ファミリーカーとしてのPHEVの可能性
プラグインハイブリッド車(PHEV)の今と未来を読み解いていく本特集。今回は、現在日本で販売されているPHEVの一斉試乗会を企画し、自動車評論家・モータージャーナリスト総勢8名がイッキ乗り。それらの試乗インプレッションを踏まえ、PHEVが抱える課題や可能性について座談形式で語り合ってもらった。
座談会の第1弾テーマは「ファミリーカーとしてのPHEV」。参加したのは、カーナビゲーションやITS分野、先進技術を得意とする会田肇氏、女性視点の試乗インプレッションを執筆し現在はノンフィクション作家としても活躍する岩貞るみこ氏、セーフティ&エコドライブのインストラクターも務めるカーライフ・ジャーナリスト まるも亜希子氏、そして幅広い取材力とインタビューを得意とする鈴木ケンイチ氏の4名だ。
----:経済性や価格など様々な要素があると思いますが、今後PHEVが世に浸透していくための鍵はどこにあるのでしょうか。また、そもそも普及するポテンシャルがあるものでしょうか。今回はファミリーカーという視点から、PHEVの可能性を見て行きたいと思います。
鈴木:ファミリーカーの定義というのは、クルマとドライバーが1対1じゃなくて、お父さんもお母さんも子どももみんなで使うということですよね。だからお母さん、主婦の方がちゃんと使えるというのもすごく重要。
- モータージャーナリスト 会田肇氏
会田:その上で、そもそもPHEVの良い所ってやっぱり充電できる、っていうことだよね。うちの家内は昔、セルフのガソリンスタンドで吹きこぼれさせちゃったことがあって、それ以来セルフのスタンドでも店員さんに入れてもらっている。スタンドに行くことすら嫌だと。だけどPHEVなら家でコンセントにつなぐだけで、日常の数十キロを走れるから、そういう観点でも主婦にとって馴染みやすいものなんじゃないかなと思うね。
まるも:主婦としてはEVにすごく魅力を感じるし、乗りたいと思う。だけど電気がなくなった時の恐怖も感じる。PHEVはその点、いざとなればガソリン(エンジン)があるからという安心要素もあるし、さらに電気を積極的に使って繰り返し充電すればお得にもなる。そのお得感と、保険がついているという安心感が、これからのファミリーカーには大切なんじゃないかな、と思いますね。
会田:家内が話していたんだけど、主婦にとってはガソリンを入れない、ということだけでも節約した気になれるらしいよ。
一同:なるなる。
会田:もちろん電気にしたって、お金は払うんだけど、ガソリンを入れて何リットルいくらと言われるよりも気持ち的に楽だということだね。もちろんEVならそれに越したことはないのだけど、今は遠出したい時や、もしも電気がなくなったらという事を考えると、一台でもなんとかなるPHEVはメリットがあると思う。
岩貞:ネガティブな話もして良いですか?
