loungeで参戦。「Challenge 180」の予選は、3分15秒に近い順にグリッドが決まります。そこでなんと IONIQ 5 Loungeが3分15秒034と76台中予選トップタイムでフロントグリッドを獲得しました。ドライバーはIONIQ 5の日本仕様開発ドライバーである宮野さん。IONIQ 5を日本の道路環境や使用状況などに合わせ開発する宮野さんのドライビングは、クルマを知り尽くしているのはもちろん、ターゲットタイムに合わせてくる正確なドライビングはさすがです。

バッテリーですが宿泊しているホテルで充電し、富士スピードウェイまで自走して予選を終えた時点で残量は90%。そこから決勝ではエアコンはOFFで送風のみ、シートベンチレーションMAXで走行したので車内はかなり暑かったとか。ただアクセルを少し踏むだけで十分以上のトルクでスムーズな加速ができ、クールな走りで周回を重ねていきました。

私はトヨタ・ミライで参戦していたのですが、自分のスティント以外はプレスとしてコースで撮影していて、わずかな風切り音とともに走り抜けるIONIQ 5は、とても存在感がありました。電力消費は1周あたり1~2%で、ゴールした時のバッテリー残量は24%。帰りに足柄SAなどで充電するのも余裕で行けます。

バッテリー効率を最大化するためEcoモードで、かつi-Pedal(ワンペダルモード)で走行し、開発テストドライバーのバッテリー消費量と遜色ないエコランが社員もできたそうです。

モーターは初期トルクが最大値となるため、アクセルべた踏みの場合、車速が上がるほどバッテリー消費量が多くなります。そこでアクセルをじわっと踏みながら必要以上のトルクを出さないよう加速し、車速も100~110km/h以上にならないようにコントロールしながら目標タイムを目指しました。さらにコーナーでのボトム速度を落としすぎないように走ることで、効率的な走りをしました。

「Enjoy 60」のスタート順はくじ引きで、INSTER Loungeは21番グリッド。こちらのドライバーはサーキットを走ったことがない社員で構成し、IONIQ 5との比較も兼ねてエアコンをONにして走行しました。INSTERやIONIQ 5のオーナーが参戦することを想定した感じです。

INSTER Loungeもバッテリー残量が90%からスタートし、78%でゴール。1周あたり約1%の消費です。この消費量であれば、IONIQ 5でダブルエントリーも可能ではと予測もできます。コース脇で撮影していたときにコンパクトなボディながらオレンジのボディが遠くからでも目に留まり、スタイルも含めとても個性的なクルマだと思いました。

  • INSTERのキュートなスタイリング

そして2台は完走。今回は参考出走のため順位はつきませんが、「Enjoy 60」はもちろん「Challenge 180」でも十分完走できることをヒョンデの2台が証明してくれた功績は大きく、今後BEVの楽しみ方のひとつとして「Eco Car Cup」の可能性が見えました。

今後はピットでの充電など、よりBEVが参加しやすい環境を整え、FCEV同様、HEV、ガソリンエンジンなどとエネルギー消費バランスが取れ、正式参戦できるようになる日が早く来ることを期待します。

【参考データ】
■IONIQ 5 Lounge https://www.hyundai.com/jp/ioniq5/spec
車両販売価格:5,742,000円(税込)
総電力:84.0kWh
一充電走行距離:703km
駆動方式:2WD(後輪駆動)

■INSTER Lounge https://www.hyundai.com/jp/inster/spec
車両販売価格:3,575,000円(税込)
総電力:49.0kWh
一充電走行距離:458km
駆動方式:2WD(前輪駆動)

写真・文:寺田昌弘

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。