50年代アメリカ車黄金期(1959年)
よくわかる 自動車歴史館 第7話
T型フォードが発展させたデトロイト
今年(2013年)7月18日、アメリカのミシガン州デトロイト市が財政破綻し、破産法適用を申請した。以前から財政危機がささやかれていたとはいえ、かつてアメリカの、いや世界の自動車産業の中心として栄華を誇った都市の没落のニュースは、驚嘆と悲哀の念をもって受け止められた。2009年に破綻したGMとクライスラーがようやく復活し、一筋の光が見え始めていた時だっただけに失望感は大きかった。
デトロイトは、確かに自動車の聖地だった。ガソリン自動車を誕生させたのはヨーロッパだったが、20世紀に入って自動車産業の中心地はアメリカに移った。上流階級の遊びという意味合いが大きかったヨーロッパと違い、国土が広く実用的な移動の手段としての側面が強く求められたアメリカでは、当初から大衆化が進むべき条件がそろっていた。また、工業化が進んでいたことで中間層が増加しており、自動車を購入するだけの財力を持った人々によってマーケットが存在していたのだ。
自動車大衆化の先兵となったのが、T型フォードである。フォードはデトロイトに大規模な工場を建設してT型を量産し、湖にほど近い工業都市は自動車産業の隆盛とともに発展していく。多くの自動車メーカーが誕生したが、スケールを拡大できなかった企業は不況の波の中で脱落していった。1929年の大恐慌を乗り切ったのは、フォードに加えてゼネラルモーターズ(GM)とクライスラーの3社、いわゆるビッグスリーである。自動車産業が、アメリカの経済をけん引していくことになるのだ。
大衆が求めた大型化とハイパワー化
ビッグスリーの中でも、フォードの存在感は別格だった。1908年に発売したT型の1車種に絞った戦略が奏功し、業界標準のポジションを獲得して価格決定力をも手に入れた。コンベヤーラインによる生産性の向上もあり、一時は地球上のクルマの3分の1がT型になるほどの隆盛を示した。しかし、T型にこだわりすぎたことがアダとなり、フォードは次第に時代に取り残されていく。大衆車の市場はGMのシボレー、クライスラーのプリムスと分け合うことになり、フォードの独占状態は終わりを迎える。
第2次世界大戦中は自動車の生産は軍事車両が優先され、乗用車の開発はストップしていた。世界のどの国でも、事情は同じだった。戦後、いち早く民生用の自動車開発が進んだのは、アメリカである。戦場となったヨーロッパでは、生産設備の損傷がひどく、復興には時間がかかる。無傷だったアメリカは、軍需に向けられていた工場を民生用に転換すればよかった。3年もの間新車が発表されず、人々の間にも戦後の新しいモデルを待ち望む声があふれていた。
繁栄を謳歌(おうか)する中、大衆は大きくてパワフルなクルマを求めていた。フルサイズのボディーに大排気量のV8エンジンを搭載したモデルが、広く大衆の支持を集めたのである。オートマチックトランスミッション、パワーステアリングなどの運転支援システムも急速に普及し、イージードライブが当たり前になっていく。クルマの大型化とハイパワー化は燃料消費の増大を招いたが、ガソリンの安いアメリカでは大きな障害にはならなかった。
毎年モデルチェンジを行って装備はどんどん豪華になり、1年前のモデルは古めかしく見えるような印象がもたらされた。
最新のモデルに対する欲望を喚起することで、さらに需要を拡大していったのである。
テールフィンと共に去った黄金期
戦前にナンバーワンとなっていたGMが、新時代でもトレンドセッターとなっていた。アメリカ車にそれまでほとんど存在しなかったスポーツカーを生み出したのもGMだった。1953年、GMが開催していたモーターショー「モトラマ」に展示されたのが、シボレー・コルベットのプロトタイプである。白いFRPボディーをまとった軽量なオープン2シーターは熱狂的に歓迎され、急いで生産化が進められた。1954年にはフォードが対抗馬のサンダーバードを発表し、ハイパワー競争が繰り広げられることになる。
コルベットのコンセプトを提案したのは、GMのデザイン部門を仕切っていたハーリー・アールだった。高級車のカスタムボディーを製造していた彼は、GMに入社してデザインを担当するようになる。1927年に発表したラサールの成功により、スタイリングへの発言権を増していった。その頃から、デザインが自動車の販売に占める役割は重要な要素となっていたのだ。