----:もちろん、どうぞ。
- 岩貞るみこ氏
岩貞:私は、今の時点では充電することはデメリットだと思っているんです。主婦の話でいえば、買い物から帰ってきて、子どもも連れていて荷物もたくさんあって、お肉や卵を早く冷蔵庫にも入れなければならないし、という時にそれを全部済ませてからまた充電のために車庫まで戻ってくるというのは無理だと思う。狭い車庫で、せっかくのお洋服やカバンが汚れるのもストレスだし、ちゃんと家側に充電をするための受け皿が整っていないと難しいんじゃないのかな。
会田:確かに、乗り手側のインフラはすごく大事だよね。そして、マンションに住んでいる人はそもそもどうしようもない、ということもあるよね。すくなくともPHEVは、自分の敷地をもった家がちゃんとあって、そこにある程度の設備があるというのがやっぱり前提になる。今度出る『プリウスPHV』は100Vの充電ができるから随分敷居は下がると思うけど、今世に出ている主に輸入車のPHEVはそうはいかない。専用の充電設備を…と考えると面倒だし、ユーザーの負担も大きいよね。
鈴木:会田さんの家は駐車場も広いからまだ良いけど、僕の場合のように月極駐車場を借りている身だと、EVやPHEVが欲しいと思っても物理的に無理だとなってしまう。
岩貞:一方で、郊外に目を向けると家からガソリンスタンドがすごく遠いということもあるわけで。例えば農家さんなら土地はたくさんあって、農機具を動かすための電源も自宅に備わっていたりするんです。充電が出来れば遠いガソリンスタンドに行かなくても良いという大きなメリットもあって、もしかすると都会よりも郊外、田舎の方がPHEVのファミリーカーとしてのニーズはあるのかもしれませんよ。郊外に住んでいる人なら一家に2台、3台と持っているだろうから、そのうちの1台がPHEVでも不便はないでしょうしね。
会田:クルマを売る側は、もし都会で売ることを考えるなら、PHEVでも使える駐車場を一緒に提供するようなサポートをしていかなければいけないと思う。単純にクルマを売っているだけでは、都会の人にとってPHEVを買うそもそものチャンスが生まれないと思うんだよね。
----:やはりEVだけでなくPHEVも、ガソリンで走ることができるとはいえ、自宅に充電設備があることは前提条件になるのでしょうか。
一同:それは、そうでしょう。
会田:外出先でも充電できるのはメリットだけど、例えば高速道路のサービスエリアで、EVが充電していたらPHEVの人は積極的に譲らなければいけないよね。PHEVはガソリンでも走れるんだから。やっぱり自宅で充電するのが前提。
- カーライフ・ジャーナリスト まるも亜希子氏
まるも:そういえば、私は子どもが生まれた時に『アウトランダーPHEV』の購入を検討していたことがあって、その時に思ったのが災害にあった時に「私はこの子をひとりで守れることができるのかな」って。アウトランダーPHEVなら、普段充電をちゃんとしていればいざと言う時に1日半くらいの電源になる、というのは魅力に感じたんですよね。
岩貞:それでも、アウトランダーPHEVを買わなかったの?
まるも:やっぱり家にコンセントがなかったから(笑)
会田:やっぱりそこなんだね。インフラはすごく大事だということだね。
まるも:それでもPHEVのメリットとして、いざという時の外部電源機能もファミリーカーとしての「保険」の大事な部分だと思いますよ。
鈴木:そうすると、PHEVがファミリーカーとして最大限の魅力を発揮出来るのは、郊外に住んでいて充電設備があって、普段の買い物はEVで済ませて、休日はハイブリッドカーとして遠出をして、というような使い方ができる人ということになるのかな。
まるも:やっぱりPHEVを買うなら充電設備もセットで考えないと、ということですよね。
- モータージャーナリスト 鈴木ケンイチ氏
鈴木:逆に言えば、充電設備さえあればすごく便利なものだということですね。それは多分皆わかっているんだと思う。あとは普及モデルとして、プリウスPHVだけじゃなくて例えば軽自動車に置き換わるようなPHEVが出れば、色んな人がファミリーカーとして使うことができると思う。それもやっぱり郊外向けで、より簡素なレンジエクステンダー(発電用エンジンを搭載したEV)で価格も軽自動車並みなら可能性はあるんじゃないのかな。
岩貞:私としては三菱に『デリカPHEV』を早く作ってほしいのだけど(笑)
鈴木:実用性や日本市場のことを考えたら、ミニバンのPHEVは確かにほしい。けど、最近のミニバンは相当床が低いから、技術的に難しいところもありそう。
会田:でもハイブリッド車はできているわけだから、あとはバッテリーの容量の問題だよね。
鈴木:バッテリーの進化は日進月歩だから。そのうち良い話があるかもしれませんよ。
《進行・まとめ:レスポンス編集部 宮崎壮人》
[ガズ―編集部]
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