【大学自動車部】好きな競技に自由にチャレンジ -横浜国立大学編-

全国の大学や専門学校などの自動車部におじゃまして、日ごろの活動風景やご自慢の部員を紹介するこのコーナー。今回は横浜国立大学のモータースポーツ部自動車部門を取材。和気あいあいとした彼らの活動を紹介します。

★​横浜国立大学体育会モータースポーツ部自動車部門 プロフィール
●部員数 :男子7名  ※部員数は2015年1月時点
●部 車 :トヨタ・スターレット
●活動内容:毎週水曜16時30分から、および土曜13時30分から夜まで、部室とガレージにてミーティングと清掃、メンテナンス作業を実施。走行練習は活動日以外の日時に各自が自由意思で行う。毎年「JMRC神奈川ダートトライアルシリーズ」の最終戦を東京大学と共催する。

4年生や修士のOBが気軽に出入りするガレージ

横浜市のちょうど真ん中、保土ヶ谷区に位置する横浜国立大学。構内はクルマでないとまわり切れないほど広く、方々に駐車場が用意されている。
モータースポーツ部自動車部門の部室&ガレージは、北門のそばの「N7-8」と呼ばれるエリアに立地。ガレージの前にはかつての部車や部品取り車が、きちんと並べて置かれていた。
2年生の塚本俊太郎さんは、この12月に3年生が卒部したのに伴い、新たに主将に抜てきされたばかりだ。
ダートトライアルに参加する藤井俊樹さんのトヨタ・スターレット。現在では自動車部が譲り受け、部車として走らせられるよう整備を行っている。

今回おじゃましたのは横浜国立大学の体育会モータースポーツ部自動車部門です。同大学のモータースポーツ部には他に「フォーミュラ部門」もあるため、部の正式名称はこのような形になっています。しかし学内での通称はやっぱり「自動車部」ということだそうですので、ここでも便宜上、自動車部門のことは「自動車部」と呼ばせていただきます。

さて、そんな自動車部を擁する横浜国立大学は、「実践性」と「先進性」「開放性」「国際性」を基本理念として掲げる国立大学。その歴史は明治7年(1874年)に神奈川県内に設置された小学校教員養成所にさかのぼります。

同養成所は翌年「第一号師範学校」に改称され、そして明治9年(1876年)に第一号師範学校が第二~第四師範学校を合併して「横浜師範学校」となりました。これが今日の横浜国立大学の源流です。

その後、横浜経済専門学校と横浜工業専門学校、神奈川青年師範学校も合わせた4つの旧制官立教育機関を母体に、新制国立大学として1949年に発足したのが現在の横浜国立大学。直近では5つの学部と23の学科、数多くの大学院が存在し、合計で7458人の学部生と2467人の院生が横浜市保土ケ谷区のキャンパスで学び、そして研究に打ち込んでいます。

それでは自動車部のガレージを訪ねてみましょう。いかにも国立大学らしい広大なキャンパスは、まるで一つの町のよう。その中の北門すぐそば、「N7-8」と記されているエリアの一角に自動車部の部室とガレージはあります。何人かの部員さんが熱心に部車のメンテナンスを行っていますが、そのムードはどことなくほのぼのしているというか、のんびり楽しんでいるような感じが見受けられます。

「わたしたちは全学連(全日本学生自動車連盟)には加入していないため全日本や全関東の公式戦には出場せず、各個人が割とカジュアルな感じでジムカーナやダートラ、ラリーなどに打ち込んでいます。ちょっとのんびりしているように見えるのは、もしかしたらそのせいかもしれませんね」

そう答えてくれたのは主将の塚本俊太郎さん(2年)。横浜国立大学の体育会は、基本的には3年生の12月に引退することになっているため、この1月から2年生の塚本さんが主将となったのだそうです。

それでもガレージでは、引退したはずの4年生が自分のクルマを仕上げていたり、院生となった人が研究の合間に作業をしていたりという姿が散見されます。どうやら規則にがんじがらめになるのではなく、比較的自由気ままに出入りすることができる部のようですね。

部員それぞれが好きな競技に打ち込める

駐車スペースに並ぶ部員のマイカー。4ドアセダンから本格クロカンまで、バラエティー豊かなクルマがそろっている。
基本的には自分のクルマで競技に参加する自動車部の部員。当然ながら、マイカーの整備にも力が入る。
こちらは修士1年のOB、石倉理裕さん。現役で活動できるのは3年の12月までだが、実際にはこのように、OBが気兼ねなく顔を出している。
ガレージには自動車の整備にまつわる工具が一通りそろえられており、ここだけで修理、解体、メンテナンスと、さまざまな作業ができるという。

「前述のとおり人数等々の関係で全学連には加入していないため、『それぞれが、それぞれのやりたいことをやっている』というのが、ウチの部の活動内容を表現するには適切かもしれません。ある者はラリーをやり、またある者はドリフトを。またそういった競技よりも整備することのほうが好き……という人間もいますしね。もちろん各自が勝手にやっているだけではなく、ダートトライアルの神奈川県戦(JMRC神奈川ダートトライアルシリーズ)には深くコミットしていて、毎年最終戦は東京大学さんとウチとで共催をさせていただいてます」