アールが自動車のデザインにもたらした大きな要素が、テールフィンだった。キャデラックの1948年モデルには、控えめながらリアフェンダー後端に突起上の装飾が施されていた。アールはロッキードの戦闘機P-38ライトニングにインスピレーションを受け、垂直尾翼の形状をキャデラックのデザインに取り入れたといわれる。最初は小さな出っ張りにすぎなかったが、年を追うごとにフィンは巨大化していった。他社もこぞってフィンを目立たせるデザインを採用し、影響はヨーロッパ車にまで及んだ。
1959年のキャデラックで、テールフィンは頂点を極める。クロムで飾られて輝く鋭角的な形状は、ジェット戦闘機以上の攻撃性を感じさせた。2メートル近い巨漢だったアールにとっても、これ以上の増大は無理だったかもしれない。1960年代に入ると、熱が引いたようにテールフィンは縮小し、やがて消えていった。尾翼を模したものといっても、もともと空力的な貢献は皆無だった。戦勝の余韻と大量消費の賛美が一段落すると、過剰なゴージャスさは必要とされなくなったのだ。
アメリカ車が巨大化すると、ヨーロッパからその間隙(かんげき)を埋めるようにコンパクトカーが進出してきた。フォルクスワーゲン・ビートルが先鞭(せんべん)をつけ、アメリカでも人気を博していた。1958年には、画期的なFF車のMINIが登場する。ビッグスリーもコンパクトカーの開発に手をつけるが、はかばかしい成果は得られなかった。その後、驚異的な成長を遂げた日本から、丈夫で壊れにくいクルマが来襲する。テールフィンは、デトロイトの繁栄の最後の輝きだった。
1959年の出来事
topics 1
ダットサン・ブルーバード310型発売
1955年に発売されたダットサン・セダンは好評を博したが、110型、210型ともにトラックとシャシーを共用していた。310型で前輪独立懸架となり、本格的な量産乗用車が誕生したのだ。型式名しかなかった先代までとは違い、メーテルリンクの童話にちなんだ“青い鳥”を意味するペットネームが付けられた。
ボディーはセミモノコックで、エンジンは1リッターと1.2リッターが選べた。オースチンの1.5リッターエンジンをストロークダウンしたものである。市場の反応は良好で、発売1カ月で8000台のバックオーダーを抱えた。
直後にトヨタがコロナのマイナーチェンジで対抗する。しかし、ブルーバードの人気は盤石で、販売成績には圧倒的な差がついた。両車の戦いは60年代に入って激しさを増し、“BC戦争”と称されるようになる。
topics 2
トヨタ本社所在地がトヨタ町に改名
愛知県西三河にあった挙母郷は江戸時代に挙母藩として発展し、明治になって市制が敷かれ挙母市となった。1938年、設立されたばかりのトヨタ自動車が工場を建設する。近隣にある大府市や碧南市との誘致合戦の末、この地が選ばれたのだった。
戦後になってトヨタ自動車は大企業となり、地元では市名変更の意見があがり始める。商工会議所からの請願書が決め手となり、1959年に豊田市へと改称された。トヨタ自動車の本社の住所は、豊田市トヨタ町1番地となった。豊田市を構成するのは挙母地区だけではなく、足助や稲武なども含まれている。
2001年、富士重工の群馬製作所の住所が東本町からスバル町に変更された。こちらは工場部分だけの改名となっている。
topics 3
<世相>伊勢湾台風来襲
皇太子ご成婚の祝賀ムードに包まれ、日本は高度成長への道を歩み始めていた。そんな中、9月に明治以来最大規模となる伊勢湾台風が来襲し、浮かれ気分を打ち砕いた。室戸台風、枕崎台風と合わせ、昭和の三大台風と呼ばれる。
一時は894ヘクトパスカルにまで成長した台風15号は、9月26日の夕方に和歌山県潮岬に上陸する。その時点でも、勢力は930ヘクトパスカルを保っていた。その後も猛烈な勢力を保ったまま紀伊半島を縦断し、富山湾から日本海へ抜けるルートをたどった。
台風の進路の右側にあたる伊勢湾では高潮の被害が発生し、死者4,697名、行方不明者401名という大惨事となった。これがきっかけとなって、災害対策基本法が制定され、全国で防災計画が進められた。
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[ガズ―編集部]
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