わたしの自動車史(後編) ― 桃田健史 ―

カートを始めたのは高校に入ってから。写真は武蔵野サーキットでのもの。
1992年にはインディ500に参戦した。マシンはローラT91シボレー。
1988年にアメリカで乗っていた、1987年型ポルシェ911カレラ。これを除くとセダンやバンなど、実用的なクルマを乗り継いできた。
乗り物関係のエピソードとしては、ポルシェを所有していたのと同じ時期にFAA(米連邦航空局)の自家用双発免許を取得している。
現在のマイカーはFCA USのピックアップトラックであるラム。ピックアップトラックは、アメリカではポピュラーなクルマなのだ。

「オートバイは体がむき出し。でもこれなら、体のまわりがしっかりガードされているし、公道は走らないから危険性が少ない」という、なんだかよく分からない解釈で、私の両親はカートを始めることを承諾した。
高校に入ってからヤマハのカートを購入したものの、当時は関東圏にカート場が数少なく、横浜の自宅から最も近かったのが八王子郊外の武蔵野サーキットだった。そこは米空軍横田基地に隣接する農家の横森さんが経営していたもので、コース内の貸しガレージに愛車を置かせてもらい、毎週日曜日、せっせと練習に通った。

また、当時はガソリンスタンドの日曜休業が義務化されていたので、土曜のうちに自宅近所のスタンドで、4リッターのエンジンオイルの空き缶2つに有鉛ハイオクを入れてもらった。それをタオルとビニール袋で巻いてボストンバックに入れ、国鉄に乗って行くのだ。現地に着くと、カストロールの2サイクル用オイルと混合。この8リッターを使い切るまで、さまざまなライン取りを試して走った。

春休みや夏休みの期間中、平日にサーキットに行くと鈴木利男さんによく会った。すでに全日本カートチャンピオンを経験し、当時はヤマハのロータリーバルブエンジンの開発を担当していた。レースの方では既に上のカテゴリーにステップアップしていて、ノバエンジニアリングからF3に参戦。マシンとして英国F3選手権でネルソン・ピケが使った「ラルトRT1」を購入済みだった。そんな先輩の後ろ姿を見ながら、私もレース生活を続けていくこととなる。それにしても、まさかその後、私がピケとインディ500のルーキー・オリエンテーションで同期になるとは……。

カートを始めてしばらくして、わが師匠、津々見友彦さんとも出会った。当時、全日本F2のテレビ中継番組(TBS系列・CBC制作)の解説者だった津々見さんに「いまカートをやっています。将来はレーサーかレーシングエンジニアになりたいと思っているので、アドバイスを頂きたい」と手紙を書いたことがキッカケだ。ちなみに、津々見さんが出演していた番組のピットリポーターは、のちにフジテレビでF1解説者となる今宮純さんと、同局ニュースキャスターとなる安藤優子さんだった。

一方、サーキットの外での事を思い出すと、高校3年から大学1年の頃に普通運転免許を取得。それ以来、日本とアメリカでさまざまなクルマに乗ってきた。
そのほとんどは、実用車だ。中古のトヨタ・カローラに始まり、その後もセダン、バン、ピックアップトラックなどが多い。趣味性が強いのは、1980年代後半にアメリカで乗っていたポルシェ911カレラくらいだろう。それと同じ頃、自家用双発飛行機の免許も取った。

今回こうして、私の自動車史を振り返る機会をいただき、自分史をひもといてみてあらためて感じたのは「原点がヘンテコリン」ということだ。「不良になりたい」というぜいたくな悩みから始まった私のクルマ人生。いつもクルマを“遠目”で見てきた。
その影響で、近年は自動車産業全体を俯瞰(ふかん)する経済系媒体での執筆が多い。そうした取材の過程で、機密保持(コンフィデンシャル)を条件として自動車メーカー、電機メーカー、ティア1(部品メーカー)各社と意見を交換する機会もあるのだが、先方から「桃田さんはクルマ好きとは思えないような、とても冷静な目で自動車産業を見ている」とよく言われる。

本稿の最後を、こんなことで〆るのは恐縮なのだが……。
いまさらながら「残り短き余生は、なにか音楽に関することをしっかりとやっていきたい」と思っている。
結局、私にとってのクルマは、人生の大きな遠回りだったのかもしれない。だが、世界各国でのさまざまなクルマたちとの出会い、そしてクルマに携わる多くの人々との触れ合いが、人としての私を成長させてくれた原動力だと思っている。これからも自動車産業に対する恩返しをしっかりと続けていくつもりだ。だが、どうしても音楽をやりたい。その気持ちを抑えられない。私の自動車史最終章とは、音楽との協調。
どうやら今の私も、新たなるヘンテコリンな原点に立っているようだ。

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[ガズ―編集部]

MORIZO on the Road