エンブレムは語る ―メルセデス・ベンツ編―
自動車の生みの親である2メーカーの物語
カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラー。ともに1885年という同じ年にガソリン内燃機関の自動車を発明した、いわば自動車産業の生みの親である。彼らの会社、すなわちBenz & Cie(のちにCarl Benz Söhne)とDaimler Motoren Gesellschaftは当初別々な道を歩み、1926年に合併してDaimler-Benzとなったこと、両社の合併によってメルセデス・ベンツというブランドが誕生したことはご存じの通りだと思う。
この2社のエンブレムは、ベンツが「BENZ」の文字に月桂(げっけい)樹をあしらったものだったのに対し、ダイムラーはいわゆるスリーポインテッドスターであった。もっとも、両社とも初期のモデルからこうしたエンブレムを付けていたわけではない。最初はともにパテント・モトールヴァーゲンと書かれた平板を車両に取り付けていただけだった。正式にエンブレムが車体を飾るのは、ベンツは1909年から、そしてダイムラーは1910年からだ。ベンツに関しては他にも数種類のロゴが存在したが、ダイムラーを象徴するエンブレムは、当初からスリーポインテッドスターだった。
ゴットリープ・ダイムラーはDaimler Motoren Gesellschaftを創業してわずか10年後の1900年に、66歳の誕生日を待たずに他界する。彼は生前の1881年まで、ドイツ(Deuz)という会社のテクニカルディレクターをしていた。この当時、彼は自分の家にスリーポインテッドスターのマークを掲げていたそうだ。それは将来自らの会社が繁栄するように願いを込めたものだったという。彼の死後、ポールとアドルフの2人の息子はダイムラー社の役員となり、新たなエンブレムを考案する会議の席でその話を披露した。役員会はすぐさまその提案を承認し、直ちにスリーポインテッドスターをトレードマークとして登録するのである。1909年6月のことであった。この時登録したのは、実はスリーポインテッドスターだけではなく、同時にフォーポインテッドスターも登録されたのだが、そちらが使われたことはない。こうして1910年のモデルから、スリーポインテッドスターのエンブレムがメルセデスのラジエーターグリルを飾ることになるのである。
1926年の合併後のエンブレムは、ベンツのエンブレムについていた月桂樹を周囲にあしらい、その内側にスリーポインテッドスターを配したものとなった。月桂樹こそないものの、現在ダイムラーAGが本拠を構えるドイツ、シュトゥットガルト駅庁舎の屋根には、今も巨大なスリーポインテッドスターが掲げられている。
(文=中村孝仁)
【編集協力・素材提供】
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[ガズ―編集部]
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