スポーツカーとしてのPHEV…いかに五感を刺激するか
プラグインハイブリッド車(PHEV)の今と未来を読み解いていく本特集。今回は、現在日本で販売されているPHEVの一斉試乗会を企画し、自動車評論家・モータージャーナリスト総勢8名がイッキ乗り。それらの試乗インプレッションを踏まえ、PHEVが抱える課題や可能性について座談形式で語り合ってもらった。
座談会第3弾のテーマは「スポーツカーとしてのPHEV」。ハイパフォーマンスカーを中心に緻密な分析とレビューを得意とする中村孝仁氏、自身でBMW『i3』を所有し次世代車への造詣も深い片岡英明氏、カーナビやITSをはじめ自動車先進技術を網羅する高山正寛氏、イタ・フラ系を得意としユーザー目線のレビューに定評がある島崎七生人氏の4名が、議論をぶつける。
----:ひとくちにPHEVと言っても、メーカー、ブランドの違いでその姿は様々です。BMW『i8』やポルシェ『カイエン』『パナメーラ』、VW『ゴルフGTE』などのように、スポーティさを押し出したクルマも出てきました。PHEVというのはそもそも、スポーツカーとしての要素をもったシステムなのでしょうか。
中村:僕は、いまのPHEVはスポーツカーではないと思っています。なぜスポーツカーとして向かないのかというと、大前提としてスポーツカーは軽くなければならないから。今のPHEVのようにバッテリーをいっぱい積んで、EV走行距離を延ばして、エンジンをモーターでアシストする…という仕組みでは、スポーツカーとしてはいまいちかなと。ポテンシャルはあると思うけど。
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- モーター・ジャーナリスト 片岡英明氏
片岡:われわれの世代は、いまのPHEVがスポーツカーだとは思わないでしょうね。
高山:クルマによってどう味付けするかをコンピューター上で制御しやすい、チューニングしやすいという側面もあります。その意味では、スポーツカーといえるPHEVもあるかもしれない。
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- モーター・ジャーナリスト 島崎七生人氏
島崎:スポーツカーの概念って、やっぱり世代とか人によってそれぞれでしょう。でも例えばBMWは、モーターで走らせているときは、ヒューンという音で電気自動車のイメージを出して、ひとたびアクセル踏み込んで5000~6000回転まで回すとレシプロエンジンの味をダイレクトに感じさせてくれる。そういう風に演出として、スポーツカーを感じさせるという方向性もアリだと思います。
片岡:「きょうはF1のサウンドで」「フェラーリサウンドで」とか、スポーツカー的な音をオーディオとして聴かせるのは電動車両の面白いところかなと思います。キャビン内だけでエンジンの音を楽しめる、というのはこれまでの自動車ではなかった体験。
高山:僕は反対。音はいじらないでほしい。スポーツカーは、そのクルマが持っている音もすべて享受して楽しみたい。
中村:もしかすると、僕と片岡さん、高山さんと島崎さんとの間にはものすごい溝があったりする。キャブレター時代のクルマって、アクセルの踏み方に注意しないと走らなかったり、音だけじゃなくて、五感すべてを使って楽しんでいたと思うんですね。今はクルマが極度に進化していて、全部クルマ側がやってくれる。音の話題で言えば、静かになったことである意味、五感のひとつが削がれてしまっているとも言えるわけです。だからそこにフェイクの音を加えるというのはありだと思いますよ。。
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- カーコメンテーター 高山正寛氏
高山:エンジンが静かになったことで目立ってしまったロードノイズを、打ち消してくれるようなシステムならば良いかもしれませんね。
----:そうした演出も含めて、それぞれのメーカー・ブランドのPHEVに走りの味の違いはあると感じますか?
島崎:欧州メーカーのクルマは、ブランドごとの色、キャラクター、コンセプトがしっかり出ていますよね。EVであろうと、PHVであろうと。たとえば、ゴルフGTEとA3スポーツバック e-tron。この2台もちゃんと違いが出ている。車好きが考えたときに、クルマとしての魅力としてキャクター付けはあってほしいですよね。
高山:BMW『3シリーズ』などは、ベースに対してPHEVシステムの“載っけ具合”がガッツリしていないので、元々の3シリーズの乗り味が残っていますね。ただ、その価格差に見合っているかどうかを考えると、PEHVらしい乗り味の“差”が薄いぶんだけ、「ここでPHEVをあえて選ぶだろうか?」と悩むところでもあります。でも島崎さんが言う通り、ゴルフGTEとA3スポーツバック e-tronの話は最たるもので、ほぼ同じパワートレーンでもまったく走り味が違うと誰もが感じることができる。そう考えると、他のメーカーや車種も、もっともっとキャラクター付けというのはできると思います。
中村:ブランディングが上手いんだろうね。
----:PHEVのシステムありきでスポーツカーをつくる、という可能性はあるでしょうか?
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- モーター・ジャーナリスト 中村孝仁氏
中村:できるかもしれないけど、商売としては成り立たないでしょう。EVのスポーツカーはつくれるかもしれないけどね。
高山:例えばポルシェはPHEVでもやっぱりポルシェらしさが残っている。電気のかかわり具合とか、単純に割合の問題ではなくて、考え方やブランドも乗るだけでわかる。でも正直に言うと、i8はスポーツカーだとは思わない。「カーボンボディでこんなものがつくれた」という点は評価すべきですが、このあとどう進化するかは、まだ読めないですよね。
片岡:いっぽうで、i3はコーナリングも細いタイヤを使い切るのとか、おもしろいなと思っちゃいますね。スポーツカーとして可能性はあると。これからバッテリーが良くなってきて、カーボンで重量を軽くしたりとか、専用設計で組んだりすれば、可能性はあるかもしれません。
中村:ガソリン、ハイブリッド、プラグインときて、燃料電池車がその先にあるとして、全世界がFCVに行こうとしているのであれば、PHEVは過渡期のものになっちゃう。でも、グローバルで見たときに、FCVが全員の究極のゴールかと言えば決してそうではない。そう考えると、PHEVでスポーツカーをつくらなければならないと言うこともできるのかもしれないね。
片岡:エネルギー回生技術が進化すると、面白いスポーツカーが出てくる気がします。
高山:どうも報道側も「これが究極」って言って、そのひとつだけが究極に見えるけど、みんな共存しているでしょ。ゴールをFCVと仮定すると、PEHVは相当なロングリリーフに見える。その間に技術が進歩するし、いまはとにかく「既存のクルマにPHEV化しました」というのがほとんどだけど、ひとつの車系としてスポーツカーが登場する可能性は十分にあると思います。ただ、それがパワーがほしいのか、CO2を減らしたいのかといった、PEHVである理由が明確でないといけないと思います。
中村:高山さんが言ったように、PHEVがロングリリーフだとしたら、専用設計のプラットフォームによるスポーツカーが間違いなく出てくるでしょう。
片岡:まだ電気が遠慮している時代だけど、電気をフルに使ったクルマが出てくれば、もっとおもしろくなるでしょうね。あとはやっぱり五感の味付けかな。
《進行・まとめ:レスポンス編集部 宮崎壮人、大野雅人》
[ガズ―編集部]
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