スーパーカー今昔物語(中編)
スーパーカー史の潮目が変わったのは、80年代になってから。70年代に生まれたさまざまな先進技術の民生利用が可能となり、エレクトロニクスやマテリアルなどの技術革新がいっそう進んで、天才たちが過去に描いた“理想のスーパーカー像”の実現が、技術的にも十分可能となってからのことだった。もちろん、世界的な景気の上昇機運も重要な要素であった。
真の復活は王者によって成された。フェラーリだ。80年代半ばから後半にかけて、(288)GTO、テスタロッサ、F40と、今なお人気のモデルを矢継ぎ早にリリース。対するランボルギーニはカウンタックとV8モデルをほそぼそと生産するのみだったから、明暗はくっきりと分かれていた。
F40の誕生は、スーパーカー史にとって、画期となった。それは、時速300kmオーバーの性能を確実に達成する、名実ともに真性スーパーカーの誕生だったからである。ホンモノのパフォーマンスを手に入れたスーパーカーは、やがて世界のミリオネアたちを熱狂させ、日本のバブル経済を先頭とした世界的好況の波という後押しもあって、老舗・新興入り乱れてのスーパースポーツカー乱発合戦へと発展する。
80年代末から90年代初頭にかけて、さまざまなスーパーカーの企画が発表された。景気後退とともに立ち消えになった計画も少なくなかったが、ごく少量ながらも実際に生産されたモデルのなかには、今なお多くのスーパーカーファンを魅了してやまないマシンがある。スーパーカーの金字塔、マクラーレンF1だ。奇才ゴードン・マーレイの手になるセンターシート3シーターのミドシップクーペは、一切の妥協を排した性能オリエンテッドな設計により、当時はもちろん、今なお世界最高水準の性能を誇る。レース参戦の予定がなかったにも関わらず、ほとんど改造を加えないままのマシンで(ワークスのサポートはあったが)プライベーターが参加したルマン24時間レースを制したことは、あまりにも有名な話。それだけ基本ポテンシャルに秀でた、いや、秀で過ぎたスーパーカーであった。今、その価値は10億円に達しようとしている。ランボルギーニ・ミウラ以降のスーパーカーにおいて、経済的にみても最も高く評価されているモデルだ。
マクラーレンF1登場後の90年代半ばともなれば、パフォーマンスの本格化はより顕著になっていく。なかには、80年代に人気を博したスポーツプロトタイプのシャシー設計をそのままロードカーに応用して、高性能とスーパーなカタチを一挙に手に入れるという“荒技”を駆使するモデルまで飛び出した。フェラーリの50周年記念モデル、F50もまた、フェラーリの持てるレーシングテクノロジーをふんだんに取り入れたモデルであった。
カーボンファイバー技術がスーパーカーのコアテクノロジーとなったのも、F40以降のことだ。特に、90年代初頭に登場した多くのスーパースポーツは、レーシングカーさながらの炭素繊維強化プラスチック(CFRP)モノコックボディーを有していた。マクラーレンF1やフェラーリF50はその筆頭格でもあった。
CFRP技術に早くから目をつけ、自らの名を冠したスーパーカーブランドを立ち上げたのが、オラチオ・パガーニである。彼の設計手法は、まさに90年代の申し子であった。ボディーやカウルはすべてCFRP製で、マシン設計はスポーツプロトタイプを発展させたもの、エンジンは故郷アルゼンチン(イタリア移民)の英雄ファン・マヌエル・ファンジオのつてを頼ってメルセデスAMGから供給され、完全オリジナル設計のパガーニ・ゾンダは誕生した。21世紀前夜のことである。
90年代半ば以降は、スーパースポーツの発展期であると同時に、スーパーカー民主化の時代でもあった。それは、またしてもフェラーリによって始められた。F355に搭載された2ペダルMTのF1マチックにより、スーパーカー人口は一挙に膨れ上がって、現代の恒常的なスーパーカーブームへとつながっていくことになる。
(文=西川 淳)
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[ガズ―編集部]
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