【モータースポーツ大百科】世界ラリー選手権(前編)
World Rally Championship(世界ラリー選手権)、略して「WRC」はFIA(国際自動車連盟)が管轄する世界選手権のひとつであり、シーズンを通じて世界各国で開催される個々のイベントの通算成績で年間タイトルを決める最高峰のラリー選手権のことである。
「よーいどん」で一斉にスタートして一番先にゴールに着いたものが勝ち、という誰が見ても分かりやすい方法で行われる“レース”に対して、一台ずつ、しかも広大なエリアを走るラリーはその全体像がつかみにくいために、いまだに“ラリー”そのものがよく分からないという人が多いのは残念ながら事実である。
しかしながら、自動車草創期のレースの姿をそのまま現在に伝えているのはラリーのほうだ。というのも、元をたどればレースもラリーも起源は一緒である。自動車が発明されて間もなく競走を始めた人間たちは、当然、普通の道を使って競い合った。すべての競技はいわゆる“公道レース”だったのである。安全面から程なくサーキットの中に閉じ込められたレースに対して(世界最初の常設サーキットといわれるブルックランズは1907年開業)、ラリーはそのままオープンロードに残った。それはとりもなおさず自動車の本質がより速くより遠くまで移動する道具であったからだ。ロードコンディションや天候などに左右されず、長距離を走ることによって車の耐久性や信頼性を証明しようとしたのである。
忘れてはいけないのが、昔も今もラリーは定められた時間通りにルートを走る正確さを競うものであるという点だ。現在のラリーはそれに加えて閉鎖されたコース(スペシャルステージ)でのタイムの優劣によって競われるが、指定時間通りにチェックポイントをパスするという原則に変わりはない。
WRCがFIAのチャンピオンシップとして創設されたのは比較的新しい。F1グランプリが現在の形でスタートしたのは第2次世界大戦後の1950年だが、WRCが始まったのはそれよりずっと遅れた1973年のこと。しかも最初はマニュファクチュアラー(登録された製造メーカー)部門のみで、ドライバーにもワールドチャンピオンのタイトルが与えられるようになったのはさらに下った1979年のことである。ただしヨーロピアン・ラリー選手権(ERC)はその20年も前に始まっており、個々のイベントはもっと長い歴史を持つ。
例えば最も古くから開催されているモンテカルロ・ラリーの初回は1911年、すでに100年以上の歴史があり(2014年は82回目)、1929年に初開催されたモナコGPよりずっと古い。ちなみにF1の場合はドライバーズタイトルが基本で、チーム(マシン製作者)のタイトルは“コンストラクターズ”と呼ばれる点がラリーとの違いを表している。FIA選手権には他にもスポーツカー選手権やツーリングカー選手権など、何度か休止、中断されたものがあるが、F1グランプリとラリーだけは創設以来継続して開催されている。
もともと独立したイベントを糾合したチャンピオンシップであるから、WRCは各ラリーがそれぞれにユニークな特色を持っている。基本的にターマック(舗装路面)ラリーだが雪に覆われることもあるモンテカルロ、雪と氷に閉ざされたスウェーデン、岩が転がる悪路で名高いアクロポリス(ギリシャ)、そして現在はWRCから外れているが、アフリカの原野を走るサファリ(ケニヤ)など、その舞台は千差万別である。F1はレース距離や開催スケジュールなどの要件はどのイベントでも原則同じ、最近ではサーキットそのものも大差ないが、WRCの中のクラシック・イベントと呼ばれるラリーは独特の個性を今も失っていない。それこそがWRCの魅力であり、そのすべてを制覇して得られるタイトルの価値は高いのである。
(文=高平高輝)
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[ガズ―編集部]
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