新型スープラ プロトタイプ試乗レポート
ラグジュアリーにも、スポーツにも
2018年12月初旬、袖ヶ浦フォレストレースウェイにおいて、メディアを対象とした新型スープラの試乗会が開催された。この新型スープラはあくまでプロトタイプで、ボディやインテリアには擬装がされた状態。その擬装をよくよく見ると、そこかしこにA90の文字があるのがわかる。これが新型スープラの型式だ。フロントエンジン・リアドライブという駆動方式や直列6気筒エンジンを搭載している。それはA40/50型から続く、スープラの伝統に則ったクルマであるということを、この型式でも表している。直6エンジンのFRレイアウトこそスープラと名乗る資格を持つのだ。
メカニズム的にはアルミ材とスチール材を適材適所で使用し、居住性などではなく剛性面をファーストチョイスとして設計された高剛性ボディに、最大トルクをわずか1600rpmで発生し、そのままフラットにトルクが出続ける3Lのターボエンジンを搭載。ミッションは8ATで、足まわりにはアダプティブ・バリアブル・サスペンションを、駆動系にはアクティブディファレンシャルを装備。この味付けこそ今回のスープラの乗り味の鍵となるもので、相当に煮詰められているという。
そして、パワーの出方などに関わるドライビングモード切り替えと、車体横滑り制御などのVSC&TRCは独立してのコントロールが可能となっている。もっともスポーティなモードにしても車体横滑り制御などを活かすことができるので、サーキットで路面摩擦が低いときや、タイヤが冷えているときにも安心してスープラ本来の性能を味わうことができるという。
プロトタイプとは言え、その走りはいかなるものか気になるところ。そこでGAZOO編集部では、数多くのGRショップスタッフに「クルマの楽しさ」を教えた『三浦健光選手』と、理論とデータでクルマを評価する『折目遼選手』のお二人に試乗していただき、その走りを見極めてもらった。
レーシングドライバー
-
- 三浦健光
数多くのGRショップスタッフに「クルマの楽しさ」を教えたレーシングドライバー。
-
- 折目遼
理論とデータでクルマを評価するレーシングドライバー。
まずは全体の印象から
三浦ーーー当たり前だけど、乗る前にドアを開けますよね。そこでもう、トヨタっぽくないなって感じました。コンパクトな高級スポーツカーというか、新しい世界というか。シートに座った感じや、ドアミラー越しに見えるリアフェンダーの盛り上がりも含めて、ラグジュアリーな雰囲気もあるスポーツクーペ、といった感じでした。
折目ーーーまったく同じなんですけどね(笑)。最初僕は助手席に座らせてもらってコースインしたんですが、その状態でも雰囲気あるけどよく走るクルマだな、という空気がありました。スポーツカーに乗っていると、わくわくする感じってあるじゃないですか。それを感じましたね。
三浦ーーーそれは質感の高さも関係しているのかもしれません。ドアノブとかそういうパーツの質感がすごくよかったですね。
折目ーーー着座位置の低さやホールド性のよさもスポーツカー、という感じでしたね。
三浦ーーー乗ってすぐふたりでいったもんね「このシートいいね」って(笑)。お尻の部分の柔らかさやウレタンのカタさが、すごくよかった。
折目ーーー助手席だと座っているだけなので、加速するとシートに身体が押し付けられますよね。そのとき柔らかさで身体が沈み込んで、シートがフィットしてしっかりホールドしてくれるんです。委ねられる感じでいいな、と思いました。
三浦ーーードライブデートにもバッチリ(笑)
折目ーーードライビングポジションもピッタリ決めることができましたね。これ凄く大事な事だから嬉しかったです。
では実際に走ってみての印象は
三浦ーーースープラっていうと、直線番長的なイメージがあったりする人も、とくに年齢層の高いファンの中にはいるかと思いますが、そのイメージからすると、このA90スープラはすごく良くできているクルマです。ステアリングの向いている方にしっかり曲がって行く。このイメージが強いかな。
ボディは剛性がすごく高いけど、ぼくの印象はガチガチッとした硬さというよりもしっとり系の剛性の高さと感じました。動かす部分は動かしつつ、大事なところは硬いという感じです。エンジンは速くて、8ATのミッションは制御がよく、シフトアップやシフトダウンでの音も、うまく演出していると思います。ただ、シフトダウン時、アクセルオフでのブリッピングが、ちょっと短いように感じました。これがもうちょっと長く続いてくれると、ドライバーとしてはリズムが取りやすいのかな、と思います。
折目ーーー今回初めて乗ったわけですが、ボディの強さなどはトヨタのクルマというよりも、例えばポルシェのケイマンやアルファロメオの4Cなどと同じように感じました。ではどこが違うのかというと、スープラは積極的に動いてくれるのです。ドライバー自身の運転の仕方がわかりやすく、操れる動きをちょうどいい感じで保っている、というところにあります。制御の上手さ、ですかね。
三浦ーーー敢えてちょっとネガティブな部分をいうと、良く曲がるイメージはあるけど、ちょっとハンドリングに違和感が残る場面もあった。サスペンションのフロントはリバウンド側、リアはバンプ側の減衰力が若干弱めに感じられたので、こういったサーキットもそうですが、峠道などでも気になる場面もあるかもしれません。こうした前後のバランスを合わせこめばもっとスポーツカーとしての顔が見えやすくなると思う。
それに合わせてデフの制御がうまく出来ると更にニュートラルなハンドリング性能が得られると思う。
折目ーーータイヤが滑ってくれればそういうところは気にならないのだけれど、ハイグリップなので滑らないで頑張っちゃうし、滑らせないように制御してくれるし。クルマ任せで安全に楽しく走れるようになっていることを考えると、そのまま素直にクルマ任せで走る、というのが正解なのかもしれません。
三浦ーーーでもそのグリップ力で前に進んでいってくれるというのが現代のクルマでしょ。昔みたいに横向けてナンボ、滑ったらドライバーが頑張ってなんとか前に進める、というのではなくて、クルマが自分で制御してちゃんと前に進む。そういう方向性がスポーツカーではない、スポーツクーペ的な部分といえるかもしれない。
けれど間違いなく懐が大きいベースを持っているクルマだから、味付け次第でコンパクトな高級スポーツクーペにもスポーツカーにも如何様にも成りえると思うな。
今回試乗した新型スープラは、天候・路面の状態など様々な路面状況を考慮した市販時のセッティングとの事。逆に言えば、今回の試乗会の舞台である『サーキット』の事だけを考えたセッティングではないということかもしれない。そんな中、三浦・折目両氏が新型スープラの試乗を終えたときに、まるで「レーシングカー」を評価しているかのような顔に変化していたのが印象的だった。こうした部分からも非常に懐の深いクルマだという事が窺える。
早く街中で新型スープラを運転してみるのが待ち遠しい。
[ガズー編集部]
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