【モータースポーツ大百科】世界耐久選手権(後編)
- メルセデス・ベンツのCLK LMやポルシェ911 GT1などがしのぎを削った1998年のFIA GT選手権の様子。当時のトップカテゴリーは、ロードカーの製造が義務付けられていたGT1規定の車両で争われた。
エンジン・マニュファクチュアラーをF1に呼び込むことを目指してNA 3.5リッターに一本化されたグループCレースは、1991年にジャガー(XJR-14)、プジョー(905)、メルセデス(C291、ただしスポット参戦)の3メーカーを集めたものの、1992年にはプジョーとトヨタ(TS010)の2メーカーに減少。その後もエントリーの拡大は見込めなかったため、FIAは1993年度のスポーツカー世界選手権(SWC)開催を断念。1953年から40年間にわたって続いた伝統ある選手権は、惜しまれつつ幕を閉じることになった。
これに代わる形で1997年に始まったスポーツカーシリーズが、FIA GT選手権である。初年度はメルセデス・ベンツ(CLK-GTR)、ポルシェ(911 GT1)、BMWマクラーレン(F1-GTR)、パノス(エスペランテGTR-1)、ロータス(エリーゼGT1)などが参戦したものの、翌98年にロータスが脱落。さらに99年には、残りのGT1参戦メーカーも撤退したため、実質的にGT2が主流の選手権に移り変わっていった。
この後、フェラーリ(550-GTS)、マセラティ(MC12 GT1)、日産(GT-R GT1)などがトップカテゴリーに登場したものの、多くの自動車メーカーを呼び込むまでには至らなかった。大会の名称も2012年までFIA GT1世界選手権と呼ばれていたのが、2013年にはFIA GTシリーズとトーンダウン。2014年にはついにブランパン・スプリント・シリーズと名前を変えてFIAの冠が外れた。レースの実態も、自動車メーカーのためのチャンピオンシップというより、自動車メーカーが生産したレーシングカーをプライベートチームが走らせるためのシリーズに変化しており、かつてのような華やかさは失われていた。
どうしてFIAが主導したふたつの選手権は大きな成功を収められなかったのか。スポーツプロトタイプカーにせよ、GTカーにせよ、これまで世界的な耐久選手権に参戦したほとんどの自動車メーカーはルマン24時間で栄冠を勝ち取ることを最大の目標としてきた。したがって、FIAが主催する選手権もルマンと寄り添うように開催している時期にはまずまずのエントリーを確保できたが、ルマンと袂(たもと)を分かった途端に参加台数が減少し、自動車メーカーが離れていくという事態を招いてきたのである。最近は、ニュルブルクリンク24時間レースがGT3車両の世界的な人気を追い風にして、ルマン24時間に迫る活況を呈しているが、これはむしろ例外といってよく、やはり「ルマンあればこその耐久レース」という構図はいまも変わっていない。
こうした歴史的教訓をようやく学んだのか、FIAはルマン24時間の現状を受け入れる形で2012年に世界耐久選手権(WEC)の復活を決定。当初はアウディとトヨタの戦いだったが、2014年よりポルシェがこれに加わり、2015年からは日産も参戦する見通しとなっている。
この“新WEC”は、最高峰クラスのLMP1に関するレギュレーションを2014年に改正。ワークスに関してはハイブリッドシステムの装着を義務づけるとともに、1ラップあたりのブレーキエネルギーの最大回生量を2GJ、4GJ、6GJ、8GJのなかから自由に選択できる形式とした。さらに、エンジン排気量の規制を撤廃するいっぽう、1ラップあたりに使用できる燃料の量と流速を制限することで、さまざまなタイプのパワーユニットを受け入れる体勢を作り上げた。これは設立当初のグループCと近い考え方で、新たに参戦する自動車メーカーが今後さらに増えることも期待されている。
このように、FIAとルマンが手を結んだことで、なにもかも順風満帆のように思える世界耐久選手権だが、これまで何度も敵対する関係に陥ったことのある両者だけに、この蜜月がいつまで続くのか、いぶかしがる関係者は少なくない。
(文=大谷達也)
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[ガズ―編集部]
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