大学自動車部ってどんなところ? -法政大学編-

全国の大学や専門学校などの自動車部におじゃまして、日ごろの活動風景やご自慢の部員を紹介するこのコーナー。
今回うかがったのは、80年余りの歴史を持つ法政大学体育会自動車部。
上級生、下級生のへだてなく、実力向上のために頑張るその活動をお届けします。

★法政大学体育会自動車部プロフィール
●部員数 :男子 20名 / 女子 1名  ※部員数は2014年7月現在
部員紹介ページ
●部車 :トヨタ・スターレット、ホンダ・シビック ほか
●活動内容:毎週水曜・木曜の17時~22時、市ヶ谷キャンパス内のガレージにて部車の整備作業を行い、週末はサーキットで走行練習を行う(大会月=3回/月 その他の月=約1回/月)。
目標は、全日本学生ジムカーナ選手権大会で「全参加校のなかで上位半数以上の順位を獲得すること」と、全日本学生フィギュア大会での入賞。
●活動実績:2013年度 全日本学生自動車運転競技選手権大会 男子小型乗用の部A 個人3位

機械いじりが好きな人なら絶対に楽しめる

多摩や小金井にもキャンパスを持つ法政大学。自動車部が活動しているのは、写真の「ボアソナード・タワー」が目印の市ヶ谷キャンパスだ。
自動車部の活動拠点は地下駐車場の一角。他校のように専用のガレージこそ持っていないが、「組み立て式のクレーンもあるし、エンジンもここで降ろしてます」とのこと。
こちらは大学の行事などに用いる1938年製のジャガー3 1/2サルーン。このクラシックカーの管理も自動車部の活動の一つ。イベントなどでの運転は自動車部OBが担当する。
今回の取材に対応してくれた、主将の田中雅人さん(左)と主務の道端隼也さん(右)。

今回おじゃましたのは東京・市ヶ谷の法政大学。その歴史は1880年(明治13年)、在野の法律家であった金丸 鉄と伊藤 修、薩埵 正邦​らが東京駿河台に「東京法学社」を設立した時に始まります。その後、1918年(大正7年)に発布された大学令を受けて1920年(大正9年)に「財団法人法政大学」が発足。1921年(大正10年)には現在市ヶ谷キャンパスがある麹町区富士見町4丁目(当時)に校舎を新築し、移転しました。今は15の学部と、通信教育部、大学院14研究科などを擁する総合大学となっています。

体育会自動車部が発足したのは今から84年前の1930年(昭和5年)。現在はジムカーナとダートトライアル、フィギュアの3競技に力を注ぐかたわら、2006年度からは地球温暖化に対する国家プロジェクト「チーム・マイナス6%」のメンバーとして全日本学生自動車連盟とともに活動を開始。エコカーを使ってエコドライビングの技術を競うエコドライビングコンテストや、3%バイオエタノール燃料を使用した軽自動車6時間耐久レースに出場するなど、環境を意識した活動にも積極的に取り組んでいます。長い歴史と伝統がある部ではあるものの、現役部員の皆さんには過剰で過酷な上下関係がある気配もなく、全員が明るいムードで、楽しそうに活動しているのが見て取れました。

さて、そんな法政大学自動車部にはどんなメンバーがいるのでしょうか? まずは主将の田中雅人さん(4年)にいろいろと聞いてみましょう。

「自動車部に入部した理由は、子供の頃からとにかく何かをいじるのが大好きだったから、ということですね。お約束のラジオ製作からプラモデルまで、とにかくありとあらゆるモノをバラしては組み立てて……というような子供でした。で、クルマでもそれをやってみたいな、と」

ラジオやプラモデルと違って、さすがに本物のクルマでそれをやるのはなかなか難しかったのでは?

「確かにそうですが、まぁ、ゆうてもネジで止まってるだけですからね、クルマも(笑)。ある先輩が『自動車部というのは“原寸大のプラモ”を作っているようなものだ』とおっしゃっていたんですが、まさにそのとおりだなと、今にして思います。なので、僕みたいに何でもかんでも分解しては組み立ててを繰り返して子供時代を送った人は、自動車部に入れば絶対に楽しめると思いますよ!」

1、2年生にも積極的に重要な仕事を任せていく

取材当日は、競技用車両のドライブトレインの組み立てが行われていた。8月下旬に、全日本学生ジムカーナ選手権大会があるのだ。
今年入部した1年生のメンバー。左から荒川昴平さん、山岸大将さん、山口大樹さん、池田 匠さん。みんな、早くもツナギ姿が堂に入っている。
部車に取り付けるセミバケットシートを運ぶ山岸さん。自動車部的には“1年生”だが、学年的には実は2年生。必修科目の都合もあり、2年生になってから入部したのだ。
サスペンション片手になにやら打ち合わせ中の木村紘一郎さん(右)と岩田正幹さん(左)。左の換気装置には「トヨタ博物館 クラシックカーフェスタin神宮外苑」のゼッケンが。

