AMGは“スポーツカー”のブランドだ!

AMGの名を世間に知らしめたチューニングカー、AMGメルセデス300 SEL 6.8。1971年のスパ・フランコルシャン24時間レースでクラス優勝を遂げた。

泣く子も黙るスポーツブランドとして、圧倒的な知名度を誇るのがAMGだ。今回はその概要について、メルセデス・ベンツ日本のマーケティング・コミュニケーション部AMG課マネージャーを務める上野麻海さんに話を聞いた。

■50年変わらぬ情熱

その名も「AMG課」のマネージャーを務める上野麻海さん。「半世紀がたったいまでも、AMGのモータースポーツに対する情熱は変わっていません」と熱く語る。
その名も「AMG課」のマネージャーを務める上野麻海さん。「半世紀がたったいまでも、AMGのモータースポーツに対する情熱は変わっていません」と熱く語る。

「1967年にダイムラーのエンジニアだったハンス・ヴェルナー・アウフレヒトとエバハルト・メルヒャーがダイムラーを辞して、チューニングエンジンを載せた速いクルマをつくろうと、当時のグリーザスバッハという街で立ちあげたのがAMGです。AMGの名称は、“アウフレヒト”のA、“メルヒャー”のM、“グリーザスバッハ”のGが由来になっています」

ほかのスポーツブランドが自動車メーカーの子会社としてモータースポーツを担うところから始まったのとはまるで異なる生い立ちのAMGである。

「そのAMGがダイムラーに認められるようになったのが、1971年のスパ・フランコルシャン24時間レースでした。彼らがチューニングしたエンジンを載せた“赤い豚”と呼ばれる300 SEL 6.8がクラス優勝したのです。大型セダンがクラス優勝するとは誰も思わなかったのでしょう。AMGの名はヨーロッパ中に知れわたりました。当然メルセデスもAMGのエンジンやテクノロジーに注目します。そして、1993年には共同開発したC 36 AMGを発表。1999年にはダイムラー・クライスラーの子会社になり、2005年からは100%子会社になりました」

たった2人でスタートしたAMGは、いまや4000人以上の従業員を抱え、年間10万台ほどのクルマを販売するブランドに成長している。

「それでも、設立当初の場所で、モータースポーツへの情熱を傾け続けています。そこで培ったテクノロジーを市販車に反映する精神が、50年たったいまでも受け継がれています。AMGが目指すのはスポーツカーブランド。それがモータースポーツの活躍のうえで成り立っていることを、もっと多くの人に知ってほしいですね」

その名も「AMG課」のマネージャーを務める上野麻海さん。「半世紀がたったいまでも、AMGのモータースポーツに対する情熱は変わっていません」と熱く語る。
その名も「AMG課」のマネージャーを務める上野麻海さん。「半世紀がたったいまでも、AMGのモータースポーツに対する情熱は変わっていません」と熱く語る。

■One Man. One Engine.

AMGには、自社開発のAMG GTをはじめ、メルセデス・ベンツの各モデルにおいてトップのパフォーマンスを誇るモデルが多数存在する。といっても、AMGにはクルマの組み立てラインはなく、AMGがつくるのはあくまでエンジンだけだ。

代表的なエンジンラインアップとしては、2リットル4気筒の「45」、4リットルまたは5.5リットル V8の「63」、6リットルV12の「65」が挙げられる。これらはAMGが開発し、「One Man. One Engine.」、すなわち、ひとりのマイスターがひとつのエンジンを、責任を持って組み上げたものである。

一方、「43」モデルにはメルセデスのエンジンをベースにAMGが開発とチューニングを担当した3リットルV6エンジンが搭載される。これらのエンジンが搭載されるメルセデスAMGのモデルは、サスペンションやシャシーに、ほかのメルセデス・ベンツ車とは異なる技術が投入されることによって、よりスポーティな走りを実現する。

これらメルセデスAMGのモデルとは別に、通常のメルセデス・ベンツのモデルでオプション設定されるのが「AMGライン」。AMGデザインのアルミホイールやスタイリングパッケージなどにより、AMGの世界が表現されている。

AMGの高性能エンジンについては、ひとりの職人が1基の組み立てを担当し、その名を記したプレートがエンジンに添えられる。
AMGの高性能エンジンについては、ひとりの職人が1基の組み立てを担当し、その名を記したプレートがエンジンに添えられる。

AMGライン装着車はデザインと走りが合っている

ベースモデルからの変更度合を3段階で評価(中心の青色がベースモデル)
ベースモデルからの変更度合を3段階で評価(中心の青色がベースモデル)

