めざすは、優勝奪還!【学生フォーミュラ -京都大学編-】

全国の大学や専門学校などのフォーミュラチームにおじゃまして、日頃の活動風景やご自慢部員をレポート。今回は、学生フォーミュラカーの直近2回の大会で優勝と準優勝を獲得した京都大学のフォーミュラチームを訪ねました。

★京都大学フォーミュラプロジェクトKART プロフィール
●部員数:13名 ※部員数は2014年12月現在
●部車:KZ-RR12 (2014年度)
全長2,908mm、全高1,230mm、全幅1,460mm、車重200kg、
エンジンモデルYAMAHA WR450
●活動内容:プロジェクトリーダーとその補佐を務める幹部、一般メンバーで構成。年度末の車両シェイクダウンを目標に、各自が担当業務を適宜遂行していく。基本的には、ほぼ毎日活動中。チーム独自の勉強会を週に一度開催したり、他大学との意見交換会などにも積極的に参加している。
●活動実績:2014年度 第12回全日本学生フォーミュラ大会 準優勝
2013年度 第11回全日本学生フォーミュラ大会 優勝 など

2014年の全日本学生フォーミュラ大会では準優勝

“工場”から姿を現したKZ-RR12。撮影のために時計台前に移動した際は、キャンパスにいた人たちから注目を浴びました
“工場”から姿を現したKZ-RR12。撮影のために時計台前に移動した際は、キャンパスにいた人たちから注目を浴びました
ものづくりが大好きで入部を決意した薗さん。「“工場”で作業しているときは至福の気分」と話します
ものづくりが大好きで入部を決意した薗さん。「“工場”で作業しているときは至福の気分」と話します
取材時は、フレームとなる一部のパイプの切り出しがすでに終了。アルミフレームはKARTの代名詞と評判です
取材時は、フレームとなる一部のパイプの切り出しがすでに終了。アルミフレームはKARTの代名詞と評判です
“工場”内は天井も高く、広々とした空間。車両整備もしやすい環境で作業がグングンはかどります
“工場”内は天井も高く、広々とした空間。車両整備もしやすい環境で作業がグングンはかどります

京都大学は、国内で2番目に創設された旧帝大の流れを汲む国立大学です。キャンパスは学部と中枢機能が設置された吉田キャンパスと、自然科学・エネルギー系の研究所が置かれた宇治キャンパス、4つのクラスターからなる桂キャンパスの全3拠点。自由な学風を掲げており、学生たちからは、「のびのびと勉強や研究に打ち込める」との声も多く聞かれます。

京大フォーミュラチーム、通称KART(Kyoto Academic Racing Team)は、吉田キャンパス内、工学部の一角で活動中。部員の皆さんとは、キャンパスでひときわ目立つ時計台の前で待ち合わせし、さっそく“工場”と呼ばれる活動場所へ案内してもらいました。

活動場所の中は工作機械が整然と並び、工具箱もたくさん。そして奥には、準優勝を飾った車両、KZ-RR12の雄姿が。この光景を見て驚く取材チームに「 “工場”と呼ばれる理由がわかっていただけましたか」と2015年度のプロジェクトリーダーを務める薗さんが声をかけてくれました。

取材時は、KARTの2015年度シーズンが幕開けし、車両設計をほぼ終え、フレームの製作に取り掛かり始めたタイミングでした。これは去年より行動が早く、2015年の春にシェイクダウンをめざすスケジュールで、「現段階では順調です」と薗さん。

そもそもなぜスピード感を持ってプロジェクトに取り掛かったのでしょう。答えは、去年のシェイクダウンが大会の2カ月前だったので、走行データが存分に抽出できなかったから。ゆえに、不安要素を抱えたまま本番を迎えてしまい、狙っていた連覇が達成できなかったのです。

「当時は連覇を最大の目標にがんばっていました。しかし、叶わなかった。だから、今年は前年と同じ道を歩まないよう反省し、素早いスタートを切ったというわけです」

失敗を糧に、前に進む努力を重ねていく

工作機械を扱う井澤さん。フライス加工、溶接など、自分たちでできることは自分たちで行います。なお、桂キャンパスには、高精度の工作機械もあるそうです
工作機械を扱う井澤さん。フライス加工、溶接など、自分たちでできることは自分たちで行います。なお、桂キャンパスには、高精度の工作機械もあるそうです
設計中の図面と向き合う後ろ姿からは、すでにトップエンジニアの風格すら感じさせます
設計中の図面と向き合う後ろ姿からは、すでにトップエンジニアの風格すら感じさせます
最初は工具の名前もまったくわからなかった新入部員も、数ヶ月も経てば立派な戦力に
最初は工具の名前もまったくわからなかった新入部員も、数ヶ月も経てば立派な戦力に
KARTでは勉強会を実施して知識を継承しています。皆ものづくりが好きなので吸収力も抜群
KARTでは勉強会を実施して知識を継承しています。皆ものづくりが好きなので吸収力も抜群​