そう語る塚本主将。社会人の実力派選手も多数出場する県戦を共催するというのはかなりの大役であり、実際大変なことも多いそうですが、「でも、それを通じて学べることは本当に多い」と言います。そんな彼が自動車部に入るに至ったのは、やっぱり子供のころからクルマ好きだったから……という部分が大きいようです。

「物心ついたころから本当にミニカーが大好きすぎて、それを見かねた(笑)両親が僕に『頭文字D』のアニメを見せてくれたんですね。そこから、ただミニカーを集めるだけでなくモータースポーツ的な運転ができるようになりたいと強烈に思い、いわゆるアーケード型のドライビングゲームにハマりました」

小学1年生頃のことだったそうですが、その頃はまだアーケードゲームのアクセルやブレーキには足が届かないため、それらの操作はお母さんが代わりに担当。塚本少年はハンドルだけを操作する……というスタイルで練習に打ち込んだそうです。そして足が届くようになった小学4年生頃からは一人でドライビングゲームに打ち込み、本人いわく「無駄にうまくなりました(笑)」と。そして横浜国立大学に入学すると「早く実際のクルマを運転したい!」という一心で自動車部に入部したのだそうです。実際のクルマはどうでしたか?

「当たり前ですが、やはりアーケードゲームとはまるで違いますよね。コーナリング時にステアリングを切る量もゲームの2倍ぐらいは必要になりますし。……でも、とにかく自動車部に入ってみて本当に良かったと思っています。もちろん、クルマいじりの世界ではまだまだ全然ペーペーですが、整備などの具体的な経験を積めるというのは本当にありがたいことです。昨年までは部車がなく、自分のクルマを持っていない人は競技に出られなかったのですが、今年からはコレ(現在仕上げているトヨタ・スターレット)がありますので、もっともっと経験を積める自動車部になるはずです」

自動車部ならではの隠れた利点

インタビューに応えてくれた中国からの留学生、チョウ・キンさん。興味がある競技はジムカーナとのこと。
左から3年生の柴田洋暉さん、2年生のチョウ・キンさん、同じく2年生の田村文太郎さん。
部車として現在製作中のトヨタ・スターレット。このクルマが完成し、マイカーを持ってない部員でも競技に参加できるようになれば、活動の幅はぐっと広がるはず。
最後は新歓活動のための看板とともにみんなで記念撮影。

ほかの部員さんにも話を聞いてみましょう。まずは中国出身の留学生であるチョウ・キンさん(2年)。高校3年生のときに提携関係にある沖縄の高校に編入し、そのまま横浜国立大学に入学。卒業後も日本で仕事に就きたいと考えているそうです。

「僕が小学校1年のときに親が初めて自家用車を買ったんですね。ダイハツ ・シャレードのノックダウン生産版です。それでもうクルマのとりこになりまして、中国国内のモーターショーに行ってパンフレットをもらいまくり、諸元表の数字に萌(も)えているような子供でした(笑)。当時は中国製のクルマは品質が全然ダメだったので、やはり日本やヨーロッパのクルマに憧れましたね。で、新歓のときに自動車部のビラを見て『これはクルマというものを自分で運転できるチャンスだ!』と思い、一も二もなく入部しました。競技はまだまだこれからですが、そろそろジムカーナにチャレンジしたいと考えています」

同じく2年の田村文太郎さんも、新歓で配られた自動車部の勧誘ビラで入部を決めたとのこと。

「とにかくそのビラがすっごく魅力的で、なんというか引き込まれるような感じだったんです。『楽しそうだな!』って。実際入ってみた感想ですか? 運転免許が普通に比べてかなり安く取れましたし(自動車部の敷地内で先輩に運転を教わり、いわゆる『一発試験』に臨んだのだそうです)、普通は経験できないラリーなども身近なものとしてとらえることができますし、いやホント楽しいですよ!」

その“ビラ”を作ったのが、本来は引退しているはずの4年生にも関わらず「現役生以上の頻度でガレージに来ている」と噂される藤井俊樹さんです。

「堅い感じのビラにしてもダメだと思い、サークルっぽいといいますか、クルマに触れることの楽しさが伝わるような文面にしたんです。クルマはね、やっぱり楽しいですよ。いじりたいでもいいですし、競技に出たいでもいい。とにかく少しでも興味があるなら、ぜひ自動車部の門をたたいてみてほしいですね」

そんな藤井さんは来シーズン、ラリーの強豪が集まる群馬県戦にコ・ドライバー(ナビゲーター)として出場するそうです。「ラリーというのはドライバーの腕がやはり6~7割を占めるんですが、逆に言えばコ・ドライバーの力も3~4割は関係あるんです。やりがいのあるチャレンジだと思っています」と藤井さん。

自分に合ったスタイルでさまざまなチャレンジを行うことができ、運転免許を割安に取得することも可能で、そして「ウチの大学は自動車通学禁止なんですが、自動車部員だけは自動車での通学が許されている……という隠れたメリットもあります(塚本主将・談)」という横浜国立大学モータースポーツ部自動車部門。気になる方はぜひ「N7-8」にある穏やかなガレージを訪ねてみてください!

(文=谷津正行/写真=ダン・アオキ)

関連サイト
【HP】横浜国立大学モータースポーツ部自動車部門

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road