総評:ライターによるメルセデス・ベンツC180 AMGライン装着車の“スポーツモデル度”

  1. エクステリアデザイン
    ★★
  2. インテリアデザイン
  3. コックピット
  4. エンジン+トランスミッション
  5. 乗り心地
  6. ハンドリング
  7. 燃費
  8. 車両価格
    ★★
ベースモデルからの変更度合を3段階で評価(中心の青色がベースモデル)
ベースモデルからの変更度合を3段階で評価(中心の青色がベースモデル)

あとを引くスポーツ性

メルセデス・ベンツCクラスには、伝統のスポーツブランド名を冠したオプション「AMGライン」が用意されている。これにより、内外装や足まわりのテイストはどのように変わるのか。AMGライン付きの特別仕様車であるローレウス エディションを、ベースモデルと乗り比べた。

■AMGのエッセンスを伝えるモデル

実は今年、2017年はAMGにとって創立50周年という記念すべき年であった。もともとはメルセデス・ベンツを専門に扱うレーシングファクトリー/チューナーとしてスタートしたAMGは、メルセデスとの提携関係を経たのちに、1999年、同社の傘下となる。そして今ではメルセデス・ベンツの中でもスポーツ性に特化したサブブランド「メルセデスAMG」へと発展している。

その本領が余すことなく発揮された存在といえば、「AMG 63」シリーズ。例えばCクラスでは「メルセデスAMG C63」がラインアップされている。職人が1基ずつ手作業で組み上げている専用のハイパフォーマンスエンジンが、その最大の特徴。さらに最近では、手組みではないものの専用のエンジンを持ち、シャシーをAMGがセットアップした、より手ごろな「43」シリーズも設定されている。

今回試乗したメルセデス・ベンツのセダン、C180ローレウス エディション(写真左)とC180アバンギャルド(同右)。前者には、エアロパーツやスポーツサスペンションをセットにしたオプション「AMGライン」が含まれる。
今回試乗したメルセデス・ベンツのセダン、C180ローレウス エディション(写真左)とC180アバンギャルド(同右)。前者には、エアロパーツやスポーツサスペンションをセットにしたオプション「AMGライン」が含まれる。

メルセデス・ベンツのレギュラーモデル各車に設定されたAMGラインは、そのエッセンスを最も身近な感覚で味わうことができる存在だといえるだろう。専用の内外装パーツ、サスペンション、タイヤ&ホイールの変更などによる、ちょっとスポーティ仕立てのメルセデス・ベンツである。今回、比較するのはCクラスのベースモデルと、そのAMGライン装着車の2台。「C180アバンギャルド」と、「C180ローレウス エディション」だ。

■C180は「味わい薄め」

まずはC180アバンギャルドから試す。これだってスタイリングはかつてのイメージからすれば驚くほど躍動感があるし、グリップ部分がディンプル加工のレザーとされたステアリングホイール、サイドサポートが合皮のシートなど、室内の雰囲気もやはりスポーティな方向だ。

  • C180ローレウス エディションのコックピット周辺部。ピアノラッカー仕上げのセンターパネルやアルミニウムのパネル類が特徴だ。
    C180ローレウス エディションのコックピット周辺部。ピアノラッカー仕上げのセンターパネルやアルミニウムのパネル類が特徴だ。
  • C180アバンギャルドのインテリアも、センターコンソールやダッシュボードはローレウス エディションと共通の仕立てとなっている。
    C180アバンギャルドのインテリアも、センターコンソールやダッシュボードはローレウス エディションと共通の仕立てとなっている。

では走りっぷりはどうかといえば、基本性能の高さにあらためてうならされる。走る、曲がる、止まるというクルマの基本がいかにもよくできていて、実にストレス無く操ることができる。ステアリングは正確に反応し、1.6リットルターボエンジンは低回転域からトルク感が豊か。普段使いの中では、アクセルペダルを深く踏み込むような場面にはほとんど遭遇することがない。それをスポーティとも言えるが、それよりは、やはり「とてもまっとうな走り」と評したい感触である。

日本では2014年7月にデビューした現行型メルセデス・ベンツCクラス。C180と名付けられた1.6リットルモデルは、当初はC180とC180アバンギャルド(写真)の2本立て。現在はC180とC180ローレウス エディションがラインアップされている。
日本では2014年7月にデビューした現行型メルセデス・ベンツCクラス。C180と名付けられた1.6リットルモデルは、当初はC180とC180アバンギャルド(写真)の2本立て。現在はC180とC180ローレウス エディションがラインアップされている。