とはいえ、これまでも何もかもが明るく楽しく大満足! というわけでもなかったようです。

「僕の代が1、2年生だったときの先輩方は、いろいろな事情はあったのですが、下級生に仕事を任せるのではなく、極力ご自分たちで多くの作業をやる……という方針でやっておられました。それはそれで一つのやり方だと思いますので、決して不満はありません。しかし自分としては、できれば1年生や2年生も積極的に作業を経験し、そして楽しんでもらいたいと思っているので、なるべく多くの事柄を下級生たちに丸投げし(笑)、任せるようにしています」

そう語る田中主将の横で、主務の道端隼也さん(4年)も「うんうん」とうなずいています。

現上級生の総意による「1、2年生にも重要な作業をどんどんやらせる」という方針は今や完全に浸透しているようで、今年春の新入生勧誘も、田中主将らは後輩たちに企画立案や実作業をすべて丸投げしたようです。その結果、2年生たちはTwitter経由での勧誘などの新機軸を自主的に立案・実行し、本年度は見事8名の新1年生が入部するに至りました。

また、取材中に「ところで今この瞬間は何の作業をしているんですか?」と田中主将に尋ねても、「や、ちょっとわかんないですねぇ。おーい○○(下級生の名前を読んで)、今何やってんの?」と聞くほどの任せっぷり。頼りないんだか、下級生を信頼して任すことのできる器の大きな御仁なのか。おそらくは後者なのでしょう。当の下級生たちが本当に楽しげに、いかにも「充実してます」といった顔つきで整備作業をしているのですから!

学校の学年としては2年生ですが、自動車部には本年度から入部した山岸大将(ひろまさ)さんも、次のように証言してくれました。

「僕が通う小金井キャンパスは市ヶ谷キャンパスから遠く、夕方に入っていた必修授業の関係で昨年はどうしても入部することができなかったのですが、今年から入ってみて本当に大正解でしたね。大好きなクルマに毎日触れることができるんですから、これはもう僕としてはかなり充実した毎日! と言わざるを得ません」

目指すは勝利! 強豪復活に確かな手応え

ダートトライアル用のトヨタ・スターレット(EP82)は、全関東の大会に向けた練習中に大破。車両の制作が間に合わないために今年の全日本ダートラは欠場し、来年の雪辱を誓う。
新たなダートトライアル用の車両に装着するため、古い部車から部品を取り外す2年生の桑原 平さん。
こちらでは、3、4年生が部員紹介用のアンケートに回答中。左からマツダファンの星崎大雅さん、バイクもたしなむ木村紘一郎さん、2年前の「野宿事件」を語ってくれた柿沼健太さん。
ジムカーナコースを攻める法政大学のホンダ・シビック。より良いリザルトを残せるよう、今年の全日本ジムカーナも頑張ってください。

ただ、法政大学自動車部の面々が学年を問わず楽しくやっているのは確かですが、仲良しこよしのサークルごっこをしているわけではありません。やはり体育会ですから、すべての行動は“勝つため”にあるわけです。主務の道端さんは次のように内心を語ります。

「下級生たちに自動車部の活動を楽しんでもらいたいという気持ちにうそはありませんが、やはり結局は勝ちたいんですよ。自分ら上級生だけが動くのではなく、下の者らがさまざまな経験を積むことで、彼らに力がつく。そしてそれが結果として部の総合力を底上げすることになる……と考えているわけです」

道端さんら4年生には、そうしなければいけない理由があります。ここのところの法政大学自動車部は正直、あまり勝てていないから……。「でも、復活の手応えは確実に感じている」と、主将の田中さんは言います。

「仕事を任せたことで2年生や3年生がかなり成長し、僕らがいなくても1年生に対して的確な指示が出せるようになっています。チームとしての力は確実についてきてるんです」

古豪の完全復活まではもう少々の時間がかかるのかもしれませんが、この勢いと今のムードが続く限り、法政大学がリザルト上位の常連になるのは、そう遠くない未来の話かもしれません。そんな期待を確実に持てるほど、今、法政大学自動車部は“いい感じ”のムードに包まれています。部のムードメーカーのひとりっぽい柿沼健太さん(3年)も、「野宿事件(2年前の大会前日、部費不足のためにサーキット近くの道の駅で寝袋もなしに野宿したこと)」などの思い出とともに、実は休みの日には、同期の部員とマジメに走りの研さんに努めていることを白状してくれました。

最後に、田中主将がまとめます。

「自動車部というのは、自分でクルマを整備し、自分でクルマを走らせ、そして競うという、ある意味クルマのすべてがある部です。競うにあたっても、自分より速い人は必ずいますので、そのときに『なぜ、あの人のほうが俺より速いんだろう?』『自分とあの選手とでは何が違うんだろう?』ということを徹底的に考え、詰め、練習し、そして結果を出す。勝つときも負けるときもありますが、そういったプロセスというのは本当に楽しいものです。クルマ好きなら絶対に入って損のない部だと思いますので、興味がある人はぜひ、市ヶ谷キャンパスのわが自動車部をのぞきにきてください!」

(文=谷津正行/写真=ダン・アオキ)

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[ガズー編集部]