2014年度のプロジェクトリーダーは、薗さんと同学年の井澤さんが務めました。彼はシェイクダウンが遅れた原因を「メンバーを束ねるマネジメント力不足と新しいことへのチャレンジに時間をかけ過ぎたから」と分析しています。

KARTは、車両にアルミフレームを採用し続けています。これはKARTの伝統であり、最大の特徴。近年はバルクヘッド構造にこだわり、昨年度はその完成型を徹底追及していたのです。こだわり抜いたフレームは、めざしていた完成型に見事到達することができました。しかし、その代償として走行テストを行う時間を捻出することができなくなってしまったのです。

実は井澤さんはチームを牽引するリーダー職も務めながら、設計や製作にも加わるなど、プレイングマネージャーとして立ち回っていました。その結果、自身に仕事の負荷が想像以上にかかってしまい、メンバー管理が困難となってしまったのです。

「部員が少ないので、あれこれ各々が仕事を背負うのですが、気づいたらひとりに仕事の偏りが生じたり、課題に対応しきれなくなったりと、問題点が山積していたのです。でも、どのチームもリーダーは誰もが初の経験となるので、言い訳にはしません。もちろん、『もっと部員がいれば…』という泣き言もナシです」

2014年度大会の成績について井澤さんは「静的審査のデザイン(設計)が8位。これが想定外でした」と苦笑い。デザイン審査は、事前に提出された書類をもとに口頭試問で車体や構成パーツの設計の適切さ、革新性、加工性などを評価。テスト走行を重ねれば、これらの審査項目をじっくり検証できたはずでした。

「失敗を糧に前に進む努力を重ね続けることが賢明です。今年はリーダーではありませんが、幹部の1人として薗と一緒にチームを率います!」​

めざすは、優勝奪還!

前回大会での記念ショット。準優勝という成績に誇らしげ!と言いたいところですが、悔しさで胸がいっぱいなので笑顔が少なめです
前回の大会での記念ショット。準優勝という成績に誇らしげ!と言いたいところですが、悔しさで胸がいっぱいなので笑顔が少なめです
タイトなコックピット。エースドライバーとして車両を駆るのは、井澤さんです
タイトなコックピット。エースドライバーとして車両を駆るのは、井澤さんです
後輩の真横について設計指導をする修士生の山路さん(手前)。トークスキルの高さもさることながら、とにかく熱の込もりようが段違い!
後輩の真横について設計指導をする修士生の松岡さん(手前)。トークスキルの高さもさることながら、とにかく熱の込もりようが段違い!
チーム一丸となって再び優勝をめざすKART。ここから将来の自動車業界を盛り上げるエンジニアが現れるかもしれません
チーム一丸となって再び優勝をめざすKART。ここから将来の自動車業界を盛り上げるエンジニアが現れるかもしれません

前年度車両のKZ-RR12で理想のフレーム設計を実現したKART。2015年度の車両では、ブラッシュアップを施し、軽量化を実現させました。

前回の大会では、加速性能を競うアクセラレーションが20位。KARTの車両は、単気筒エンジンなので、もともと他のチームより加速性能がやや劣ることをメンバーは皆理解していました。薗くんは「今年は、加速性能を高めたいとの方向で意見がまとまったので、単気筒というハンデをカバーするべく、車両を軽くすることを心がけたのです」と軽量化の意図を教えてくました。

「軽量化以外にもコーナーリング性能を高めることも大きな課題」と続ける薗さん。とにかく見直すべきところを徹底的に洗い出して、改善につなげたいという気持ちがKARTには満ちています。

確かなエンジニア魂の持ち主は薗さんや井澤さんだけではありません。ふたりに話を聞いている場所とは離れたところから、修士生の松岡さんが後輩に向けて設計への熱い思いを語っていました。

「とにかくこだわり派が多いチームなんです」と再び苦笑いの井澤さん。「得てしてこだわり派の人間は、試してみたいアイデアをどんどん図面に反映させようとしています。当然、前向きととらえることができますが、あくまでも勝てる設計をめざすべきという考えだけは忘れないよう、常に声かけは行っています」と続けました。

シェイクダウンに向けて、今後はフレームとウイングの製作をチーム内で並行しながら行い、さらにハブシャフトやギアボックスなど、外注部品の発注を済ませる予定。新しい車両をいち早くカタチにするべく、着々と作業が進んでいます。

「めざすは優勝です!」と薗さんがキッパリ。「メンバー一同優勝することしか考えておりません」と井澤さんも力強く語ります。前回大会の反省を生かして、いっそうこだわりを突き詰めているKART。優勝の奪還が現実味を帯びています。​

関連サイト
【Facebook】Kyoto Univ. Formula Project KART
【HP】京都大学フォーミュラプロジェクトKART

[ガズー編集部]