強いて言うなら、味わいという概念は全般に薄めだ。無機質というかクールというか、エンジン音は素っ気ないし、ハンドリングもシャキッとはしているけれどコクがない。良くも悪くも道具的な感覚が強いのだ。

それには標準のランフラットタイヤの影響もあるだろう。しっとりと路面をなでていくような感覚はなく、常にコトコトと突き上げられている感じ。路面が平滑ならまだいいが、少しでも荒れていると馬脚を現してしまうのが惜しい。

C180アバンギャルドのエクステリアは、“アバンギャルドデザイン”と呼ばれるフロントバンパーやリヤスカートでドレスアップされている。
C180アバンギャルドのエクステリアは、“アバンギャルドデザイン”と呼ばれるフロントバンパーやリヤスカートでドレスアップされている。

■スポーツサスはむしろ快適

続いてC180ローレウス エディションに乗る。見ての通り、そのルックスは実に巧みに精悍(せいかん)さを高めている。フロントバンパーは開口部を拡大。クロームのリップスポイラーは突き出し量が増え、また全幅いっぱいまでワイド化されている。リヤもやはり全幅を広く見せるデザインで、サイドのスリット、下端のディフューザー形状がストレートにスポーティさを演出する。

C180ローレウス エディション(写真右)とC180アバンギャルド(同左)。フロントまわりでは、バンパーにデザインの違いが見られる。
C180ローレウス エディション(写真右)とC180アバンギャルド(同左)。フロントまわりでは、バンパーにデザインの違いが見られる。

シャシーにはスポーツサスペンションを採用。車高は10mm下げられている。タイヤ&ホイールは、ベース車の17インチに対して18インチ、しかも前後異サイズとされ、さらにフロントにはMercedes-Benzロゴ付きのブレーキキャリパーとドリルドベンチレーテッドディスクも備わる。

そしてインテリアには、いわゆるシンセティックレザー張りとされたレザーARTICOシート、ステンレスペダルなどが専用装備として加わる。センターコンソールにはローレウス エディションのエンブレム入りである。

  • C180ローレウス エディションには、ARTICOと名付けられた合成皮革を用いたスポーツシートが装着される。
    C180ローレウス エディションには、ARTICOと名付けられた合成皮革を用いたスポーツシートが装着される。
  • C180アバンギャルドの前席。背もたれと座面はファブリックで仕立てられている。
    C180アバンギャルドの前席。背もたれと座面はファブリックで仕立てられている。
  • 180ローレウス エディションの後席。背もたれは40:20:40の分割可倒式になっており、さまざまな荷物の積載に対応する。
    180ローレウス エディションの後席。背もたれは40:20:40の分割可倒式になっており、さまざまな荷物の積載に対応する。
  • C180アバンギャルドの後席も、構造はローレウス エディションと変わらない。前席同様、表皮の一部にファブリックが採用される。
    C180アバンギャルドの後席も、構造はローレウス エディションと変わらない。前席同様、表皮の一部にファブリックが採用される。
  • トランクの容量は445リットル。開口部のリヤウインドゥ付近には、後席の背もたれを前方に倒すためのリリースレバーが備わる。
    トランクの容量は445リットル。開口部のリヤウインドゥ付近には、後席の背もたれを前方に倒すためのリリースレバーが備わる。
  • 荷室については、C180アバンギャルドとローレウス エディションとで差異はない。大きな開口部は、セリングポイントのひとつ。
    荷室については、C180アバンギャルドとローレウス エディションとで差異はない。大きな開口部は、セリングポイントのひとつ。

スポーツサスペンションに18インチタイヤとなると、まず心配してしまうのは乗り心地だが、これが案外、悪くない。装着銘柄の違いもあるのか、こちらの方がタイヤの転がり感が滑らか。確かに路面の継ぎ目などでの突き上げは幾分かダイレクトに感じられる気もするが、減衰よくスッとショックが収まるから、かえって快適とすら感じられるのだ。

セットオプションのAMGラインが備わるC180ローレウス エディション。足まわりには、俊敏性を高めるスポーツサスペンションが組み込まれている。
セットオプションのAMGラインが備わるC180ローレウス エディション。足まわりには、俊敏性を高めるスポーツサスペンションが組み込まれている。

■エンジンにも手を入れたくなる

ではスポーティさはどうかといえば、率直に言って市街地を流すような走りでは、大きな差は体感できなかった。メルセデスは、メルセデスでしかない。まさに、そんな感じだ。とはいえ、少し速めの操舵をした時などのロール感は確かに小さく感じられたから、コーナーの連続するような場面では、それなりに違いを実感できるのではないだろうか。

