漫画「よろしくメカドック」の作者 “次原隆二” に聞いたクルマの魅力
「よろしくメカドック」や「レストアガレージ251 車屋夢次郎」など、クルマ関連の作品を残してきた次原隆二先生にインタビューしてきました。メカドック(造語/メカニカル・ドクター。車の医者という意味)とチューニングを世に浸透させた大先生です!
プロフィール
漫画家 次原隆二(つぎはらりゅうじ)
1979年に「脱暴走族」(旧ヤングジャンプ賞)でデビュー。1982年に国産市販車のチューニングを扱った、クルマ漫画で草分け的な作品と呼べる「よろしくメカドック」を週刊少年ジャンプで連載。現在は漫画家として活動しながら、株式会社コアミックス、株式会社ノース・スターズ・ピクチャーズの役員も務める。
デビュー作は14話で打ち切り。そこからのサクセスストーリー!
―福岡県出身の次原先生。漫画家になったキッカケは?
多くの漫画家がそうだと思いますけど、1枚絵を描いて周りから「上手いね」と言われて調子に乗って、今度は漫画に挑戦して……。僕の場合はまさにそんな感じ。だから将来の夢が漫画家だったわけではないんですよ。キッカケは賞を獲ったことかな。整備士免許(二級ガソリン自動車整備士免許・二級ジーゼル自動車整備士免許)を取得するため地元の専門学校へ進学し、1年生の夏休みになんとなく漫画を描いて、応募したんですよね。それがいきなり入選しちゃって。それで漫画家になることを意識したかな。
―では、「よろしくメカドック」誕生までの経緯を教えてください。
専門学校の卒業間際に、担当の編集者から「原作大賞の入選作を原案にして連載を目指してみないか?」と言われて。でも「東京へ来ないか」とは言われなかった。おそらく、いきなり東京に呼んで駄目だったら責任を取れないと思ったんでしょうね。そうして地元の福岡にいながらデビューすることに。でもね、画材はないし、アシスタントはいないし、右も左もわからない……。案の定14話で打ち切りになりました。
―それは、ショックだったのでは……。
若かったせいか、ショックはそこまでなかったかな。でも、打ち切りというカタチでこの業界の厳しさを知ったおかげで、漫画家として自分のカラーをどう出していこうか、真剣に考えるようになりました。
そのときにたまたまチューニングの世界を知って「あ、これは少年誌向きかも」とピンときた。それをヒントに「よろしくメカドック」の読み切り作品を2本発表したところ、読者からの反応も良く、連載が決定。今度は「本気でやるなら東京に来ないか」と誘われました。編集者も手ごたえがあったんだと思います。それで「じゃあ」と上京。忘れもしないのが、東京に着いたのが「笑っていいとも!」が始まる前日だったこと。だから「いいとも!」が終わるニュースを聞いたときはショックだったね(笑)。
福岡県出身の次原先生。九州人の気質なのか、とっても朗らかで豪快な方でした。ウィットに富んだ会話も多く、あっという間に取材時間は過ぎていきました!
アニメ化も決まって大ヒット!「よろしくメカドック」連載秘話
―24歳のときに週刊少年ジャンプで「よろしくメカドック」を連載し、本格デビュー。メカドック(整備士)にスポットを当てた作品は、当時としてはかなり異色だったのでは?
う~ん、まあそうかもしれませんね。僕はもともとレースよりも自動車のメカニズムに興味があった。ストーリーの中盤からはレースの勝敗やライバルとの熱い友情など、ジャンプ王道の展開になっていますが、序盤は風見潤(かざみじゅん・主人公)がクルマをチューニングしてトラブルを解決していく話が中心で、物珍しかった部分はあると思います。当時の編集長からも、アニメ化が決まったときに「こんな作品がアニメになるのか」と言われましたよ(笑)。
―かなり専門的にクルマの構造を掘り下げて描いている印象も受けました。いろいろ取材されたのでは。
それがそうでもなくて……、専門学校を卒業して整備士免許も取っていたし得意な分野でもあったので、そこまで取材に時間を費やした記憶はないですね。
―連載を続けているうちに変わったことはありますか?
