関西の強豪が目指す新たな挑戦!【学生フォーミュラ -大阪大学編-】

全国の大学や専門学校などのフォーミュラチームにおじゃまして、日頃の活動風景やご自慢の部員をレポート。今回は、設計審査やデザイン審査で特に強みを持つ大阪大学のフォーミュラチーム「OFRAC」を訪問してきました。

★大阪大学フォーミュラレーシングクラブOFRAC プロフィール
●部員数 :24名   ※部員数は2015年2月時点
●活動内容:
全体を統括するプロジェクトリーダーとサブプロジェクトリーダー、開発チームを統括するチーフエンジニアを配置し、その下にパワートレイン班、シャシー班などでチームを編成。毎週火曜に全体ミーティング、毎週土曜に全体作業日を設定、それ以外は各班で調整して作業を進めていく。学生フォーミュラの全国大会だけでなく、関西学生フォーミュラなどにも積極的に参加している。
●活動実績:
2014年度 第12回全日本学生フォーミュラ大会 総合16位
2013年度 第11回全日本学生フォーミュラ大会 総合2位 など

2014年度大会では9つのトロフィーを獲得するも……。

2014年度のマシンの勇姿。メインドライバーは当時プロジェクトリーダーを務めた住中さんだ
2014年度のマシンの勇姿。メインドライバーは当時プロジェクトリーダーを務めた住中さんだ
動的審査ではオートクロス種目とスキッドパッド種目で1位を獲得。写真はオートクロスの表彰
動的審査ではオートクロス種目とスキッドパッド種目で1位を獲得。写真はオートクロスの表彰
2014年大会で勝ち取ったトロフィーのすべて。これでも総合優勝できない厳しさ
2014年大会で勝ち取ったトロフィーのすべて。これでも総合優勝できない厳しさ
2014年大会後の集合写真。トラブルこそあったが、メンバーの顔からは1年間やり遂げた達成感が見える
2014年大会後の集合写真。トラブルこそあったが、メンバーの顔からは1年間やり遂げた達成感が見える

長い歴史を持つ大阪大学は、緒方洪庵が1838年に開いた私塾「適塾」が前身です。国立大学になってからも成長を続けた同大学は、2013年には私塾創設から数えて175周年という節目を迎え、現在、さらなる目標として「研究型総合大学」を掲げ、全国でも屈指の学生数を誇ります。大阪府の吹田市、豊中市、箕面市の3ヶ所にキャンパスを擁し、全国的にもトップクラスの大規模な大学であることも特徴で、今回取材に応じてくれた住中さんは、「キャンパスによって雰囲気が全然違います」と大学の多様性を教えてくれました。

大阪大学・吹田キャンパスに拠点を構えるフォーミュラチーム、大阪大学フォーミュラレーシングクラブ(Osaka-university Formula Racing Club)は、省略して“OFRAC(オフラック)”と呼ばれています。第1回の全日本学生フォーミュラ大会には、研究室が行なう活動のひとつとして参加したものの、数年後からは学生ならば誰でも参加できる活動として門戸を開き、現在も多くの学部生・修士生が所属しています。

OFRACは全日本学生フォーミュラ大会に参加を続け、近年では2010年大会で総合優勝、2011年は総合3位、2012年と2013年には総合2位と優秀な成績を続けていることから、強豪のひとつに数えられています。2014年大会こそ総合16位と振るわなかったものの、それでも9つの部門でトロフィーを獲得しているのは流石と言ったところでしょう。

2014年の大会で総合成績が振るわなかった大きな原因は、採点の大きいエンデュランス競技でマシントラブルがあり、無念のリタイアになってしまったこと。それまで順調に得点を重ねていたばかりか、前日にはエンデュランス競技で最速タイムを記録していただけに、悔しさも一層大きかったはず。

現在は、プロジェクトリーダーが住中さんから石田さんに引き継がれ、2015年大会での優勝を目指してマシンの製作が始まったところ。今回、この2人が取材に対応してくれました。​

目標は常に、本質の追求

作業内容ごとにスケジュールの締め切りが掲示されている。シンプルながら効果はてきめんだ
作業内容ごとにスケジュールの締め切りが掲示されている。シンプルながら効果はてきめんだ
2世代のプロジェクトリーダーが取材に対応してくれた。手前が現リーダーの石田さん、奥が先代の住中さん
2世代のプロジェクトリーダーが取材に対応してくれた。手前が現リーダーの石田さん、奥が先代の住中さん
OFRACには女性メンバーも在籍している。この日は切り出す前のアルミ材の長さを決める作業を楽しげに行っていました
OFRACには女性メンバーも在籍している。この日は切り出す前のアルミ材の長さを決める作業を楽しげに行っていました
現在製作中の2015年マシン。まさにフレームを組み上げている真っ最中
現在製作中の2015年マシン。まさにフレームを組み上げている真っ最中

