【ミュージアム探訪】トヨタ博物館(前編)
自動車メーカーの名を冠した自動車博物館は、国内外問わずたくさん存在する。普通は誕生から現在までのメーカーの歴史が展示されているわけだが、このトヨタ博物館はちょっと違う。“トヨタの博物館”ではなく、“トヨタがやっている博物館”なのだ。
本館の展示フロアは2階が欧米車展示(19世紀末から20世紀中頃まで)、3階が日本車展示(1930年代から1990年代まで)となっていて、トヨタ車は3階に他のメーカーのクルマと一緒に展示されている。まず世界の自動車の歴史を学び、それを踏まえて日本車の発展の過程を知るという順序だ。常時120台以上のクルマが並んでいる。
1階ではトヨタ初の乗用車である「トヨダAA型」が出迎えるし、展示車の数はトヨタ車がいちばん多い。ただ、それはトヨタが日本最大の自動車メーカーであることからくる必然であって、宣伝臭はあまり感じられないのだ。自動車の歴史を知るための、重要なモデルがきちんと押さえられている。いずれもレプリカではあるが、世界初のガソリン自動車「ベンツ・パテント・モトールヴァーゲン」やそれに先立つ蒸気自動車「キュニョーの砲車」から見ていくことができる。
初期の欧州車からは、「ベンツ・ヴェロ」や「ド・ディオン・ブートン」をピックアップ。まさに生まれたばかりの自動車がヨチヨチ歩きをしていた時代だ。「パナール・ルヴァッソール B2」「ロール・スロイス 40/50HP シルバーゴースト」なども並んでいる。発展の中心が米国に移ってからの展示も、充実ぶりは変わらない。「オールズモビル・カーブドダッシュ」「キャデラック・モデルA」、そしてもちろん「T型フォード」と、見ているだけでアメリカが自動車大国になっていった様子が手に取るようにわかる。
素晴らしいのは、このT型フォードに来館者が乗って運転する機会があることだ。事前申し込みが必要だが、定期的に運転講習会が開かれている。現代のクルマとは操作方法が違い、自分で動かしてみることで100年前のドライバーの気分を体感するのだ。
本館の3階では、戦後の日本車の急成長ぶりを早足でたどっていく。
トヨタは「クラウン」「2000GT」から「セルシオ」「レクサスLFA」まで。日産は戦前の「ダットサン16型セダン」に始まり、ノックダウン生産の「オースチンA50」や「フェアレディZ432」が並ぶ。「ホンダS500」「スバル1000」「マツダ・ファミリア」などの有名なモデルがあるのはもちろん、「フジキャビン」や「フライングフェザー」といった珍車も選ばれていて、すでに乗用車生産をやめたメーカーの「日野コンテッサ」「いすゞ117クーペ」も見ることができる。
日本車の戦前のモデルは、新館の「生活と車」のコーナーにある。日本のモータリゼーションの流れを生活の変化とともにたどる構成になっていて、「山羽式蒸気自動車」「タクリー号」「円太郎バス」といった歴史的な車両の模型が展示されている。そして戦後の発展期を経て「トヨタ・プリウス」発売まで、時代を映すクルマを配置していく。トラックなどの商用車やオートバイもあり、当時の生活をしのばせる電化製品やファッションなどを一緒に展示してあるので、自動車の背景にある生活を実感できるのだ。
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[ガズ―編集部]
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