惜しいのはパワートレーンに何も変更がないことである。攻めてエキゾーストにでも手を入れて、もう少し気持ちの良い音を聞かせてくれるだけでも、気分は結構違ってくるんじゃないかと思うのだが。

  • C180ローレウス エディションの1.6リットル直4ターボエンジン。最高出力156PSと最大トルク250N・mを発生する。
    C180ローレウス エディションの1.6リットル直4ターボエンジン。最高出力156PSと最大トルク250N・mを発生する。
  • パワーユニットについては、C180アバンギャルド(写真)とC180ローレウス エディションとで差異はない。
    パワーユニットについては、C180アバンギャルド(写真)とC180ローレウス エディションとで差異はない。

これだけの差だと、選ぶ理由としては不足かな? そんな風に思いながらクルマから降りてあらためて2台を眺めたら、C180アバンギャルドの姿が何とも物足りなく感じられて驚いた。AMGラインのエクステリアに慣れた目には、下半身のボリューム感がどうにも寂しい。最初は、それほど大きく変わっていないように感じていたのに、何かを付け忘れたかのようにすら思えてしまったのだ。

C180ローレウス エディションには、AMGラインの構成要素となる18インチのAMG 5スポークアルミホイールが装着される。タイヤは、コンチネンタルのコンチスポーツコンタクト5が組み合わされていた。
C180ローレウス エディションには、AMGラインの構成要素となる18インチのAMG 5スポークアルミホイールが装着される。タイヤは、コンチネンタルのコンチスポーツコンタクト5が組み合わされていた。

さらに言えば、走りのテイストとデザインのイメージがうまく合致するのも、AMGライン装着車の方ではないだろうか。あるいは抑揚に富んだもともとのCクラスのスタイリング自体が、このぐらいのサイズのホイールを履いたりして少しばかり精悍に仕立てた方が、よりしっくりくるものになっている、と言うこともできるのかもしれない。

ともあれ、見た目にしても、あるいは走りにしても、即効性の強い刺激があるわけではないけれど、一度味わってしまうと、それ無しにはどうも寂しく感じられてしまう。じんわりとあとを引くようなスポーツ性が、どうやらAMGラインの持ち味のようである。

(文=島下泰久/写真=菊池貴之)

2017年7月に発売されたメルセデス・ベンツC180ローレウス エディション。今回試乗したセダンのほかに、ステーションワゴンもラインアップされている。
2017年7月に発売されたメルセデス・ベンツC180ローレウス エディション。今回試乗したセダンのほかに、ステーションワゴンもラインアップされている。
  • C180ローレウス エディションのAMGスポーツステアリング。左右のグリップ部分にはディンプル加工が施されている。
    C180ローレウス エディションのAMGスポーツステアリング。左右のグリップ部分にはディンプル加工が施されている。
  • メーターパネルはアナログ式の2眼タイプ。中央にはマルチインフォメーションディスプレイが備わる。写真は、C180ローレウス エディションのもの。
    メーターパネルはアナログ式の2眼タイプ。中央にはマルチインフォメーションディスプレイが備わる。写真は、C180ローレウス エディションのもの。
  • ローレウス エディションは、メルセデス・ベンツがパートナーシップを結んでいる「ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団」の名を冠するスポーツモデル。AMGラインをはじめ、Cクラスの個性を際立たせるオプションが装着されている。写真はセンターコンソールの専用プレート。
    ローレウス エディションは、メルセデス・ベンツがパートナーシップを結んでいる「ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団」の名を冠するスポーツモデル。AMGラインをはじめ、Cクラスの個性を際立たせるオプションが装着されている。写真はセンターコンソールの専用プレート。
  • C180ローレウス エディションには、ラバースタッドが施されたステンレススチール製のアクセル&ブレーキペダルが備わる。
    C180ローレウス エディションには、ラバースタッドが施されたステンレススチール製のアクセル&ブレーキペダルが備わる。
  • フロントスポイラーが特徴的な、C180ローレウス エディションのフロントまわり。大型のエアインテークやクロームのリップスポイラーが目を引く。
    フロントスポイラーが特徴的な、C180ローレウス エディションのフロントまわり。大型のエアインテークやクロームのリップスポイラーが目を引く。
  • C180ローレウス エディションのリヤエンドには、ディフューザー形状のパネルが装着されている。
    C180ローレウス エディションのリヤエンドには、ディフューザー形状のパネルが装着されている。

[ガズー編集部]