現在、プロジェクトリーダーを務める石田さんは、「メンバーにはそれぞれ得意・不得意があって、そのなかで僕は、計画を進める時の中心になるのが良いかなと考えました」と、リーダーに立候補した想いを話します。全体を調整するリーダーは大変な仕事。石田さんはスケジュールに遅れが出ないよう、ファクトリーの壁面に「あと◯日」と締め切り日を明確に掲示し、それぞれの作業の進行状況を見守っています。

2015年の活動に限らず、OFRACには継続的に行なわれている指針のようなものがあるそうです。「本質を追求してエンジニアとしての成長を目指すことが、OFRACの目標です」と石田さん。そして“本質”とは、「どうやれば速くなるかなどについて、トライ・アンド・エラーの前に、考えを重ねること」と続け、住中さんもそれに頷きます。“本質を見極める”は大阪大学そのものが掲げるキーワードであり、OFRACも同じというわけですね。

2015年の活動では、もうひとつ課題もあるそうです。大学院生も所属するOFRACですが、今年はメンバーが留学などで離れるため平均年齢が下がるそう。石田さんは「これまで蓄積してきたチームの知識やノウハウを、若いメンバーが吸収して継承できるよう、メンバー間や先輩たちとのコミュニケーションを充実させたい」といった内容で解決を目指し、メンバーへ頻繁に声をかけています。

「今年はさらにもうひとつ」と石田さんは続けます。取材時にOFRACが活動していたのは驚くほど広いファクトリーでしたが、キャンパス内のあちこちで工事が行なわれており、今は仮住まいの状態だそう。製作の途中で引っ越しをしなければなりませんが、スケジュールを遅らせるわけにはいかないというわけです。また、新ファクトリーは今より狭い環境になりそうだとか。「逆に、今のファクトリーが良すぎるだけですけどね」と石田さんは苦笑い。

優勝に近づける秘策アリ!?

フレームパイプの溶接も自分たちで行う。この様な技術も代々先輩から後輩に受け継がれていく
フレームパイプの溶接も自分たちで行う。この様な技術も代々先輩から後輩に受け継がれていく
こちらはウイングを制作中。マシンデザインの美しさにも定評がある大阪大学、新しいウイングの形状にも注目だ
こちらはウイングを制作中。マシンデザインの美しさにも定評がある大阪大学、新しいウイングの形状にも注目だ
メンバーは意見を交わして考えを重ねていく。全国的にも強豪として扱われるOFRACのフォーミュラは、こうして成長してきた
メンバーは意見を交わして考えを重ねていく。全国的にも強豪として扱われるOFRACのフォーミュラは、こうして成長してきた
エンジンのレスポンス状況をパソコンで分析する石田さん。その姿はまさにF1のピットそのもの
エンジンのレスポンス状況をパソコンで分析する石田さん。その姿はまさにF1のピットそのもの

真面目な受け応えを続ける2世代のプロジェクトリーダー、住中さんと石田さん。笑顔が見たいと思った取材班は、これまでの活動で一番嬉しかったことを聞いてみました。

石田さんは「電装システムのほとんどを担当して、初めてエンジンが始動したときには嬉しかった」と振り返ります。2回生になった頃に実現した達成感。まさにエンジニアとしてのやり甲斐を感じたことでしょう。

一方の住中さんは笑って切り出します。「学生フォーミュラでは13インチのタイヤサイズが主流で、このサイズは限界性能が高いとされていたのですが、実際に使う状態の車両運動を加味して検討すると、10インチにも可能性が見えました。そして、自分が主導となって試してみると、車両挙動で実際に良いデータが出たのです」と。考え抜いた先に見えた、従来の定番を打ち破る発見。OFRACのノウハウは、こうして蓄積されていくわけです。

学生フォーミュラでいくつかある種目のうち、特に設計審査やデザイン審査といった、いわゆる静的審査で高い評価を集めるOFRAC。年間スケジュールでも審査に必要な書類製作には特に時間をかけているそうで、「静的審査はここ5年間1位を取り続けていて、これは僕たちの誇りでもあります」と石田さん。これを継続するのは2015年も変わらない。

では一方の動的種目はどうか。住中さんの代で従来の定番を打破した10インチのアイデアは、競技を勝ち抜く秘策になった。2015年に秘策はあるのだろうか?

「実はあります」と石田さんは今日一番の笑顔を見せ、「パワートレインのキーになりそうな技術を試作しているところです」と秘策情報をチラリ。今後の開発状況次第では、2015年の大会は嬉しい結果になりそうだ。

関連サイト
【HP】OFRAC(大阪大学フォーミュラレーシングクラブ)
【Facebook】OFRAC Osaka-univ. Formula RAcing Club

[ガズー編集部]