クルマの好き嫌いがなくなりました。特にニコイチ(レストアガレージ251 車屋夢次郎)を始めてから。一見特徴のなさそうなクルマでも、そのクルマにしかない良さが必ず見つかるんです。知れば知るほど魅力を感じるんですよ。
メカドックに関しては、子どもたちのクルマに対する興味の深さにも驚かされました。ちょっとした間違いを複数の小学生読者に指摘されたこともありましたね。また、この作品がキッカケで、のちにいろいろなクルマに関する仕事に就いた読者が少なからずいることを知り、もしかしたら人生を狂わせちゃったんじゃないか……となんだか申し訳ない気もします(笑)。
1982年より週刊少年ジャンプでおよそ2年半に渡って連載された「よろしくメカドック」。チューニングショップ「メカドック」に勤める主人公の風見潤が、客の様々なオーダーに応じ、チューニングを行っていくというストーリー。
次原先生が初めて夢中になったクルマはトヨタの「ヨタハチ」!
―せっかくなのでプライベートのお話も聞きたいです。やっぱりクルマは小さい頃から大好きでしたか?
実は、そうでもないんですよ(笑)。
―それは意外です(笑)。
整備士の免許を取ろうと思ったのも手に職をつけるのが目的だったし、どちらかと言えばバイクのほうが好きだった。でも、トヨタさんにリップサービスするわけじゃないけれど「クルマってカッコいいな」と思ったのは、作中でも登場したトヨタの「ヨタハチ(トヨタ・スポーツ800)」と出会ってから。ただヨタハチを所有したことはないから、現代版の復刻モデルを出してほしいですね。そうしたら是非とも乗ってみたい。
―では、最初に買ったクルマは何でしょう?
最初に乗ったクルマは、親父から譲ってもらったスズキの「フロンテ・クーペ」で、自分で購入したのは日産の「シルビア」ですね。購入した理由は、マイコンによるドライブガイドや暗証番号でドアの開閉ができるキーレスエントリー、そして画期的なデジタル表示など、当時の最先端の技術を搭載していたから。しばらくしてトヨタの「MR2」も買いましたが、こちらは日本初のミッドシップカーだったのが買った理由。
その後のクルマ選びもそうですが、必ずメカニズムの部分に惚れて選んでいましたね。上手に言えば「メカドックの血」というか。現在は水平対向エンジン&フルタイム4駆の「レガシィ」のアウトバックに10年ほど乗っています。なんて言いながら、未だにロータリー車を所有したことがないとはこれいかに!?(汗)
―クルマの調子が悪い時は、風見潤や里見 夢次郎のように、自分で直されるのでしょうか?
自慢じゃないですが、無理(笑)。整備士の免許を持っているけど、今はオイル交換くらいしかできないと思う。漫画は夢を描くものですから(笑)。
コミックスの中でも挿絵で紹介されている、次原先生がこれまでに乗ったクルマたちの一部。クルマへの愛情が詰まったエピソードもつづられています。
次世代へ漫画の技術を伝え、次のスターの発掘と育成が夢!
―今後の目標について教えてください。
漫画家としては、1年ほど前に連載を終えて、今は次回作の構想を練っているところ。一方で、週刊少年ジャンプの元編集長や漫画家の原哲夫先生、北条司先生などと共に立ち上げた会社の役員も務めています。これは漫画で生活してきた僕たちが「漫画への恩返し」と思って設立した会社です。ここでの目標は、次世代の漫画界を担う新人を発掘し、育てること。世界中の漫画家志望者を対象に、漫画オーディションを開催したり、新しい形態の漫画スクールの実現に向けてさまざまなことを試行中です。
―世界中からの募集というのはすごいですね!
そうなんですよ。この第1回のオーディションでは54カ国から504作品も届きました。一番多かったのが、何とインドネシア。こうやって漫画の価値を高めていくのが僕たちの使命。偉そうかもしれませんが、僕たちの世代が次の世代に知識や経験を伝え、漫画界を盛り上げるのが夢ですね。
―最後に、クルマが大好きな読者に向けてメッセージをお願いします!
クルマがあれば、これまで行けなかった場所にも行ける。そして、運転中の車内での会話や偶発的な寄り道など、行く過程も楽める。もちろん、運転すること自体の面白さもあります。だから、僕にとってクルマは「最高に楽しいオモチャ」。これほど楽しく自由度が高いオモチャはないと思います。
―次原先生、貴重なお話ありがとうございました!
先生のデスクを大公開!貴重な1枚です。 ちなみに椅子はドイツのメーカー、RECAROのシートというこだわり。
(ライター:初野正和)
(取材協力:次原隆二)
[ガズー編集部]
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