わたしの自動車史(前編) ― 渡辺敏史 ―
1967年生まれの僕がなんとなく覚えている自動車の原体験は、70年くらいのことだと思います。当時、家にあったのは初代トヨタパブリカ。周囲に比べるとマイカーの保有はやや早かったようですが、教員だった父親が山あいの学校への通勤のために、けっこう頑張って中古で購入したものだったようです。
輪郭を断片的に記憶している程度のパブリカに比べると、その後にわが家にやってきた初代三菱ミニカの印象は今も鮮明です。子供心にも変なカタチだなぁと思っていたそのクルマで、夏休みに出掛けたのは実家から150kmほど離れた別府でした。狭い車内に一家5人をぎゅうぎゅうに詰め込んで炎天下の国道10号線をモタモタと走る。今にして思えば乗車定員違反だったかもしれないあの時が、僕の初グランドツーリングだったのかもしれません。それは子供ながらに不快感が表立つ旅でしたが、わずか17馬力のミニカがみせてくれた移動の可能性は僕のクルマ人生の原動力となっているような気がします。
こんな鉄の塊を自分で自在に動かすことができるし、中にいればそこは自分だけの秘密基地のようでもある。いやぁクルマってすごい--。
そう思いはするものの、さすがに子供にとっては、それを買って乗り回すという将来像は果てしなく遠い。というわけで、僕もご多分にもれず、ミニカーを板床で転がしてみたり近所のクルマを写生したりという幼少期を過ごしました。そうこうしているうちにわが家のクルマは初の新車、2代目トヨタスプリンターへと入れ替わり、それのバンパーを磨いてお駄賃をもらえる週末が待ち遠しかったものです。そして、その頃には周囲の家にもワックスでピカピカに磨き上げられたクルマが収まり、学校帰りにはそれを眺めるのも楽しみのひとつでした。世はオイルショック前夜。クルマを持つということに、庶民がもっとも昂(たかぶ)っていたのがこの頃だったのかもしれません。なにせ無駄金を使って得るぜいたくを屈辱としか思っていないわが父親をして、その短期間に2回もクルマを買い換えているわけですから。
……と、クルマであればなんでも興味の対象だった、そんな僕のピュアネスを吹き飛ばす事件が起きたのは75年のことです。そう、それは言わずもがなのスーパーカーブーム。マンガで雑誌でそしてテレビで、別の星から舞い降りたかのようなそれらを目にした当時の男の子たちは一発で心をわしづかみにされてしまいます。対すれば、うちのクルマはスプリンター。持てる力を正直に示した160km/hのスピードメーターに落胆し、タミヤのブラックカウンタック欲しさに金を無心するようになるのに、時間はまったく掛かりませんでした。あの時そんな現象が発生し、結局ブラックカウンタックを買ってもらえなかった……。思えば今の仕事を選んだ僕は、その敵討ちをいまだに続けているのでしょう。
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[ガズ―編集部]
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